憑かれる彼女のビターバレンタイン
第2話 上
ーーーーどうして?どうして私じゃダメなの?
ーーーーーこんなにあなたのことが好きなのに。
ーーーーーーねぇ、あなたなら分かってくれるでしょう?
アナタモワタシトオナジダモノネ。
パァーーーーーーーーーーーッ
大きな音を鳴らして電車が到着する。
私ははっと我に帰って、首から下げているお守りの石を服の上からぎゅっと握り締めた。
周囲の人は、何事もなく駅のホームを行き交っている。
ホームの向こう側から、こちらをじっとほの暗い目で見つめてくる彼女の存在には、誰も気付かない。
このお守りの石があるから、彼女はこちらへ近づいてこれず、念だけ送ってきているのだろう。
これがなかったら、今頃ホームの下に引き摺り込まれて、先程到着した電車に引かれていたに違いない。
ぞわっと肌が粟立つのを感じ、震える足で何とかその場を離れる。
「いっくん…」
泣きそうになりながら思わず呼んでしまうのは、隣に住む幼馴染みの名前。
幼い頃からずっと一緒にいる榊斎こといっくんには、霊を祓う力がある。
どうやら霊を引き付けてしまう体質であるらしい私、籠池蓮花は昔からいっくんに助けてもらうことが多かった。
今日はバレンタインデー。
いつもお世話になっているお礼にと、いっくんの通う隣町の大学までバレンタインチョコを渡しに行こうと思い、電車を使った途端この有り様である。
家が隣だから帰って来てから渡せばいいのではと思うだろうが、実は私も来年からいっくんの通う大学に入学が決まったのだ。
一足先に大学の雰囲気を感じたいと気合いを入れて出てきたというのに、こんな調子で無事通うことができるのか不安になる。
ふと後ろを見ても、先程の禍禍しい存在が付いてきている様子はない。
そのことにホッと息をつく。
足の震えも治まってきた私は、早くいっくんのところへ行きたいと足早に先を急いだ。
ーーーーーーー
「いっくん、どこにいるかなー?」
大学構内へと辿り着き、いっくんにLINEしようと携帯を取り出したちょうどその時、いっくんが校舎から出てくるのが見えた。
何てラッキー!
いっくんの姿に嬉しくなって、そのままの勢いで彼の名前を呼ぼうと息を吸い込んだ瞬間。
「斎!」
校舎の脇から綺麗な女の人がいっくんに向かって駆け寄っていく。
はっと息を飲んで、思わず木陰に身を隠す。
自分のその行動を不思議に感じながらも、木陰からそっといっくんと女の人の様子を窺う。
女の人はいっくんの腕に腕を絡めて、とても綺麗な笑顔でいっくんを見つめていた。
そうだった。
いっくんはモテるんだった。
今では高校と大学で日中離れているため、忘れかけていたが、いっくんと高校が被った一年間は、それはもう凄かった。
何せ180cmを超える長身に、小顔なため8頭身以上は確実であるスタイルに加えて、切れ長の瞳にスッと通った鼻筋は、どこぞのモデル並みに整っていた。
でも、いっくんはハーレムに興味はないのか、自分の周りに女子が群がるのを嫌っていたため、いっくんの周りを美女が固めることこそなかったが、女子は女子同士でいっくんに変な虫が寄り付かないように厳しく目を光らせていた。
そんなことになっていようとはつゆ程も知らなかった、入学したてのピカピカ1年生だった私は、中学の頃の勢いでいっくんに近づき、案の定周りの女子の怒りを買った。
それを必死にとりなし、いっくんの幼少期の写真をお姉様方に提供することで、ようやくお姉様方の怒りを解くことができたのだ。
それからは、いっくんの周りをウロチョロしても制裁は加えられず、逆にお姉様方から可愛がられて、なんだかんだ平和な高校生活を送れた。
ビバ、幼少期の写真!
ビバ、斎さま!!
あれがなかったら、私は間違いなく抹殺されていたに違いない。
遠い目をしながら昔を思い出し、ふーっと息をついている間に、いっくんと美女が私の前を通りすぎる。
「行きたいカフェがあるのよ。付き合ってくれるでしょう?」
そういう彼女に、いっくんは何て答えたのか。
聞きたくなんてなかったから、咄嗟に2人から目を反らして耳を塞いだ。
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