第5話
遼がゲームをしていると左肩に体重がかかった。
横を見て、結衣が綺麗な顔で寝ているのを確認した遼は
「あうっ」
・・・・・・思いっきり肩を振り上げた。
その衝撃に呻きながら結衣が目を覚ます。
「寝るな」
「寝てない。ウトウトしてただけ」
「いや、完全に寝てただろ・・・・・・」
寝てないのに肩にもたれかかってきたのなら、結衣はとんだ小悪魔である。
「ほら、今日はもうやめにしよう」
「・・・・・・分かった」
「帰って寝な」
「・・・・・・そうする」
結衣は渋々そう言うと自分の家に帰って行った。
(そう言えば結衣が寝てるところなんて久しぶりに見たな)
結衣は授業中に寝るようなタイプじゃない。
それに、流石に二人も旅行に行ったり、互いの家に泊まったりという事は永らくしていない。
そんな親友の寝顔なんて中々見るものじゃなかった。
新生活のこうしたちょっとした親友との関係性の変化が、新鮮で楽しいなと遼は思った。
「忘れ物ないか?」
「うん、バッチリ」
「じゃあ行こう」
マンションの廊下、俺の部屋のドアの前。
隣にいる親友も遼も制服姿だった。
今日は朝山高校の入学式の日である。
二人は一緒に登校する約束をしていた。
実家よりは学校に近い場所に引っ越してきたが、都合よく徒歩5分の物件があったりする訳では無い。
二人のマンションから学校に行くには電車を使う必要があった。
学校に到着すると資料を渡され、体育館へ移動するように言われる。
入学式を行ってからそれぞれの教室へ別れるようだ。
渡された分厚い資料の中には、新一年生の名前とクラスが書かれた名簿も入っていた。
「あ、やっぱ同じクラスだよ」
「だな」
元々、朝山高校は受験番号の早い方から順にクラス分けをするという噂だった。
この前確認したら二人の受験番号は近いようだったので、同じクラスかもしれないと話していたのだった。
「一年間よろしくね!」
「おう、こちらこそ」
そんなことを話ながら歩いていると体育館に到着した。
入学式は特に特別なことも無く進んだ。小説でよくある入試成績トップによる挨拶とかもなかった。当然である、朝山高校は受験時の点数を公表していないのだから。
「それじゃ行こうか」
「そうだね」
入学式が終わると二人は資料の中から地図を探す。
そして、二人のクラスである4組の教室へ向かった。
教室に入ると既に半分以上の生徒が座っていた。席に着いた後も好奇の視線を集めているのを感じる。初日から男女で登校して来たのだから当然だろう。
とはいえ、初日から見知らぬクラスメイトに話しかける人は居なく、朝山高校の初日は、担任からの簡単な挨拶だけで何事もなく終わった。
入学式を終えた二人はやることも無いし即座に帰宅し、遼の家でゲームをしていた。
この前買ったマリオの新作をまだクリアしていないのである。
「思ったよりも視線を集めたね」
「そうか?想定の範囲内だろ」
「まあそうかも」
小学校中学校と冷やかされ続けてきた百戦錬磨の二人にとって、視線を集める程度のことは何でもなかった。
「今はまだ気になってるだけだろうけど、今後めんどくさい事になるかもな」
「そうだね。また冷やかされまくるのはごめんだな・・・・・・」
中学校に入ってすぐは付き合ってるのか?と言われては否定する日々が続いた。正直、あの日々に戻るのはごめんだった。
「何か良い対策法があればいいんだけど・・・・・・」
「ふふふ、それなら俺に妙案がある。」
「お、マジマジ?」
「マジだ。・・・・・・否定しないって言うのはどうだ?」
「え、つまり、付き合ってるの?って聞かれたら、そうだよって答えるってこと?」
「そうだ」
「やだよー、遼と付き合ってるフリするなんて」
「フリじゃない。付き合ってるか聞かれた時に否定しないだけだ」
「・・・・・・それ、何か違うの?」
「全然違う。別にカップルっぽいことをしなきゃいけない訳じゃない。聞かれたら否定しない、それだけだ」
「まあ確かに、そう言われれば違う気もしてきた」
「だろ?フリをするのは俺も嫌だしな」
「そこまで言われると私の乙女心も傷つくんだけどなあ」
「ともかくだ。どうだ?妙案だろ?」
「でもそれをすると遼の童貞記録の三年延長が確定するよ?」
「う、痛いところを・・・・・・」
「また沙耶香ちゃんみたいな子が居たらどうするの?」
「うるさい、その名前を出すなヘコむだろ」
「で、どうなの?」
「そうしたら別れた事にして、それをアピールしまくろう」
「そんな適当な・・・・・・」
「あの冷やかしを止める方法は他に思いつかないだろ?」
「うーん、私は特に・・・・・・」
「だろ?それに翔だってもう別の高校に行ったんだから結衣も問題ないだろ?」
「あ!言ったな!」
「痛い!叩くな!」
結衣が思いっきり背中を叩いてくる。沙耶香は中学の頃遼が好きだった人の名前、翔は同じく結衣が好きだった人の名前だ。
遼も結衣も結局告白も出来ずに終わったため、黒歴史として封印されている。
「・・・・・・分かった、その作戦で行こう」
「よしきた」
こうして「カップルのフリをして逆に冷やかしを止める作戦」の決行が決定した。
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