第五部・聖女殺しの殺人祭司編

第145話 聖なる3姉妹

「スイーティア、私はここに、お前との婚約破棄を宣言する!」

 厭味ったらしい顔をしたナルガラ王国王太子が、王侯貴族が集まったパーティーの最中に、ドヤ顔で婚約者に婚約破棄を宣言した。

「……ついにはじまったな、ナルガラ王国、乗っ取り作戦が。」

 俺たちは横目でそれを見ながら、全員に配られたグラスを傾けつつ、成り行きを見守った。──彼らが動き出すのを待つ為に。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「──聖なる3姉妹?」

「ナルガラには、代々王子1人と、聖なる3姉妹が産まれるって伝説があんだとよ。

 魔を退け、封印する力を持つそうだ。」

「へえ〜……。聖なる3姉妹ねえ……。」

 ますます異世界ってか、漫画みてえだな。

「通常王女が先に生まれることが多いこの国に、最初に王子が生まれるのが、聖なる3姉妹誕生の兆しなんだとさ。実際この国には、王子が1人と、王女が3人いんのさ。」


 ナルガラ王国の王太子選定の儀に招待されて向かう船の上で、しばらくナルガラ王国に住んでいた恭司が、ナルガラ王国について説明してくれる。俺たちの目的は、ナルガラ王国にだけ入口が固定されて常設されている、魔王の娘が閉じ込められているであろう、ダンジョンに関する調査なんだけど、その招待に応じたほうが、疑われることなくナルガラ王国に入れて自由に動き回れるからというので、王族とその従者として向かう為に、一度ニナンガ王国に戻って、王族の船に乗り換えてナルガラ王国に向かっていた。


「……けどよ、ひとつ、きな臭い出来事もあってな。今の王太子は第2王子なのさ。」

「きな臭い出来事?」

「もともとこの国には第1王子がいてな、それが王太子で、その下に第1王女、そして第2王子、第2王女、第3王女、って家族構成だったんだが、ある時第1王子が消えちまったんだ。……それが死体で見つかった。」


「──第2王子派に殺されたとでも?」

「そう言われてるな。見つかったのはニナンガ王国の王城近くで、なぜかたった1人で死んでたのさ。第1王子が護衛もなしでだ。

 おかしいと思うだろ?ニナンガ王国に行くなんて話も、誰も聞いてなかったんだと。」

「確かにそれは妙な話だな……。」


 第1王子がニナンガ王国に1人で向かった理由はわからないが、派閥争いが起きている最中の国の王太子が、護衛もつけずに他国に行くとは考えにくい。なんらかの思惑が動いたとみて間違いないだろう。

「でも、第2王子が結局王太子になったんだな。第1王女が王位を継げない国なのか。」


「ああ、この国は男が産まれた場合は、男しか王位が継げないからな。王太子だった第1王子がいなくなれば、自然と第2王子が王太子になって、次の王さまになるって寸法さ。

 第2王子がいなけりゃ、第1王女が王位を継いだんだろうけどな。」

「ん?女も国王になれんのか?」


「今の国王は入り婿で、王妃さまが先代国王の子どもなんだ。一応国王は男ってことにはなってるが、権限は王妃さまのほうが強く持ってる。聖なる3姉妹が産まれた場合、彼女たちには国を、そして世界を守る為の役割があるから、どっちにしろその場合は、入婿を取って、国政はその王にさせて、悪しき物を退ける為の祈りを捧げるのが、聖なる3姉妹の主な役割になるってことらしいぜ。」


「ふうん……。」

「でもなあ。今の王太子である第2王子がまた、かなりのアホでな。」

「そうなのか?」

「婚約者がいるんだが、別の女に入れあげちまって、お花畑状態なんだとよ。だから第1王女を王位に押す派閥も、存在するんだ。」


「へー。まだまだお家騒動が続いてるってことか。面倒な時に来ちまったもんだな。」

「けど、王女たちはみんな美人だぜ?王妃さまも色っぽい美人だし、みんなその血を強く受け継いでるって感じだな。王太子だけが父親似で、あんま大した顔をしてねえんだ。」

「そりゃ楽しみだな!」

「それにな、聞いて驚け。」


「なんだよ。」

「第1王女はな、なんと男装の麗人だ。」

「男装の麗人!?」

「第1王女自身も王位に強い興味を示してるからか、男の格好してんだが……。それがまたエロくてな。俺は第1王女推しだ。」

 セクシーなお姉さま好きの恭司が言うのだから、そうとう色っぽい美人なのだろう。


 船がナルガラ王国の港に到着し、俺たちは懐かしい気もするナルガラ王国の地に降り立った。今度はニナンガ王国の王族と従者としての来訪だから、港に出迎えの人たちが集まっている。だけどそこに、王族らしき人たちの姿はなかった。出迎えに来るって聞いてたんだけどな?アシルさんがそれを尋ねると、先に到着した他国の王族たちがいて、その相手と準備をしていて来られないらしい。


 まあ、船は何時に到着するとか、正確にわかるわけじゃないからな。先に他の国の王族が到着しちまったんなら、それもやむを得ないところだろう。出迎えるまで庭園を楽しんでいて欲しいと言われて、俺たちはナルガラ王国の王宮の庭園に案内された。

「ここには温室もございまして。珍しい植物を取り揃えております。ぜひお楽しみ下さいませ。あちらの建物でございます。」


 従者が指し示す先には、透明なガラス張りの八角形の尖った屋根の建物があって、そこがどうやら温室らしかった。

 アシルさんやカールさんは、珍しそうに花に目をやっていたけれど、エンリツィオは花になんか興味がないらしく、知り合いに会いに行くと、この場を離れようとして、いつ呼びにくるかもわからないんだから、じっとしててよ、とアシルさんに叱られていた。


 俺は恭司と温室に行ってみることにした。年中常夏のアプリティオ王国や、温泉があって地熱が高めのチムチ王国と違って、海に囲まれた独立した土地で、海風が吹くからか、崖の上にあるニナンガ王国程じゃないにしても、ナルガラ王国も結構他の国と比べると涼しいんだよな。だから温室がないと、温かいところで育つ植物を育てられないんだろう。


 ガラスの扉を開けて中に入ると、植物にジョウロで水やりをしていた茶色の髪の少年がこちらを振り向いて、目が合った。顔の右上部分が、まるで何かに齧られた跡のように、縫い目のように傷跡が走っていて、そこから上が真っ青に変色した肌の色をしている。俺と目があった瞬間、ハッとしたように、その少年は自分の顔を腕で隠そうとした。傷跡が恥ずかしいのかな?ちょっと目立つもんな。

 なんか某高額な闇医者みたいな見た目だ。


「仕事の邪魔してすみません、ナルガラ王国の客人として来たんですけど、出迎えまでここで時間を潰して欲しいって言われて……。

 お邪魔でしたか?」

 驚かしてしまったかなと思って俺がそう尋ねると、キョトンとした表情を浮かべて、

「……気にならないの?」

 と聞いてきた。

「何が?」

「僕の顔。」


「え?ああ……。

 痛そうだな?平気なのか?」

「プッ、あはははは!」

 と、突然笑い出す。

「うん、平気だよ。昔の傷なんだ。

 魔物に頭に噛みつかれてね。回復魔法である程度傷は塞がったんだけど、毒があったせいで、傷が残っちゃって。状態異常回復のスキル持ちの到着が遅れてね。それでこんな色になっちゃったけど、痛くはないんだよ。」

「そっか、ついてなかったな。」


「うん。ちょっとね。……ていうか君、変わってるって、よく言われない?」

「たまに言われるけど……。なんだよ?傷を気にしないのがそんなにおかしいか?」

「そりゃあね。普通の人は、みんな嫌な顔をして僕のことを見るもの。……だからひと目につかないように働くようにって、ここの人たちにも言われてるんだ。だから顔を見られて、ちょっと焦っちゃったんだよ。」


「ふうん。まだ痛いなら気になるけど、治ってるなら別に、そういう色ってだけだろ?

 別にそんなの気にならねえよ。変なの。」

 前世にも何人かいたしな。生まれつきだったり事故にあったりして、顔色が本来の肌の色から変色してたり、眼球に傷みたいに赤い血みたいな線が入ってる人だったり。

 痛くないのかな?とは思うけど、痛くないなら、そういう見た目の人ってだけじゃん。


「そうだな。痛そうだなって感じて、一瞬心配にはなるけど、そんだけだな。」

 恭司も同調する。

「ふふふ……。ありがと。」

 別にお礼を言われるようなことじゃないと思うんだけど、少年は俺にお礼を言った。

「僕はミディー。君は?」

「タダヒロってんだ。よろしくな。」


「うん、よろしく、タダヒロ。

 温室を見に来たんだよね?

 僕が管理しているから、中を案内するよ!

 ここにはとても珍しい花があってね?聖なる3姉妹が誕生した時に咲くっていう、不思議な花があるんだ。」

「へえ?じゃあ今この国には、聖なる3姉妹がいるから、その花が咲いてんのか?」

 俺はすっかり敬語を忘れて話しかける。


「ううん……それがね、なんでかまだ蕾のままなんだよ。伝承の限り、今まで一度もそんなことはなかったのに。でも最近ようやく蕾をつけたから、たぶんもうすぐ咲くんじゃないかな?僕の今1番重要な仕事は、この花を枯らさないようにお世話することなんだ。」

「へえ、じゃあ俺がこの国にいる間に、咲いているところが見れるかも知んねえな。

 咲いたら必ず見せてくれよ。」


「うん!いつまでこの国にいるの?」

「用事が終わるまでだから、国王に聞かないとわかんねえんだよな。いっつもスケジュールを内緒にされっから、突然離れる可能性もあるし。間に合ったら見に来るよ。」

「え……?国王さま……?タダヒロって、今来てる、第2王子さまの王太子選定の儀に招かれている、どこかの王族の関係者なの?」


「ああ、うちはニナンガ王国さ。俺は一応国王の関係者ってことになってんだ。」

「し!知らないこととは言え、大変失礼いたしました!その……お許しください!」

「いや、気にすんなよ。俺はただの平民だしさ。別に偉くもなんともねーんだ。国王にちょっと気に入られて、一緒に同行を許可してもらってるってだけの立場だしな。」


 慌ててほぼ90度の角度で頭を下げるミディーに、そんな必要はないことを説明する。

「──ミディー?

 ……ひょっとしてあんた、また何かやったの?幼馴染のあたしが恥をかくんだから、ちゃんとしなさいっていつも言ってるでしょ?

 申し訳ありません、お客様。我が国の従者が無礼を働きましたようで。」

 声のしたほうを振り返ると、真っ赤な髪の両サイドを三つ編みにして、後ろで1つにまとめた髪型の、気の強そうな美少女がいた。


「スイーティア……、ごめん……。気をつけていたつもりだったんだけど……。」

 ミディーが顔を赤くして、恥ずかしそうに謝っている。あれ?ひょっとして、てか多分ミディー、この子のこと、好きなんじゃね?

「言い訳はいいわ。……こちらのお客様はあたしが引き受けるから。──改めまして、スイーティア・ロックハートと申します。王太子の婚約者でございます。わたくしがお客様のご案内をさせていただくことになりましたので、どうぞこちらにお越し下さいませ。」


 美しくカーテシーをしながら、俺たちにお辞儀をするスイーティア。俺はミディーに、またな、と声をかけて、温室をあとにした。

「まったく……。いつもああなんですの。

 あれはわたくしの乳母の子で、幼馴染で乳兄弟なのですが、昔から鈍臭くて……。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。いつもオドオドして、みっともないったら!」

 そんな風に言っているけど、言葉の割に口調はきつくない。別に嫌いじゃないんだな。


 振り返ると、ミディーはずっと去って行くスイーティアの姿を、切なげに見つめていたのだった。たぶん身分の違いで、好きでもどうにもならないんだろうな。おまけに婚約者はこの国の王太子。どうひっくり返ったって勝てる相手じゃない。思いを告げることすら出来ずに、ああして見つめているんだろう。

「まあ確かに、ちょっとオドオドし過ぎかとは思いますね。国の温室を任されるなんていう立派な仕事をしてるんだから、もう少し自信を持っても良さそうな気もしますけど。」


「そう!そうなんですのよ!ミディーは植物のことにかけては、この国では右に出る者がいないのですわ!わたくしの推薦で、王宮の温室管理の仕事に抜擢されましたの!

 名誉ある仕事なのですから、堂々としていれば良いと思うのですけれど、昔からあの気質が変わらなくて……。本当に見ていて、いつもイライラさせられますわ。」

 ん?あれ?この子もまんざらじゃなくね?


 ミディーのことを褒めたり、自信なさげにしているミディーの態度にヤキモキして、怒ったりしている。たぶん心配なんだろうな。

 ……いわゆる両片思いってやつか。

 貴族の結婚に俺が口出し出来るわけでもないしな。仕方がないってことなんだろう。

 お互いそれは理解しているんだろうし。


 スイーティアに連れられて花園に戻ると、王宮の従者が迎えに来ていた。やはり王族たちは出迎えるのが難しいので、このまま城内の待機室に来て欲しいとのことだった。

 スイーティアの先導で王宮に入ると、なんだか妙な感じがした。……なんだ?

「……感じるか?この城、魔法で隠蔽された扉がいくつもありやがる。空間が歪んで見えて、気持ちが悪いったらありゃしねえ。」

 と、エンリツィオがボソリと言った。


 魔法で隠蔽された扉?そこで何か怪しいことでもしてるんだろうか。まあ、王宮ならそんなもの、あってもおかしくないけど、普通ならひと目につかない地下とかに作るよな。

 なんだってこんな客人が大勢歩くような場所に、そんな空間作ってんだろうか。


 あとで調べてみようかな?

 魔王の娘が閉じ込められているダンジョンに関係する何かが見つかるかも知んねえし。

 他の国はランダムなのに、この国だけダンジョンの出口が固定されて、いつでも入れるのには、なにか理由があると思うんだよな。


 客人の待機所として広間に案内されると、そこには見知った顔が何人も待っていた。

「よう、タダヒロ!」

「遅かったじゃないか。今ついたのかい?」

「え?アスタロト……、ドメール王……アプリティオ国王!?俺らより後に国を出発したんじゃなかったっけか?なんで俺らよりも先に、ナルガラ王国についてんだよ!」


「そりゃお前、海流の問題だよ。お前らアプリティオ王国に人を届けた後で、1回ニナンガ王国に戻るっつってたろ?ニナンガ王国は断崖絶壁の上に国があるから、海流が激しくて船が進みにくいんだよ。ニナンガ王国を出るより、ニナンガ王国に向かうほうが、進みが早いからな。ニナンガ王国から向かえば、俺たちより後に到着すんのは当たり前だろ。

 俺たちは直接自分の国から来てるしな。」

 とアスタロト王子が教えてくれた。


「私たちもいるわよ。」

 そう言って、ジルベスタがニッコリと微笑み、その傍らにはマリィさんと但馬有季が立っていた。──なんとユニフェイまでいる。

「え!?なんで!?アプリティオで護衛されてるんじゃなかったんですか!?」

「私は国王の秘書としての仕事がありますので。特別な護衛がついて来ていますから、安全面は問題ありませんのでご安心下さい。」

 とマリィさんが言った。


 但馬も通訳兼国王秘書として、ここに来ているらしい。特別な護衛っていうのは、王家の影的なやつのことかな?そういうのがついているなら、アプリティオ王国にいても、ナルガラ王国にいても、同じようなものってことか。マリィさんがそう言うのならだいじょうぶなんだろう。俺は思いがけずユニフェイに再会出来たことで嬉しくなって、思わず駆け寄ってくるユニフェイを抱きしめた。

「はは、久しぶり。」

 ユニフェイが俺の顔をペロペロと舐める。


「ジルベスタは、マガの代表として来てるのか?確か王弟殿下だもんな。」

「いいえ、わたしは今回はドメールの婚約者として、挨拶の為に参加しているの。マガからは私の姪っ子が代表として来ているわ。」

「へえ、ジルベスタの姪っ子さんなら、相当美人なんだろうな!どこにいるんだ?

 紹介してくれよ!」

「うーん……。美人は美人なんだけど、あの子はちょっとクセがあってね……。

 期待するような子じゃないと思うわ。」


「クセ?」

「なんか俺の婚約者候補として、勝手に父上が話をまとめようとしてきてんだよ。

 俺にはそのつもりはねえのに……。

 俺が顔合わせを避けてたら、ナルガラ王国の王太子選定の儀に合わせて、無理やり顔合わせの場を作られたんだ。今トイレに行ってるから、もうすぐ戻って来ると思うぜ。」

 アスタロト王子がため息をつく。


「まあ、ある意味チムチの男性には、ピッタリと言えばピッタリな子なんだけどね……。

 私と似たような体をしてるから。」

 とジルベスタが言った。

「チムチの男性にピッタリな女の子?」

 チムチの男性と言えば、9割が同性愛者の国だ。子どもを残す為に契約結婚する人たちも多いけど、性癖は変えられるもんじゃないからな。それでアスタロト王子も、結婚を嫌がっているんだろうけど……。


「ただいま戻りました!アスタロト王子!」

 そこに、扉を開けて飛び込んで来た、クセのある黒髪ショートカットの、ボーイッシュな女の子。ほぼ胸がなくて……なんならちょっと女の子にしては筋肉質な腕?胸っていうか、薄く胸板があるようにも見えるんだが?

 笑顔でアスタロト王子の腕に絡みつき、スリスリと頬を寄せている。

 まつ毛が濃いめに大きな目の周りを縁取っていて、まるで猫みたいな印象だ。


「おい……やめろって。」

 アスタロト王子がその子を引き剥がそうとしている。そして俺の方をチラチラと見ている。なんで俺を見てんだ。こっち見んな。

 するとその子がキッと俺を睨んできた。

「……あなたが噂のアスタロト王子の思い人ですか?俺負けませんから。彼の結婚相手として俺以上にピッタリな相手いませんし!」

 と言ってきた。


「おい待て。なんでそんなことになってんだよ。俺はお前のこと……ムグッ!」

「……シーッ!話合わせろって!」

 アスタロト王子が無理やり女の子から離れて、俺の口を平手で塞いでくる。

「……あの子、体の一部をのぞいて、殆ど男性の体なのよ。だから女性として過ごしているけれど、見た目も心も男の子なの。だからマガの男性にピッタリだって、うちの父が押し付けたみたいでね……。うちの国はそういう体を嫌うから、結婚相手がいなくて。」


 ジルベスタがコソッと耳打ちしてくる。

「え?ついてんの?」

「逆よ。それだけがないの。だからマガでは女性として通っているわ。私が男性扱いされているのと同じようにね。本人は男性のつもりでいるんだけど、男性が好きなのよ。だからマガの男性と結婚したかったみたいで。」


 ジルベスタはいわゆる両性具有の体だけど心は女性なんだよな。でもマガでは男性として扱われていて、王弟殿下の立場の人だ。

 マガは魔王の娘の呪いで異形者の産まれやすい国だから、この子もその呪いで、そんな体に産まれてしまったということか。ジルベスタの逆で女の子のものがついているから、この子はマガでは女性として扱われているんだな。いわゆるカントボーイってやつね。


 確かに殆ど男性なのに、子どもが産めるんだから、アスタロト王子にピッタリじゃん。

 男性が好きだけど、王子として跡継ぎの子どもは作らないといけないんだしさ。

「なんで嫌なんだよ?一部をのぞけば、心も体も男なんだろ?お前、男が好きで、でも王子として跡継ぎの子ども作らないといけないんだから、あの子なんてピッタリじゃんか。

 見た目も可愛いし、お似合いだろ?」


「俺はグイグイくる奴が苦手なんだよ!俺は 俺が好きになった相手と付き合いてえの!

 もっと控えめで恥ずかしがり屋な感じで、素直で背の高い奴がいいんだよ。あいつちっせえし、面倒いじゃん。好みと真逆過ぎ。」

「いや、つか、その好み、俺になにひとつ当てはまらねえじゃん。身長以外。」

「いや、お前はそうだろ。まんまだろ。」

「だな。まんまだわ。」

 アスタロト王子の言葉に恭司が同調する。


「俺の何を見てそう思うんだよ!

 つか、俺には江野沢がいんの!お前の気持ちには答えらんねえって前にも……。」

「お前が駄目でも、こいつはヤなの!」

「ちょっと!俺のアスタロト王子と、イチャイチャすんなよ!絶対負けないからな!」

「勝手に俺をライバルにすんな!」

 俺たちがワイワイと揉めていると、部屋に新しく人が入って来た。


「ずいぶんと賑やかですね。

 皆さん仲がよろしいようだ。

 ぜひ我々も混ぜていただけませんか?」

 そう言って、従者を引き連れて来た、人中にだけヒゲのない、口ひげを生やした明るい茶髪の男性と、同じく従者を引き連れた、金髪に浅黒い肌のグラマラスな妙齢の美女。


「私はヘイオスの第2王子、チャムス・グラマラスと申します。

 どうぞお見知りおきを。」

「わらわはルクマの女王、ルクマ・アダルジーザ・ハイルベルン。よろしく頼むぞ。」

 ルクマ王国、アプリティオ王国、ナルガラ王国は国王、チムチは王太子が来てるのに、マガは国王の姪で、ヘイオスは第2王子が来てんのか。そこはせめて第1王子が来るところじゃねえのかな?王太子選定の儀って、国の重要な式典だと思うんだけど。


 一応王族だから、それでもいいのかな?

 ヘイオス王国とマガ王国は、ナルガラ王国を軽視していると思われても、仕方ない気がするのは俺だけなのかな?

 そう首を傾げていると、アダムさんが俺にコソッと耳打ちをしてくる。

「……ルクマの女王、アダルジーザ・ハイルベルン陛下は、ボスのもと1番目です。

 参考の為、ご承知おきください。」


 ……1番目?なんのことだ?

 俺がキョトンとしていると、

「……マリィさんがもと17番目です。」

 とアダムさんが補足してきた。

 マリィさんはエンリツィオの17番目、かつ最後の元愛人。つまりルクマの女王は、エンリツィオの1番目の元愛人ってことか!?

 一国の女王を愛人にするとか、どんだけだよ!!1番目ってことは、ニナンガ王国を逃げ出す際の足がかりにしたってことだな。組織の始まりはルクマ王国からだったのか。


「ちなみにルクマの王女は5番目です。」

 まさかの親子丼ですかい!?

 ねえ、お前ほんとになんなの!?

 俺は思わずエンリツィオを睨んだ。

「ルクマは褐色や黒色の人種の多いお国柄ですので、他の国では目立ってしまう転生勇者たちは、ルクマの組織に所属していることが殆どなんですよ。自由に他国に諜報活動に行かれない代わりに、金の管理ですとか、移動出来なくても出来る仕事をしています。」


 白色人種やアジア人以外は、ルクマ王国に集まってるってことか。確かに他の国はアジア系や白色人種の見た目の国民ばっかだもんな。アメリカにだって黒色人種の人はたくさんいるのに、組織に見かけないなって思っていたけど、そういうことになってたわけね。

 アダムさんとそんな話をしていると、ルクマ王国の女王、アダルジーザ・ハイルベルン陛下が、エンリツィオにスッと近寄り、


「久方ぶりよのう、ニナンガ国王。国王就任挨拶の歓迎式典以来か。あの時はそなたが他国への挨拶まわりが終わっておらぬとかで、あまりゆっくりもてなしも出来なんだ。

 また近いうちに我が国に来るがよい。今度はもう少しゆっくり歓迎してやろうぞ。」

 と、ゆっくり、の部分になんだか深みのある言い回しをしながら、艶然と微笑んだ。

 ゆっくり何をする気なんですかねえ。


 エンリツィオは手を切ったつもりでも、向こうは全然そのつもり、なさそうなんだが。

「その節は大変豪華な歓迎式典を催していただき、従者ともども感謝いたしております。

 ──またぜひ近いうちに、ご挨拶でも。」

「うむ、待っておるぞ。」

 エンリツィオはそれに対し、冷淡とも取れる態度で、当たり障りのない返答を返していたが、女王アダルジーザ・ハイルベルン陛下は、艶めいた目つきで目を細めていた。


「大変お待たせ致しました。準備が整いましたので、皆さま謁見の間にお越しくださいませ。これよりご案内致します。」

 従者がやって来て、ついにナルガラ王国の王族たちに挨拶に行くことになった。

 順番に、◯◯王国、◯◯さま、ご来場ですと従者が張り上げる声に従って入場する。


 謁見の間に入ると、国王を始めとする、王妃、王太子たちがズラッと壇上の豪華な椅子に並んで座っていた。王女の姿は見えない。

 王太子の婚約者のスイーティアの姿が見えないけど、まだ婚約者だから、一緒には並ばないのかな?国賓の案内役を任される程度には、特別扱いされてるみたいではあるけど。


 キョロキョロしているように見えないようにしながら、あたりを見回してスイーティアの姿を探すと、大臣たちと思わしき、いかめしい顔付きの人たちの近くに、背筋を伸ばして立っているスイーティアの姿が見えた。

 横にいる人は父親かな?髪の色が同じだ。

 それぞれの入場の順番は、ルクマ王国、アプリティオ王国、チムチ王国、マガ王国、ニナンガ王国、ヘイオス王国の順番だった。


 国の力順なのかな?国王や王太子が来ているから、ってことなら、国王の姪が来ているマガ王国が、国王が来ているニナンガ王国よりも先なのはおかしいからな。アプリティオ王国とチムチ王国が大国なのは知っている。

 てことは、ルクマ王国はこの中のどこよりも、力を持った国だということだ。


 ルクマ王国はアプリティオ王国同様、女系王族の国だから、アダルジーザ・ハイルベルン陛下は最も力のある王族ってことになる。

 そんな国の女王と、次世代の女王を元愛人にして後ろ盾にしているとか、エンリツィオ一家がデカくもなるわけだわ。裏組織ナンバーワンは伊達じゃないってことね。


 アスワンダムにはマガ王国が後ろにいるけど、別に後ろ盾ってわけじゃなく、後ろ暗い仕事の依頼主ってだけらしいから、いざとなったら助けてくれる存在ってわけじゃない。

 それにしても、 呼び出す順番も1番最後の弱い国だから、どうせ扱いが悪いならと、ヘイオス王国は第2王子を寄越したのかな?

 力関係が弱いなら、余計に礼儀として、国王を寄越すべきだと思うんだけど。


 そう思っていたんだけど、どうもそれだけとは限らないようだった。国王、王妃が順番に来客たちに、歓迎の挨拶をした後で、王太子がいきなり、ヘイオスの第2王子を名指しで歓迎した。……ふうん?あそこと、あそこは、仲がいいんだ?ルクマ王国の女王をすっ飛ばして、1番力の弱い国の、それも第2王子を真っ先に歓迎するなんて、噂に違わぬアホっぷりだな。アダルジーザ・ハイルベルン陛下が持っていた扇子をパチン、と音を立てて閉じて、王太子のことを睨んでいた。


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月イチ自己ノルマ更新、ギリギリ間に合いました汗

本日より恭司フィーチャーの、第5部スタートです。


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