1話/世界編:五人の狂演者達
〇導入
一同:わー!
会場となっている喫茶店のレンタルルームに、五人の男女の歓声が木霊する。長テーブルに並んだプレイヤー達は、GMと長年TRPGで遊んでいる仲間だ。
普段は現代を舞台にしたTRPGを遊んでいるグループなのだが、今日は違った。兼ねてよりGMがやりたかったソード・ワールド2.5を遊ぶ日が来たのだ!
ソード・ワールド2.5は、剣と魔法のTRPG。冒険者となって、様々なモンスターを退治したり、ダンジョンに潜ってお宝を探したり。いつもとは違う世界で、一味違った冒険を繰り広げることが出来る。
プレイヤー達はその冒険がいつ始まるのかと、今か今かと待ちわびている。
だが、まだ早い。
郷に入っては郷に従え。我々は冒険の舞台となる世界と、そのルールを知らねばならない。
というわけで、各々の口を滑らかにしつつ、頭を異世界にスイッチさせるためのイントロダクションを始めるのであった。
お店から前もって借りておいた会議用キャスター付きホワイトボードを運び込み、GMは水性ペンを構えてプレイヤー達に告げる。
GM:まずはルールブック一巻から三巻をご覧ください。三人の女性が描かれていますね? 実はこのイラスト、この世界を作った三本の『始まりの剣』の擬人化なんですよ。
プレイヤーB:世界、剣が作ったのか。だからソード・ワールドなんだ。
プレイヤーD:エクスカリバーとゲイボルグと……。
GM:ゲイボルグの時点で剣じゃないな?
プレイヤーC:デュランダル! デュランダル! デュランダル!
プレイヤーA:草薙の剣と……。
好きな剣を挙げ始めるプレイヤー達。こうやって喋っているだけでもセッションの準備運動になるので、GMは微笑ましく眺めるのである。
GM:ちゃんと名前はありますよー。それぞれルミエル、イグニス、カルディアです。
プレイヤーE:ルミちゃん、イグっちゃん、カルディさん。
GM:一人、出入り口でコーヒー配ってそうな綽名だなあ。ともあれこの三本の『始まりの剣』が世界を作りました。そんな凄いパワーを持っている剣なので、手にした人間が神格を得て神様になっちゃったり。
プレイヤーE:凄いなルミちゃん達。
GM:それが今から10000年以上前――神記文明シュネルア時代ですね(と言ってホワイトボードに板書し始める)。
◆文明
●~10000年以上前:神記文明シュネルア時代
・始まりの剣に触れて神となった神々と、〝小さき人々〟の時代。
・〝戦神〟ダルクレムが引き起こした神々の戦いで滅ぶ。
●~3000年前:魔法文明デュランディル時代
・魔法文化で栄え、魔剣やアーティファクトが生み出された。
・滅亡理由は不明、〝奈落〟と魔神の影響説あり。
●2000年前~300年前まで:魔動機文明アル・メナス時代
・高度に発達した魔法の道具を用いる。
・マギ・スフィアなどが生み出されたが、《大破局》で文明崩壊。
●現代
プレイヤーD:ああ、あの時代? 知ってる知ってる。
GM:そう、あの時代です!(アルカイックスマイル)
プレイヤーC:怪しいセミナーみたいになってきた……。こわいよー! 全然聞いたことないよー!
GM:史実だよ?
プレイヤーA:GMが「世界史の授業です」みたいな空気出してきたぞ……。
プレイヤーD:ここテスト出る?
GM:あー、出る出る。記述で出る。出題率高めよ?
プレイヤーA:塾講師がいる……。
この日のGMは白シャツに黒ベストでホワイトボードを背負うという出で立ちだったため、これ以降プレイヤー達は学生ノリを押し出し始めるのであった。こういうところでも、『ロールプレイする』という意識にシフトしていくので、どんどんノっていくGMである。
GM:そんな時代にですね、戦神ダルクレムという神の一柱が戦争を起こしちゃったわけです。これによって神記文明は滅んでしまいます(板書した神記文明に赤ペンでペケをつける)。
プレイヤーC:なにぃ、悪いやっちゃ。
プレイヤーD:滅ぶんだな、神様の文明でも。
プレイヤーB:神話みたいなものかー。
GM:時は流れ、今から3000年前。皆まだ生まれていない頃ですね。この時代に、魔法文明デュランディル時代というのが興ります。魔法で栄えた文明で、魔法王と呼ばれる存在が人々を支配していました。
プレイヤーC:いい名前ですね(中の人が某トロイアの英雄推し)。
GM:この時代にですね、現代も伝わっている魔法のアーティファクトとか魔剣とかがたくさん作られました。
プレイヤーD:あの時代にか! 知ってる知ってる。
GM:そう、あの時代です!(アルカイックスマイル)
プレイヤーE:Dさんはセミナーのサクラとかそういう役割の人かな?
いかん、せっかく怪セミナーから方針転換したのに。
プレイヤーB:知ってるか、さっきからルールブックさえ開いていないんだぜこの人。
その言葉通り、プレイヤーDさんの発言は全てノリで構成されていた。GMとしては合いの手が入るとやり易いので、実に有り難い狂人であった。
GM:しかしこの文明も結局滅びます。原因は不明ですが……〝奈落〟と呼ばれる存在が原因の一端を担っていたのではないか、と言われています(魔法文明にペケをつける)。
プレイヤーA:おごれる人も久しからず。
プレイヤーC:ただ春の夜の夢のごとし。
GM:そして2000年前から300年前にかけてが、魔動機文明アル・メナス時代です。もうここまで来ると分かりやすいですね?
プレイヤーD:あの時代なー。知ってる知ってる。
GM:そう、あの時代です!(アルカイックスマイル)
クセになってるんだ……天丼するのが。
プレイヤーA:もう生きてる人がいる時代だもんな(ちゃんとルールブックを読んでいる人)。
プレイヤーB:エルフの寿命で500年あるもんね。
GM:この時代は魔動機が用いられていました。まあぶっちゃけると魔法で動くメカです。ビルとかバイクとかありました。銃もあります!(一同:おおー!) 他に現代にも残っているものだと、マギ・スフィアというマルチデバイスが作られたりしました。
プレイヤーE:でもその文明も……?
GM:滅びてしまいますねー。《大破局》という、蛮族――要するにモンスターの大侵攻が今から300年前に起こったのです。
一同:へぇー。
GM:以上が、ソード・ワールドの世界――ラクシアの歴史です。
プレイヤーD:じゃあ今の世界は更地?
GM:人族はそれでもしぶとく生き残り、文明は日々復興していますよ。ロストテクノロジーも多いですが。
プレイヤーE:世紀末後、モヒカン達も知性を帯び始めた、みたいな。
GM:そしてこれはプレイヤー――冒険者にとって嬉しい話なんですが、これまで話した時代の建物が遺跡として残っているわけです。
プレイヤーD:なるほど、ダンジョンが各地にあるわけか。――あー! 先生僕まだノート取ってないんでホワイトボードの文字消さないでー!
プレイヤーA:先生―! ノートがー!
GM:……あーあ(消し切った)。……とまあ学生ノリは置いといて、振り返りたいときはルールブックの世界観に関するページを読んでね。
〇冒険者の不文律
GM:このゲームで遊ぶにあたって、プレイヤーは全員冒険者という職業の人になります。その上で、この業界でのルール――不文律を説明します(といって板書する)。
◆冒険者の不文律
・冒険者同士、争ってはいけない。
・同じ依頼を請けない。
・遺跡探索は早い者勝ち。
・他の冒険者を助ける。
プレイヤーC:破ったらおでこに刺青入れられるとか?
GM:そんな江戸時代みたいな国……あるかもしれない。ちなみに迷惑行為ばっかりしていると、ゴブリン級冒険者とか呼ばれて疎まれたりするよ。ゲーム的にもデメリットがあるね。
プレイヤーE:冒険者同士争ってはいけないってことは、ギスギスするロールもダメ? 今回やるプリセットのキャラがちょっとダーティな設定らしいから演技方針どうしようかと。
「RPGスタートセット」では、なんとあらかじめキャラクターが用意されている。それぞれバックグラウンドや大まかな性格やキーワードが書かれているため、それに沿ってロールプレイすることが出来る(勿論これを無視しても何ら問題はない)。
GM:実害出ないように、あくまでロールプレイに留めておいてくれたら助かるかな。要はプレイヤー同士が仲良く遊ぶための不文律でもあるわけです。
プレイヤーE:ああ、なるほど。
ソード・ワールドは協力型のTRPGです。
プレイヤーD:遺跡の探索は早い者勝ちか。これはつまり横取り禁止ってことね。
GM:その通り。あとは他の冒険者を助ける。
プレイヤーA:ライ……冒険者は助け合いでしょ!
プレイヤーD:……禁止事項の流れで来てたから、一瞬助けるのがダメだと認識しかけたぜ。
プレイヤーB:こらあ。
プレイヤーA:どうして君はそんなに殺伐としてるんだ……?
GM:ちなみに何事にも例外はあって、規模の大きいダンジョンなら複数の冒険者グループで探索する場合があるよ。「一緒に冒険しよう!」「じゃあこっちにこんな仕掛けがあったことを共有するよ」みたいなね。
いずれキャラクターを沢山作ってもらって、100人の冒険者で入れ代わり立ち代わり迷宮踏破するようなキャンペーンを回したい。そんな野望がGMにはあった。
プレイヤーD:こういうところでGMとの意識の差が出るんだよなあ。
GM:?
プレイヤーD:「一緒に冒険しよう!」 ――妨害すればエエんやな?
GM:アンタそういうとこだぞ!(激しく指弾)
プレイヤーD:我ながら悪いプレイヤーだなあ……気を付けとく。
GM:まあそんなワケで、他の冒険者は信用してください。
プレイヤーC:えっ。
プレイヤーA:信用していいのか。
プレイヤーE:疑心暗鬼になりそう。
プレイヤーB:この卓そういうところある。
GM:君達……。流石に悪いタイプの冒険者がいたら、GMがそれっぽい演出をしますから。読み落とさない限りノー伏線バックアタックはしません。
プレイヤーA:裏切りそうな顔してるんだな。
プレイヤーD:悪い顔してるんだな。
GM:反骨の相、出していく所存です。
プレイヤーA:つまり、なるべく仲良くしましょうということか。
GM:ハナマルです!
ちょっと先行き不安な気配はあるものの、きっとこのプレイヤー達ならやり遂げてくれる! GMはそう思ったのであった。
そう、この時は。
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