天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達
くらまゆうき
第1章 紅い誓い
#注意
今作は天冥聖戦〜聖なる伝説への軌跡の外伝物語です。
まずは天冥聖戦本編をお読みになられた方が設定や出てくるキャラクターの魅力が増すので是非読んでください。
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正義に形はない。
答えもない。
それぞれが正しいと信じる道が正義である。
これは彼らの物語だ。
ある者の栄光のために命を落とした英雄達の物語。
それはとある3人の真紅の甲冑に身を包んだ侍達から始まる。
3人組の侍が馬を引いて遠くを見る。
「我らは何処へ行くのであろうか。」
そうつぶやいて空を見上げる口上に髭を生やす侍。
名は与平(よへい)。
正義感が強く、この3人の中では兄貴分の様な存在だった。
常に生真面目で正解の道を歩もうとする。
生前でも数多くの死線を従軍してきた歴戦の猛者。
赤い鎧兜に身を包み多くの仲間と共に何処かへ歩んでいる。
与平の見渡す先には明治時代の幕府軍や新政府軍が足並みを揃えている。
「先の世の日の本は泰平の世となったか。」
「そう思うか? 連中は別の軍勢なるぞ。 それに徳川の旗印を掲げている。 我ら武田家はどうなったのだ···」
そう与平の隣でつぶやく男。
綺麗な顔立ちの若武者。
名は真作(しんさく)。
3人の中でも見た目年齢が一番若く、常に手柄を求めている。
時には手柄のために無理をしてしまうが与平が上手く制御して今日まで生き延びてきた。
彼らは美しい青空の下。
ただ前へ進む。
そして駐屯地とされる大きなショッピングモールへ着いた。
「ほう。 大きいな。 集結地はここであったな。」
与平は馬を休ませて周囲を歩く。
「な、何を始めるのやら···また戦うのかの···」
悲壮な表情で肩を落とす口と顎に髭を生やす頼りない男。
名は太吉(たきち)。
気弱で戦いを避けたがる性格。
真作とは気が合わず時々ぶつかるが与平が仲裁する。
何をするにも否定的でとにかく弱気。
「そうじゃな。 おい太吉よ。」
「へえ?」
「周囲の赤備え衆と連携して動くぞ。」
「へい。」
侍や新政府軍を集めて武装集団を組織している。
数は2000人ほど。
人間が暮らす下界。
それとは別に「霊界」と言われる死者が過ごす世界がある。
下界と景色も時の流れも同じだが決して交わる事のない平行線次元世界。
この日本にも霊界がある。
日本史で生きた者達は現代の日本を見て絶句する。
文化も発展も。
彼らは何か理由があり霊界にいる。
守護霊や浮遊霊となって。
時には怨霊にもなって。
与平は浮遊霊。
他の2人も同様にこの日本の未来を見るために彷徨い続けている。
平凡に暮らして日本を見守り続けていたある日。
怨霊の群れが現れた。
霊界の秩序を守っていた安良木皇国(やすらぎこうこく)の兵士が忽然と姿を消した事が原因だ。
争いの日々。
誰かが統治するわけでもなく霊界はただ争うだけの日々になっていた。
そんな終わりのない日々を与平達は生き延びていると、とある男に出会った。
「そこもと。 腕が立つではないか。 さすがは赤備えだ。」
「滅相もない。 して同じ赤備えの貴殿は何者なるか?」
顔に傷が無数にある男は与平達と同じ赤備えの侍だ。
「おう。 申し遅れた。 拙者は土屋重忠と申す。 かつては山県昌景様にお仕えしていた。」
「なんと!? 同じくじゃ。 最期は何処で?」
「長篠のおりに。」
「さようか。 某は川中島での。」
「そうであったか。 上杉軍は勇猛であったな。」
生前の話で意気投合した土屋と与平。
「して我らに何用か?」
「うむ。 近頃増えてきた怨霊に対抗すべく兵を募っておる。 貴公らは腕が立つ故に我らの仲間にならぬか?」
それは突然の誘いだった。
3人でこの霊界を生き延びるのは困難と悩んでいた与平達には願ってもない誘いだった。
そして3人は土屋に連れられて「狐の神」が指揮する武装集団の拠点に身を置いた。
「な、なんと!? 皇国兵ではないか!!」
「口に気をつけよ。 あのお方は鞍馬虎白様(くらまこはく)じゃ。 この集団の指揮官だ。」
「皇国軍は全滅したのか···」
「忽然と姿を消したのだが鞍馬様はご存知ないようじゃ。」
虎白は記憶が完全ではない。
記憶喪失で過去の事を覚えていない。
霊界を警備していた皇国軍の行方を知らないのはもちろん、皇国の存在すら知らなかった。
「拙者らは既に一度怨霊と戦っておる。 あの鞍馬様は大層な戦上手。 案ずるな。」
「皇国兵の指揮下とは···」
「何やらただの皇国兵でもなさそうじゃがな。」
「は、はあ。」
「うむ。 明日より演習を始めるぞ。」
「ははっ!!」
この様に土屋の努力もあって兵は増えていった。
間もなく起きる怨霊との戦いに備えて。
そして与平達は訓練を繰り返して武装組織の動き方を頭と体に叩き込んだ。
月日は流れて与平達は集結地点に足を進めていた。
美しく青い空。
土屋の騎馬に続く無数の赤備え。
「止まれーい!! ここが集結地じゃ。 各々。 鞍馬殿より指示があるまでここにて休息せよ。」
ショッピングモールに到着して馬を休ませて与平達も座り込む。
「なあ真作。 また大戦さになるかの。」
「恐らくは。 でなければここまでの集結はなさらないでしょう。」
「嫌じゃなあ。 霊界で死ねば何も残らぬぞ···」
太吉が顔をしかめてうつむく。
「これ太吉。 赤備えの武士が弱気な事を申すでない。」
「しかし与平···極楽浄土を見れずに消えるのはのう···」
弱気な太吉を見てため息をついて遠くを見る与平は土屋を見る。
「大殿のお出ましだ。」
与平の視線の先には老兵が土屋と話している。
周囲の赤備えは立ち上がり老兵に一礼している。
「お手前ら。 面を上げよ。」
しおれた老人の声で赤備えが顔を上げてずらりと並ぶ。
「うむ。 新たに加わった者もいるじゃろうからな。 わしがこの赤備え衆を率いておる。 椎名厳三郎(しいなげんさぶろう)じゃ。」
厳三郎は美しく隊列を組む赤備えを見て満足そうにうなずく。
「貴公らに集まって頂いたのは他でもない戦が始まるのじゃ。」
赤備えに集結の理由を淡々と話している。
与平達は黙って聞いている。
「へうげもの? はて。」
厳三郎がへうげものとの一度目の戦いを話し出すと与平達は首を傾げた。
しかし隣を見ると殺気に満ちた表情の赤備えがいる。
一度目の戦いを経験した者だ。
どんな見た目なのか。
どれだけ恐ろしいのか。
その目で見た者は恐怖と武士道の狭間で葛藤する。
「な、何やら恐ろしい妖怪の様じゃな···」
「そ、そんな···恐ろしや···な、なあ与平。 今からでも遅くはねえ。 帰ろう。」
太吉が与平の体を肘で突く。
「馬鹿を申すな。 帰って何処へ行くと申す?」
「そ、それは···」
「貴様ら黙らぬか。 おいそこ元。 その様な弱気な覚悟では決して生き残る事は叶わぬぞ。」
へうげものとの戦いを経験した赤備えは新入りの与平達を睨む。
「あやつは倒さねばならぬ。 悍ましい見た目じゃ。 しかしな。 あやつが生きておる限り我らに安息はないぞ。」
与平達に話す赤備えは鋭い目で見ている。
「左様でござるか。 おい太吉。 いい加減腹をくくるのじゃ。 大殿も土屋様も勇ましく皇国兵と共に戦うぞ。」
「生き残る事が全てじゃ···万が一の時は逃げるぞ···」
そして厳三郎の話が終わると赤備えは前進を開始する。
「馬から降りるのじゃ!! 敵に気づかれてはならぬ!!」
土屋の号令に従い馬を引いて決戦の地へ向かう。
怨霊の群れは「エン·シャオエン」の率いる軍勢と交戦していた。
2000人の軍勢は背後より接近して攻撃の機会を待つ。
与平達は軍勢の両翼に展開して突撃の準備をする。
「第一小隊!! 撃てー!!」
ババーン!!!
新政府軍の射撃隊が火を吹く。
「今じゃ!! 突撃じゃ!!」
射撃の音と同時に騎馬隊は敵へ向かう。
ゴゴゴゴゴー!!!!
馬の蹄の音が響く。
「かかれー!!!」
「すわ一番槍!!!!!」
先陣を切ったのは与平だった。
突然の背後からの銃撃に驚き応戦しようとした怨霊の指揮官の首をはねた。
一心不乱に敵をなぎ倒す。
走り出した騎馬隊は止まらない。
「それー!! 騎馬隊突撃じゃ!!! 戦場をかき乱すのじゃー赤備えよこやつらを焼き尽くすのじゃ!!」
厳三郎の号令で戦意の上がる赤備えは敵を焼き尽くす速さで進んだ。
『全隊構えー!! 駆け足で接敵前に一斉射撃! その後は敵を駆逐せよ! かかれー!!』
新政府軍は銃剣を装着して乱戦に身を投じた。
赤備えは新政府軍の射撃が当たらない様にあえて敵陣の奥深くまで進んだ。
「殿と分かれる!! 半数は付いて参れ!!!」
赤備えは厳三郎と土屋の二手に分かれて八の字に円を描きながら敵を倒して進む。
「な、なんと···この息の合い方は···」
ただ付いて進む与平達は厳三郎の息の合い方に圧倒されていく。
「勝てる。 この戦は勝てるぞ!!!」
真作は口角を上げて馬を走らせる。
「見ろ!! 皇国兵と女武者が手勢を率いて進んで来るぞ!!」
虎白の側近の竹子達が中央突撃を開始した。
それを確認した厳三郎と土屋は隊列を変える。
「者共!! このまま鞍馬殿の手勢に並走せよ!! 赤子たりとも近づけるでないぞ!!!」
鬼の形相で土屋は指示を出す。
与平は土屋の直ぐ背後を進む。
それに真作と太吉も続く。
「な、なあ。 与平···前に出すぎではないか···何馬身か下がらぬか····」
「土屋様は先頭を走っておられるのだ!! 我らが下がるわけには行かぬぞ!! おい太吉!! いい加減腹をくくらぬか!!!」
与平と太吉が話していると土屋が一瞬振り向く。
「お、おい。 土屋様に聞こえる。」
「ふっ。 聞こえておる。」
「も、申し訳次第もござらぬ···」
「構わぬ。 しかし太吉と申したか?」
「へえ。」
周囲の敵を蹴散らしながら土屋は口を開く。
「誰もが生き残りたいのやも知れぬな。 主の厳三郎様もあの鞍馬様でさえも。」
「と、当然です···」
「左様。 ならば選択肢は2つじゃ。 敵をここで倒して生き残るか。 はたまた何処か遠くへ1人で行くかじゃ。」
土屋の言葉に太吉は揺らぐ。
「しかし忘れるな。」
もう一度太吉の方を振り返りまた敵を斬り倒す土屋は続ける。
「仮に何処かへ行ってもこやつらは消えぬぞ。 そしていつかその方や隣の仲間を殺しに来る。 ここで皆と共に力を付けるか。 逃げ惑うか。 好きな方を選ぶのだ。 拙者は赤備えたるものその真紅の鎧を身に付ける誉れを持つべきだと思うがな。 しかし構わぬ。 逃げても良いぞ。 しかし鎧兜は置いていけ。 赤備えに臆病者はあってはならぬ。」
土屋の言葉は完結だった。
戦うか逃げるか。
好きな方を選べと。
死にとうない。
まさかこんな危険な戦に連れて行かれるとは思わなんだ。
何故平穏に暮らせぬのか。
いつの世も戦ばかり。
与平はいつも勇ましい。
それを見て真作は憧れる。
わしは憧れぬ。
幼き頃より同じ村で育った。
共に苦楽を共にした。
しかし死にとうない。
「おい!!! 太吉!!」
「・・・・戦いまする。」
太吉は与平の怒鳴り声に思わず口にした。
土屋は一瞬口角が上がり前を向いて怨霊の群れを蹴散らし始めた。
「鞍馬殿が突撃して参るぞ!!!!」
土屋が叫ぶ。
「者共!! 小童の隊列を守ってやるぞい!! 並行して隊列の両翼を守れい!!!」
厳三郎が叫び土屋に手を振る。
すると8の字回転で進む騎馬隊は厳三郎と土屋の二手に分かれて虎白が突撃するその両翼を守った。
与平達は乱戦の中、土屋とはぐれて気がつくと厳三郎の直ぐ後方に付いた。
「何故我らが盾になるのだ・・・」
太吉がつぶやく。
「それはあの鞍馬様なる皇国兵が総大将だからに決まっておろう。」
与平は太吉に応えると険しい表情で与平を見て黙り込む。
「すまんのお手前ら。」
「と、殿!!」
厳三郎が振り向き2人を見る。
「この戦は負けられぬのじゃ。 そして今回かぎりじゃ。 勝てるのなら。」
「は、はあ・・・と、殿!! どこまでもお供致す。」
与平が応えると厳三郎は首をコクリと下げて前を向く。
「間もなく敵大将じゃ!! 者共!! 覚悟を決めるのじゃ!!」
厳三郎の声に赤備えの全兵士が覚悟を決める。
「うわああああ!!!!」
与平達の前方から叫び声がする。
「何事じゃ。 皇国兵の身に何かあったのか・・・」
やがて厳三郎の馬の足が止まる。
それに続き与平達も馬を止める。
「何者じゃあやつらは・・・」
与平がつぶやく。
その視線の先には漆黒の鎧。
長い槍を構えて不気味に虎白の兵士を突き刺す敵兵。
黒騎士。
「なんと。 進撃が止められたか。」
与平は厳しい表情を浮かべて黒騎士を見る。
ドッカーン!!!!!
「ヒヒヒーン!!」
「こ、今度はなんじゃ!?」
「どわあああ!!!」
突然の爆発。
真作の馬が驚いて真作を落とす。
「こ、これ!! 待たぬか!!
「大事ないか真作!!」
「心配ご無用。」
与平は真作の無事を確認すると爆発の先を見る。
「はあ・・・はあ・・・さらに、てつはうを・・・食らわせてやれ。」
煙の先にはモンゴル帝国の装束。
「元」の旗を掲げるボロボロの兵士達。
エン・シャオエンと部下達。
「何やら小童の奴。 頭を抱えておるな。 下馬して方円陣に加わるのじゃ。」
虎白が頭痛に苦しむのを不思議に思った厳三郎は馬から降りて虎白の方円陣に加わった。
「周囲を守るのだ!! 太吉、真作!!」
「おう!!」
「敵に囲まれておるぞ・・・その皇国兵は誠に無事なんじゃろうな・・・」
「無礼な事を申すな太吉!!」
そして虎白達は意を決して上級悪魔達を目指して進んだ。
まだ生き残っている黒騎士が死物狂いで襲いかかってくる。
その時。
「じじい!! 右!!」
虎白が叫ぶ。
(間に合わぬ。 殿は死なせるものか。 未来を。 託しましたぞ。)
与平は反射的に厳三郎を刺そうとした槍に飛び込んだ。
「ぐはっあ・・・と、殿は我ら兵士がお守り致す・・・さ、さあ行かれよ・・・」
「な、何をしておるのだ!! 与平!!!」
太吉は突然の与平の行動に驚き声をあげる。
虎白と厳三郎は倒れる与平に構う事なく先へ進み敵を斬り倒していく。
「お、おい・・・消えるでない・・・」
しかし与平からは返答はない。
安堵した表情なのか。
最後に主を守れた誉れなのか。
与平は幸せそうに消えていった。
悲痛の表情の中、真作が太吉を掴む。
「お、おい!! 行くぞ!! 土屋様達は先に進んだ。 ここにいると我々も!!!」
「う・・・うわあああああ!!!!」
真作と太吉は更に進むと厳三郎と土屋は背中を合わせて立ち止まっている。
「良いか者共!!! ここで踏ん張るのだ!! 小童が必ず敵大将を討ち取って来るぞい!!!」
『おおおおおおおお!!!!!!!!!!』
そしてその場に残った赤備えは神通力が無くなるギリギリまで奮戦した。
しばらくして。
上級悪魔は竹子が討ち取った。
しかしへうげものは逃走した。
新政府軍の指揮官。
新納忠介の首を食いちぎって。
戦場には竹子の妹の優子の悲鳴が響く。
しかし真作と太吉は新納の死よりも兄貴分だった与平の死が重くのしかかっている。
「あやつはうつけじゃ。」
「なに!?」
「人のために死ぬなんぞうつけのする事じゃ・・・」
「おのれえ・・・」
真作と太吉は険悪になりその後虎白は大天使ミカエルから天上界へ召集された。
虎白は自分の兵士と竹子、優子を連れて天上界に行った。
「本当に赤備えを抜けるのか?」
「当たり前じゃ。 いつ消えるかわからぬ霊界より天上界に行く。 わしは与平の様になりとうない・・・」
「この卑怯者があ・・・」
そして真作は下界で厳三郎の元で赤備えとして残った。
太吉は竹子の幕府軍に加わり天上界へ向かった。
わしにはわからぬ。
誰かのために死ぬなんぞ。
ましてや主のため。
死ねば何も残らぬ。
自分が生きてさえいればまた何か起きるかも知れぬのに。
あやつはうつけじゃ。
わしは天上界で新しい自分を探す。
それでいいじゃろ。
さらばじゃ。
与平。
真作。
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