第二章 エドワード・ラトリッジを尋ねて
1 エドワード・ラトリッジの所在
朝、周りの喧噪で目が覚めた。
どうやら、同室の冒険者同士がくだらない理由で喧嘩を始めたらしい…。
勘弁してくれ……。
昨夜、時計塔屋敷の通り魔退治の依頼を片付けて、ギルドに戻った俺達は報酬を貰って、そのままギルドの二階にある『宿屋』に泊まる事にした。タイミング悪く二人部屋は空いてなくて、格安の大部屋しか空いていなかった。
辛うじて横になれる粗末なベッドに体を横たえて、眠りにつく。
初めての依頼をこなした興奮と、無事に帰れるか…、と言うこの先の不安とで、なかなか寝付けなくて、夜半過ぎてようやく寝付いたってのに…。
空が白々と明るんで来た早朝に響いた野太い怒声に、俺は寝ていられなくて仕方なく上体を起こして騒ぎの起きてる出入り口の方を見る。
ドワーフと人間のコンビと、多種多様な種族の詰め合わせ、みたいなパーティの男連中が何やら言い合っている。それを『呆れた…』とぼんやり眺めながら欠伸をしていると、俺の横でティーダがもそもそと動いた。どうやら、ヤツもこの騒ぎのせいで寝ていられなくなったらしい。
重そうな体を持ち上げて緩慢な動きで起き上がると、ティーダも騒ぎの元凶へ視線を遣って、舌を打つ。
…寝起きは機嫌が悪いんだよなぁ……、こいつ。
そんな事を考えながら、ぼんやりしてるティーダに声をかける。
「よう、起きたか?」
「……あぁ、なんの騒ぎだ?」
耳の裏をガリガリ掻きながら、ドスの利いた低い声、ゆっくりとした苛立ちの乗った声音が返って来た。
…あぁ、機嫌が悪そうだ。
「…知らない、なんか、揉めてるみたいだぜ?」
「……そうなのか」
「…ほら、水」
「……え? あぁ、……すまん」
俺が差し出した水筒を受け取って、気怠そうに栓を開けてゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干す。それを見守って飲み終えた所で声をかけると、いつもの笑顔が返ってくるはずだ。
「目ぇ、醒めたか?」
「ああ! ばっちりだ!」
手で口元を拭って、ニコリと笑う。
寝起きは最悪だが、目覚ましに水を飲むと何かのスイッチが入るらしく、いつものティーダになる。
それさえ知っていれば、こいつの扱いは簡単だ。
「まだ言い合ってるな……」
「ん〜、そうだなぁ…」
出入口で揉めてる奴らを俺達は暫く眺めてた、俺は眠くて思考が上手く働かなくて、ぼんやりしてたんだが、ティーダは様子見と行ったところだ。頃合いを見て仲裁に入るつもりらしい…。
余計なことに首を突っ込みたがる所は直してほしいんだが…。
大部屋の一つしかない出入口でゴタゴタやってるもんだから、俺達も他の客もあの騒動が落ち着かない限り、ここから出られない。
下手に近寄って巻き添えを食うなんて、誰だって御免だからな…。
二、三分経って、ティーダの出番もなくようやく事が収まりそうな様子に、俺はポツリと呟いた。
「取りあえず、朝飯、食いに行かねぇか?」
そう言いながら俺は掛けていた毛布を払って、ベッドの下に入れていた靴を出して片足ずつ突っ込む。
「そうだな〜、腹、減ったな…」
ティーダはそう答えながらブーツの紐を結って、少ない荷物をまとめ始めた。
手洗い場で顔を洗って口を
昨夜のティエラさんの手料理とは雲泥の差、…とまでは言わないが、それなりのスープとぼそぼそのパンを腹に詰め込み、俺は冒険者ギルドのカウンターへ向かう。
「おはようございます! 本日の御用はなんでしょうか?」
朝からテンションの高い受付嬢の笑顔に、寝不足気味の俺は、一層、憂鬱な気分になった。
子供の頃から、他人の高いテンションが眩しい陽光のように感じて、苦手だった。
相手の陽気さが強ければ強いほど、俺の気分は翳りが強くなる。
そんな事を考えてると、受付嬢は表情を崩さないままで、気怠そうな俺を見上げている。反応しない俺を不審に思ったのか、訝しむように首を傾げたから、俺はハッとして慌てて答えた。
「あぁ、…住民証の発行を頼みたいんだが」
「では、500ガメル頂きます〜。……お連れの方の分は必要ないですか〜?」
昨日、冒険者登録を受け付けた事を覚えていたのか、ティーダの分は? と聞かれて、一瞬、思考が止まる。そんな事、聞かれると思ってなかったから。
彼女のにこやかな笑顔が、登録するなら二人分じゃないのか? と、無言の追及をされているようで、俺は誤摩化すみたいな言い方で返してしまった。
「え? ……あぁ、取りあえず、今は俺の分だけで良いよ」
「承知しました!」
この街へは、ラトリッジ氏の手助けをするために来ただけだ。余計な金は使いたくない。昨夜、寝る前にティーダと話し合って、住民証は1枚あれば良いだろう、って事で俺が登録する事にした。
まぁ、俺は元住民だし、ティーダの分も必要になれば後で登録すれば良い。
「お待たせしました〜、こちらが住民証になります。紛失された場合、有償での再発行となりますので、大事に保管して下さいね〜」
爽やかな笑顔で差し出された紙切れを受け取り、それを腰に下げた革製の
「ああ、そうだ…。ここで〈ビスクーネ渡河許可証〉を発行して貰えるって聞いたんだが…」
「はい! 出来ますよ〜。〈剣のかけら〉か〈アビスシャード〉を十五個納品頂ければ、一枚発行致します〜」
「……十五個?」
「はい! 大切な資源ですので冒険者の皆さんには率先して集めて頂いてます!」
「…そうなのか、分かった。……ありがとう」
手持ちの〈剣のかけら〉は三個。
昨日の通り魔のボス、ボルグを倒した時に手に入れた分だが、これをあと十二個も集めないといけないのか…。
ここで発行して貰うのが手っ取り早いと聞いたが、別の方法も考えた方が良いのかもしれない。
「…まぁ…まぁ、何とかなるさ! 他にも方法はあるしな…」
と、返してくる。さすがに少し困ったように笑ってはいるが…。
腹を満たして一息つくと、ティーダが立ち上がって、いつもの爽やかな笑顔で俺に言った。
「それじゃ、出掛けるか!」
その問いかけに、残った水を飲み干して、俺は短く「ああ、そうだな」と答える。
なんにせよ、最優先は『ラトリッジ氏の所在』を突き止める事だ。俺達はミルタバル神殿の盗賊ギルドへ向かった。
朝早いミルタバル神殿市場は買い物客がほとんど居なくて閑散としていた。開店準備中の露店も多く、活気づいてるとは言えない雰囲気だ。
昨日、受付嬢の
ティーダは「オレはティダンの神官だぞ! 盗賊なんて…。ティダンの教えに背くような事は出来きない!」と
大体、登録したからって実際に盗みを働くわけじゃなし…。冒険者だって手付かずの遺跡探索に出れば、盗掘し放題じゃないか…。
こういう時だけ、敬虔なティダン信者を装うんだよな…。
この、エセ神官め…ッ。
「あ? エドワード・ラドリッジだぁ? …あんた、金は持ってんのか?」
登録を済ませた後、受付のおっさんにラトリッジ氏の所在を聞いてみるが、案の定、情報料とでも言いたいんだろう、金をせびられた。下卑た笑み浮かべて手の平を催促するように揺らしやがる。
「……これしかねぇけど」
ティーダを顧みて、ヤツが不服そうに無言で頷くから、上着のポケットから300ガメル出して、放り投げるように渡す。するとおっさんは更に下品を上塗りした笑みで答えた。
「ひっひっ、ありがとよ、兄ちゃん。アンタらが探してる『ラドリッジ』って言うヤツかどうかは知らねぇが、そんな名前の執事なら、【茨の館】って所に居たぜぇ?」
チッ……。
300ガメルも払ってやったのに、確定の情報じゃない辺り、盗賊ギルドだな…。
「…ティード、もう、いい。…行こう」
俺がおっさんに喧嘩をふっかける気配を感じたのか、諌めるように…と言うよりは制止するようにティーダが声をかけて来た。
その声に振り返り、ヤツに『なんでだよ!』って言ってやろうと思ったんだが、『早くここから離れたい』と不機嫌そうに首を軽く振るから、それは止めて、受付のおっさんに舌打を放って踵を返し、その場を離れた。
ティーダが盗賊という輩を軽蔑し、嫌ってるのは分かるが、俺が思うよりもその想いは強いらしい。
【攻略日記:雑感 二日目 1】
ティード:…今回は成長報告から始めるんだな?
saAyu:ですね。
ティーダ:前回の最後で成長するって言ってたしな。
saAyu:です! じゃぁ、ティード君、報告どうぞ〜。
ティード:ああ、え〜っと、経験点1490点だったから、スカウトとセージで迷って、今後の事を考えて、セージを2に上げて、魔動機文明語の読文を取った。で、残り490点は次にまわした。あと、成長は【器用度】が上がって、ボーナス値が『3』になった。
saAyu:はい、ありがとうございます〜。セージを先に上げたのは、遺跡探索とかに備えてですね。やってくれる人(PC)が他に居ないから……。
ティード:…まぁ、そうだな。俺が読めないと詰むからな。
saAyu:で、成長ですが、出目が『1』と『5』だったんですけど、いやぁ〜、器用度か筋力が上がって欲しかったんで、良かったです。
ティード:確かに、筋力がなぁ…。
ティーダ:グラップラーなんだし、防具類は軽いのしか装備出来ないんだから、筋力は急いで上げなくても良いんじゃないか?
ティード:…いや、追加ダメージに関わるだろ。
ティーダ:あぁ、そうだったか……。
ティード:……(こういう時は暢気なんだよなぁ…こいつ)
saAyu:ティード君の筋力の能力値補正『2』ですよ? 基礎が『15』もあるのに『2』! …まぁ、私のダイス運が悪かったんでしょうね…。
ティード:3回以上振るから、偏ったんだろ。
saAyu:…まぁ、そうかも知れません。で、小銭を稼いだので、能力増強の腕輪を買いました! 〈怪力の腕輪〉ですっ!
ティード:……この
ティーダ:まぁまぁ、とても良く似合ってるじゃないか。
saAyu:うあぁぁぁッ!!
ティード:うぉ! なんだよ、急に…。
saAyu:今、気付いたんですけど…。
ティーダ:ん? なにかあったのか?
saAyu:筋力ボーナスが『3』に上がったのに、キャラシの追加ダメージの所、更新するの忘れてて、『4』のままでしたっ…。(本来なら、攻略二日目の戦闘は追加ダメージ値は『5』で出来た…)
ティード:は!?
ティーダ:…ボーナス値が『1』違うと、結構な影響があったんじゃないか?
saAyu:です……。これ書いてるときは二日目の攻略が終わってるんですけど…。(攻略ノートを確認する)…ん〜、ですねぇ…。
ティード:まぁ、攻略三日目は『5』で出来るんだろ? なら、それで良いじゃないか。
saAyu:終わった事ですしね…。では、次、ティーダさん。
ティーダ:……ん? あぁ、オレか! フェローなのに成長したんだったな。
saAyu:です。通常のキャラシを元にフェロー表作りますから。
ティーダ:そうか、えっと、ファイターを2に上げて、残りはティードと同じように次回に残しておく事にした。成長のダイス目が『2』と『6』で、【精神力】を上げて、ボーナス値がやっと『2』になったな。
saAyu:です。初期作成時の出目は悪くなかったんですけど…、基礎値が低くてねぇ…。
ティーダ:ボーナス値『2』まで1足りなかったんだよな…(苦笑)リカントの中では『戦士生まれ』が『心』の数値が一番低いから。
ティード:へぇ〜。(ナイトメアは、グラップラーとファイターは基礎値が同じ)
saAyu:ですね。…予算がなかったのでティーダさんには能力増強の腕輪は買えませんでした…。
ティーダ:まぁ、器用度も上げたい所だけど…、それは金がある程度貯まったらで良いんじゃないか?
saAyu:ですね、次、お買い物する時は腕輪買いましょう!
ティーダ:そうしてくれると、ありがたいな。
ティード:じゃぁ、成長報告は終わりだな。
saAyu:です。小説パートでも特に動きはありませんでしたし…、では、この後は、ラトリッジさんに会いに行って物語を進めたいと思います!
ティード:〈ビスクーネ渡河許可証〉は、後で良いんだな?
saAyu:はい、取りあえず。後回しで良いでしょ〜。
◆ 成長報告 ◆
【プレイヤーキャラクター】
ティード・ジルダール/ナイトメア/19歳/男/冒険者レベル:2
グラップラー:2/スカウト:1
セージ:2(リカント語:会話/魔動機文明語:読文)
HP:25/MP:18 生命抵抗力:5/精神抵抗力:5
能力値:【器用度:18(3)】
【敏捷度:18(3)】
【筋 力:19(3)】
【生命力:19(3)】
【知 力:18(3)】
【精神力:18(3)】
※( )内はボーナス数値
防護点:3/先制力:4/魔物知識:5/
命中力:5/回避力:5/魔力:0
追加ダメージ:5
判定パッケージ:【技巧:4】【運動:4】
【観察:4】【知識:5】
装備:〈アイアンナックル〉【威力⑤/C値⑪】
(命中修正+1 計算済み)
鎧:〈アラミドコート〉
(回避力+1/防護点+2 計算済み)
装飾品:右手:〈怪力の腕輪〉(筋力+2 計算済み)
戦闘特技1:防具習熟A/非金属(防護点+1 計算済み)
追加攻撃(自動習得)
所持金:790G
持ち物:冒険者セット/スカウトツール/黒い剣(ロングソード)
【フェロー】
ティーダ・シルヴァウォルフ/リカント(狼)/23歳/男/冒険者レベル:2
ファイター:2/プリースト:2
MP:18/魔力:5/命中力:4
追加ダメージ:7 ※獣変貌時の筋力B+2込み
戦闘特技1:魔力撃
【フェロー行動表】
1d:1-2
想定出目7【近接攻撃(バスタードソード)】
「いっちょ、やりますか〜!」
達成値11/【威力⑮/C値⑩+7】
※追加Dは獣変貌時の物です。
想定出目6 空き
1d:3-4
想定出目8【魔力撃】
「当ると痛いぞ〜!」
達成値12/【威力⑮/C値⑩+12(追加D+魔力)】
※次の手番は休み
想定出目5【キュア・ウーンズ】射程1(10m)MP3
「助けが必要だろ?」
達成値10/【威力⑩+5】
1d:5
想定出目9【近接攻撃(バスタードソード)】
「オレの一撃、受けてみろ!」
達成値13/【威力⑮/C値⑩+7】
想定出目4【キュア・ウーンズ】射程1(10m)MP3
「大丈夫か? 今、治してやるからな」
達成値9【威力⑩+5】
1d:6
想定出目10【魔力撃】
「…これがオレの本気だ!」
達成値14/【威力⑮/C値⑩+12(追加D+魔力)】
※次の手番は休み
想定出目3 空き
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます