第4話 夕日に映えた告白

僕の視界は柚菜でいっぱいだった。

何しろ、僕はメデューサに睨まれたかのように目をそらすことができなくなってしまったからだ。

僕は今、唐突の告白を受けた。

告白されるのはここ最近珍しいことではないのだが、なぜか心臓がドキドキしてしまう。

分かった、この瞳だ。

この瞳のせいで僕は心が揺らいでしまうのだ。

何ドキドキしているんだ!僕は!


「返事は放課後でいいよ」


柚菜はぱちくりとウィンクをする。正直言って、僕は今一瞬だけ柚菜に心を奪われていた。

僕の恋はこんな些細なことでも揺らいでしまうのか。思考をリセットするために僕は柚菜から黒板に目を移した。


そして時は飛んで放課後。僕と柚菜しかいない教室にはオレンジ色の夕日が差し込まれていた。

本当にここに至るまで時間が短く感じられた。

考えれば考えるほどに分からなくなってしまうのだ。ただ、いつものように振ってしまえばいいというだけの話なのに、なぜこんなにも考えてしまうのだろうか。多分、僕の本能がこの子を離してはいけないと言っているのだろう。

いくら表面的には美晴が好きだと思っていても、本能の中では自然と二人を天秤にかけてしまっている。

優しくて絶世の美女。だけど僕のことは興味がない。

優しくて絶世の美女。さらに僕のことが好き。

普通の人だったら絶対に後者の方を選ぶだろう。

そこが僕の本能の中で引っかかっている部分なのである。

もしも、僕が柚菜を振って、美晴を追いかけたとしても美晴が必ず振り向いてくれるかと問われるとそういうわけではない。

つまりは、リスクと紙一重なのだ。

こんな可愛い女の子を振ってしまうなんて、絶対に後悔する。

後悔しないためには…


「返事きいていい?」


柚菜は窓から夕日を眺めながらそういった。


「あぁ…うん…」


さて、どうしようか。僕は美晴のことが好きだ。でも、美晴は僕のことは興味ない。

この世は自分の想いが必ずしも、まかり通るとは限らないのだ。

だったら、今、目の前の求められているこの思いを受けてあげれば、全てが丸く収まるのではないのだろうか。

誰も傷つかないで済む。

名残惜しいけれども…名残惜しいけれども…

僕にはこんな可愛い子を振れるような自信がない。

僕は「いいよ」と言ってしまおうと口を開いた。

と、その時僕の体はピタリと止まった。

いやいや、待て。

惑わされるな!僕っ!

こんなの典型的なトラップじゃないか。

いつの日かに決めた僕の想いはどこにいってしまったのだ。何回振られても、何十回振られてもずっと想い続けるんじゃなかったのか。

僕はどこの誰でも代用できないほどに美晴のことが好きなんだ。

そして、「初恋の相手」。唯一無二の存在なんだ!


「ごめんなさい!」


僕は勢いに任せてそう言ってしまった。

気がつけば、僕の心情は逆転していたのだ。

そう、これでいい。

柚菜には、申し訳ないと思うけれど、僕には本当に想わなければいけない子がいるのだ。

てっきり忘れかけていた。

柚菜はその言葉を聞いた瞬間に目に涙を浮かべ始めた。

そして、やがて涙は粒となって零れ落ちる。

悲しみ…好きな人に振られるということは当事者にしか分からない悲しみというものがあるのだ。

それが分かっている僕にとってのこの光景はとても辛いものだった。


「そう…」


いかにも、柚菜は悲しげな雰囲気を纏わせながら、ポテポテと教室を出て行った。

教室のドアはガラガラと音の余韻だけを残す。

何度も、僕の頭の中では柚菜の泣き顔がプレイバックされていた。


「はあぁー。ごめんよ…」


気づけば、僕は一人の教室でそんなことを言っていた。


第4話 ~fin~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る