"セカイ"ヲ傍受した少女

Aruji-no

序:ask

 僕は変わりたいんじゃない。

 世界を変えてみたかったんだ。

 そう思うに至ったのは、僕が生まれ育ったこの街世界があまりにも完璧だったからかもしれない。

 safelandセーフランド

 この街は、そう呼ばれている。

 "セカイ"のあちこちに同じものがあり、ここはその4番目だったと思う。

 国すら動かす力を持った三つの巨大企業がをもって手を取り合い創設された、十全の生活・安全・健康b i g t h r e eが保証された独立都市utopia

 safelandセーフランドでは、三大保証bigthreeの基、が管理される。

 堅実を推奨し、浪費を諫める生活班recommend

 治安を守り、犯罪を抑止する監視班lookout

 傾向を見極め、健常を維持する医療班maintain

 空の屋根疑似ドームの下で生まれた僕らは、その瞬間から巨大な三つ目bigthreeに死ぬまで見守られ続ける。

 けれど、それを窮屈に感じたことは無い。

 僕らには、自由もあったからだ。

 表現art宗教fanatic嗜好fetishism

 他者への侵害明らかな犯罪に至らなければ、差別意識aversion外に向いた個性価値観のひとつとして認められていた。

 生活欲求の充足が得られるそこは、確かに理想郷utopiaだった。

 それのどこが気に入らなかったのかは、今でも分からない。

 ただ、誰かに聞いてみたかった。


これisthisいいのか?right?


 と。

 高校生となった時、それを行動に移した。

 手段として、僕は侵害する犯罪を犯す事を選び、監視班lookoutの死角となる場所に、質問を描いた落書きをした

 最初はささやかな質問だった。

楽しんでいるか?are you having fun?

うっとおしさはないか?are you annoyed?

間違ってると思わないか?isn't it wrong?

 だがすぐに、聞くだけではすまなくなった。

 何でもいいから反応responseが欲しいと思った。

 それから質問落書きは単純な文章でなく、読み解く必要が生じる問いかけg r a f f i t iに変わった。

 絵描きpainterとしてか、小悪党villainとしての才能か。

 僕は監視班lookoutの目をかいくぐり、問いかけgraffitiを増やしていった。

 承認欲求イイね欲しさが無かった訳ではない。

 でも、第一に欲し続けたのは、何らかの回答responseだった。

 しかし、僕の問いかけgraffiti二の次のものイイねを稼ぐばかりで、いつしか問う者askという名で呼ばれるようにもなっていた。

 現に、僕のクラスメイト友人たちも、当人を目の前に問う者askの話題で盛り上がっていた。街中で見つけた問いかけgraffitiの画像をお互いに見せ合うなど、自分の欲求イイねを満たす事に僕の問いかけ犯罪を利用している。

 別段腹を立てている訳ではないが、その話題に否が応にも付き合わなければならないのは、やはり気疲れしてしまう。

 興味ない。とやり過ごしている内に、友人の一人が話題を変えた。

 何のことは無い、気になる異性好きな子についての話だ。

 問う者askの写真をキッカケに、とある女子と話が盛り上がったとその友人は興奮気味に話していた。あわよくばそのまま進展したいと思っているのか?友人としては応援するが、それにかこつけて僕らのを聞き出そうというのはどうかとは思うが。当然のように他の友人たちは、突っぱねるかはぐらかすかでイマイチ盛り上がる事はなかった。

 最後に、僕の番が来た。

 期待に応える気はなかったが、ごかまして逃げる気にもならなかった。

 なので、こう答えた回答した

子かな」

 僕はそう言って子を指し示す。

 丁度、教室に入って女の子のことを。


 名前は、野ノ波芭乃ののははの

 後に知る。

 彼女は、"セカイ"ヲ傍受した女の子。

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