番外編 世界旅行2(1)
<作者より>
前回同様、横文字が多いのでWeb限定です。
* * *
海外という言葉が、外国とイコールで使われるのは、島国である日本特有の文化だと思う。
overseasという単語があるが、例えばカナダの人がアメリカに行くのに、この単語は使わないだろう。
私たちは外国に行こうと思うと、どうしても海を越えなくてはならない。陸続きの国と比べて、外国に行く敷居が一段高い。その行きづらさが、海外への憧れを一層強くしている。
文化の違いもそうだ。
例えば、隣同士に位置するインドとネパールは、景色や食文化がとても似ているらしい。
日本と同じ島国でも、カリブ海の島々は、地理的・歴史的理由により、似たような文化が形成されている。
それらと比べて、日本は独特の風土や気候、言葉、食文化を持っている。そのため、どこの国に行ったとしても、異国情緒を味わうことができる。
私たち日本人にとって、海外旅行と国内旅行はまったく異なるもので、こうした様々な理由から、海外に対する憧れはとても強い。
と言ってもまあ、私はもちろん海外には行ったことがないし、国内旅行もほとんどまったくしたことがない。自分の想像をさも一般論のように述べてみたが、実際のところはどうなのだろう。
久しぶりに絢音がGeoGuessrをやろうと言い出したので、一緒にコンピュータールームに向かいながらそんな話をすると、絢音はくすっと笑って私を見た。
「私はヨーロッパとか行ってみたいけど、兄弟はまったく海外なんて興味なさそうだね」
言われてみると、うちの親も海外どころかそもそも旅行というものに全然興味がない。私とて、海外に行きたいというより、好きな仲間たちと一緒に何かしたいという延長線上に、選択肢の一つとして存在しているだけで、そこまで強い憧れがあるわけではない。
冷静にそう分析すると、絢音がうっとりと目を細めた。
「自分で言い出したことを、一瞬で否定する千紗都、可愛い」
「思い切りバカにされた?」
「そんなつもりはなかったから、もしそう思ったなら、千紗都自身がバカっぽさを感じたんじゃないかな」
絢音がまったく悪びれることなくそう言って、私の手をギュッと握った。実にいつもの絢音だ。
GeoGuessrはGoogleのストリートビューを利用したゲームで、ランダムに飛ばされた場所がどこかを、周辺の情報を手掛かりにして当てるというものである。正解の場所からポイントした場所までの距離に応じて点数が入り、1ゲームの最高得点は5000ポイント。1セット5ゲームで、初めてプレイした時は20533ポイントだった。
もちろん、いつまでもやり続けたり、見かけた看板を片っ端から検索して行けば、限りなく25000ポイントに近い点数を叩き出せるだろうし、逆に何も検索しないと、当てずっぽうのようになってしまって面白くない。
そこで私たちは、制限時間は大体10分。検索はGoogle Map上で1回だけという縛りを付けてプレイしている。
「今日はルールはいつも通りだけど、もう少し旅行を楽しもう。景色とか、温度とか、匂いとか」
コンピュータールームのドアを開けながら、絢音がそう言った。景色はともかく、後ろの二つは難しそうだ。
今日もコンピュータールームは混雑していたが、何台か使われていない端末もあったので、大丈夫そうな人にお願いして場所を空けてもらった。
「野阪さんたちがコンピューター室にいるの、レアだね。勉強?」
隣からそう声をかけてきたのは、1年の時に同じクラスだった子だった。2年になってからは初めて話す気がするが、元々世間話くらいしかしたことがないので、気まずさも珍しさもない。
「海外についての知見を広めにきた」
絢音がそれらしいことを言うと、その子は「おお、さすが秀才」と感心したように声を上げた。入学以来、ずっと学年順位一桁をキープしている人間が言うと、なんでも真面目そうに聞こえる。絢音もそれをわかっていて武器にしているから、怖い女だ。
慣れた手つきで絢音がログインする。久しぶりにやるので、若干無料でできる範囲が変わっているようだが、ゲームのルールはそのままのようだ。
早速PLAYを押すと、私たちはまったく見たことのない景色に飛ばされた。
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