第11話 緊張のティータイム
彼の今日のいでたちは、少しだけ涼しくなってきた陽気に合わせてか、カジュアルな青いストライプの長袖シャツだ。それに、お手製らしいブラウンのベスト。この時期にベストとは暑苦しいようなのだが、ちらっと見る分にはとても細い糸で丹念に編まれているので、軽くて着やすそうだ。はおりもの代わりなのかもしれない。いわゆるプレッピースタイルのような、英国式ジェントルマンの夏のカジュアルスタイルのような、独特の優等生スタイルだ。
「紅茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ソファに座った私の前に、湯気の立つ琥珀色の紅茶がそっと置かれた。さっき見えた紅茶のティン缶は、ハロッズだった。さすがだ。
紅茶をいただきながら、私の方を副社長が見ているのに気付いた。私はどきっとしながら、おずおずと尋ねた。
「あの、何か……」
「指が細くてきれいですね、結さん」
副社長はにっこりと毛糸玉がほぐれるように笑った。指を褒められるなんて、初めてだ。私はどう反応していいかわからず、真っ赤になってうつむいた。
「いえ、指なんて……。毎日かぎ針編みをしますから、実はたこができていて……」
「そんなところも素敵ですよ」
「そんな、ことありません……」
「かわいい方ですね、結さんは」
からかわれているのだろうか。副社長は余裕の笑みを浮かべている。いや、これは副社長の紳士な気遣いなのだ。きっとそうだ。
「副社長の方こそ、あの……素敵です」
私は真っ赤になり、とにかく息継ぎをしようと必死になりながらも答えた。言ってしまった。副社長への恋心、ばれてはいないよね?もっと、こうしていたいから、嫌われたくないから、ちゃんと気持ちを包まないと……。
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