第14話

「ブロウズ伯爵様。改めて自己紹介させていただきます。先程コールマン公爵子息様が殆ど紹介してくださいましたが、私が宮廷魔導師見習いとして好きなことばかり研究しております偏屈者、ドゥラノワ王国、第三王子シェリオン=アプト=ドゥラノワです」


 父は書状を手から落とし、アニスの涙もピタッと止まり、皆の視線がリオン様、改めシェリオン=アプト=ドゥラノワ様へと向いた。


「実は、魔法を兵器に使うことがあまり好きではないのです。もっと別の物に使いたくて、父から二年だけ時間をいただき、こちらの国へ参りました。後、一年半ほどこちらで宮廷魔導師見習いを務め、その後は国へ帰ります。その時に正式に結婚したいと思っております。エミリア様、婚約を受けていただけるか、お返事をいただけますか?」


 リオン様は私の前に立ち、婚約指輪を差し出し、小声でこう言った。今は左手の薬指に、嵌めさせてください。フリがよろしければ、後でネックレスに掛けてください、と。

 しかし、それをリオン様に答える間も無くオルフェオ様の怒声が響いた。


「え、エミリア。そいつと婚約したくないのなら、俺はアニスではなく、お前と婚約してやってもいいんだぞ!?」


 アニスがテーブルに視線を落とし、肩を震わせている。今日だけで二度もアニスを泣かせるなんて、許せない。


「オルフェオ様。その必要はございません。私は……リオン様をお慕いしております。まだ、お互いを知り始めて間もないですが、知れば知るほど、リオン様に惹かれてしまうのです。ですから、お気遣い頂かなくて結構ですわ」

「そ、そんな奴は止めておけっ。自分の立場を利用して、コールマン公爵家を陥れた人間だぞっ。腹の中は真っ黒に決まっている」


 書状を投げ捨て叫ぶオルフェオ様にリオン様は呆れた様子でため息を吐いた。


「それ、貴方には言われたくないですね。それから、その書状は兄からです。俺は何も関与していません。恐らく──」

「あ、リーゼロッテだわ。第二王子様の婚約者だもの」


 オルフェオ様は頭を抱えたまま笑い始めた。


「はははっ。リーゼロッテか……。そうか、エミリアを自分の近くに置きたいんだな。俺より婚約者の弟の方がいいだろうな。アイツとグルか……くそっ!」

「オルフェオ様っ」


 アニスが立ち上がり、オルフェオ様に触れようとすると、彼はアニスを突き飛ばした。


「触るなっ。アニス、お前もこいつらと同じなのだろう? 俺に構うな。伯爵家はそこのご立派な王子様に養ってもらえっ。俺なんかと政略結婚せずに済んで良かったな。お前との婚約は白紙だっ」


 オルフェオはそう言い捨てると屋敷を飛び出していった。

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