リーゼロッテの誕生会 3

 リーゼロッテのお父様にご挨拶をして、その後はいつもオルフェオ様と二人で知り合いにご挨拶周りをしてから、すぐに帰宅していた。


 今日はリオン様と一緒だから、どうしよう。

 私の方が年上だし、リオン様は研究ばかりでパーティーに参加したことはないってリーゼロッテが言っていたから、私がリオン様をリードしなくては。


 そう意気込んで会場へ出向いてすぐ、リオン様がマチルダ様達に囲まれている姿を発見した。

 マチルダ様は、私の一つ上の侯爵家のご令嬢で、騎士のお兄様を持ち、三姉妹の真ん中ということも合間ってか、とても気の強い女性だ。


 その彼女がリオン様に手を伸ばし、今にも何処かへ連れ去ってしまいそうだった。


 救出作戦を考える前に、私は声を発していた。


「リオン様。どうされたのですか?」

「エミリア様っ」


 リオン様はぎこちない笑顔で私へと振り返った。

 良かった。意地悪はされていないみたい。


 と、ホッとしたのも束の間。マチルダ様は私と目が合うと、獲物を見つけたと言わんばかりの鋭い視線を向けてきた。


「あら。エミリアじゃない。今日は一人なの? ああ、そうでしたわ。婚約を解消したのよね。コールマン公爵子息様は隣国との交渉に失敗して、辺境伯様の所へ弟子入りされたのでしたっけ?」

「そのようですわ。とても残念に思います」


 マチルダ様のお家は、コールマン公爵家と繋がりがあって、お二人も親しかったように記憶している。 

 

「本当に残念ね。公爵夫人になる為にお忙しくしていらしたのに、全て無駄になってしまったのでしょう? 可哀想に。ねえ」

「でも、エミリアのせいではないの? コールマン公爵子息様は誰が見ても完璧な方でしたもの。それなのにあんなことになるなんて」


 お隣のミリアーヌ様はオルフェオ様と同級のご令嬢で、やはり親しかったと記憶している。マチルダ様とミリアーヌ様が交互に私へと口撃を始めると、端に立つ伯爵家のご令嬢であるコルネ様の顔色が悪くなってきた。


「そうよ。それに今日のドレス。何の素材ですの? 見たことがないわ。もしかして、リーゼロッテ姫の婚約者様からだったりして。隣国の王子様で、コールマン公爵子息様の取引相手でしょう?」

「ええっ。エミリアがリーゼロッテ姫の婚約者と仲良くしたから、コールマン公爵子息様が辺境に飛ばされたってことですの?」

「マチルダ様。その様なことは――きゃっ」


 リオン様のお兄様まで名前が上がり、私が否定しようと声を上げると、ミリアーヌ様が手に持っていたワインを私のスカートへと溢した。

 誰がどう見ても、わざと。

 リオン様の魔法でドレスは無事だけれど、その魔法をかけてくださったリオン様は目を丸くして驚いていて、ちょっと可愛い。ではなくて。

 今はそんな事を考えている場合ではないのに。

 リオン様が女性陣に嫌悪感を抱く前に収めなくては。


「あらぁ。ごめんあそばせ。――あら? 汚れてないの?」

「良かったわ。かからなかったみたいです。ミリアーヌ様。お気になさらないでください」

「何が気にするなよ。余裕ぶって生意気ね。もうあんたを守ってくれる婚約者はいないのよ」


 マチルダ様は悪態を吐くと、私の顔目掛けてワイングラスを持ち上げた。

 驚いて瞳を閉じると、急に肩を抱き寄せられ、ワインをかけられた水音だけが耳に届く。


 目を開けると、赤いワインを黒髪から滴らせたリオン様の顔が目の前にあって、心臓が止まってしまうかと思うぐらい驚いてしまった。


「エミリア様。大丈夫ですか?」






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