第48話 応援(4)

 その夜、涼夏や私が撮った動画をグループに流すと、絢音がハイテンションで電話してきた。

 1時間くらい語り合った結果、結局絢音とも一緒に応援に行くことになった。基本的には、帰宅部内で体験は共有したいので、絢音が行きたいのであれば私もそうしたい。

 予定の合う日が決勝しかなく、涼夏がバイトだったので絢音と二人で球場入りする。今度はちゃんと試合前だ。

 チアチームは30人くらいになっていて、相変わらず炎天下の内野席で待機している。決勝は点差にかかわらず9回までやるらしいから、熱中症にならないよう気を付けて欲しい。

「大盛況だね。私、野球場って初めて」

 絢音が柔らかく微笑んだ。ちなみに、長袖長ズボンだ。暑いだろうが、日焼け的には楽かもしれない。私もアームカバーは持ってきたが、そもそも長袖にすればよかった。

 ただ、予選の球場よりスタンドが広く、観客が増えてなお、席に余裕があった。上の方に陣取れば、日傘を差しても大丈夫そうだ。

 開始前の元気な奈都の写真を撮ってから、上の方に並んで座る。日傘を差したら絢音が擦り寄ってきた。動きが可愛い。

 決勝戦。

 予選はほとんどコールド勝ちだったユナ高だが、準決勝は2点差だった。さすがにここまで来ると、相手のレベルが違う。決勝の相手はもっと手強いらしい。

 3回までスコアボードに0が並び、涼夏と見た試合とはまったく違って、もはや相手チームも頑張れなどという余裕は一切なかった。

「白熱だね」

 絢音がヒットを放った自校の選手に拍手を送る。その回、2点を取ったが、裏に1点返されて2対1。

 グラウンド整備の間にジュースを補充して、奈都の様子を見てから席に戻った。また奈都の冷やかしもしたいが、熱戦の上、今や満席で二人揃って席を離れることができない。

 汗を拭い、日焼け止めを塗り直し、スポーツドリンクを飲みながら応援を続ける。

 4対3の1点リードで迎えた9回裏、1死1、2塁からヒットを打たれて同点にされ、なおランナー1、3塁。

 盗塁で2、3塁になった後、敬遠で満塁に。何が起きているのかさっぱりわからない。

「戦略的にはわからないけど、ルール的には、どうせ3塁ランナーが帰ってきたら負けだから、塁を埋めておいた方がダブルプレーが取りやすい感じ?」

 絢音が自信なさそうに解説してくれた。合っているかはわからない。

 その後、バッターが粘りに粘って、フォアボールの押し出しサヨナラになった。こうなると、さっきの敬遠はどうだったのかと思うが、結果論だろう。

「負けちゃったか」

 私が呟くと、隣で絢音が、「感動と悔しさで涙が止まらない」と唸った。顔を上げて見てみたが、まったく泣いていなかった。変な子だ。

 今日は場所も遠い上、9回まで見てヘトヘトだったので、奈都に挨拶だけして、絢音と二人で真っ直ぐ帰ることにした。真っ直ぐと言っても、バスや電車を乗り継いで1時間以上かかるし、バス停は長蛇の列だった。一応、臨時バスが出ているが、時間がかかりそうだ。暑いし遠いし、歩くという選択肢はない。

 バスを待ちながら試合の感想を語り合う。バスが来たタイミングで話が途切れたので、満員でしがみついてくる絢音を撫でながら言った。

「今日の試合で野球部とか吹部とかバトン部とか見て思ったけど、やっぱり帰宅部の活動とは熱意が違ったね」

「うん?」

 絢音が至近距離で首を傾げる。最近ますます可愛くなってきた。

「私たちもそれなりに精力的に活動してるつもりだったけど、やっぱりまだまだだなって」

「精力的な帰宅部」

 絢音が微笑みながら復唱した。いつも真面目に活動していると奈都に訴えては笑われているが、確かに今日のバトン部の応援を見たら、私たちの活動が遊びに見えてもしょうがない。

 私が無念だと首を振ると、絢音が「まあ、遊びだけどね」と笑った。

 夏休み。今年の結波高校野球部は甲子園には行けなかった。それは残念だが、少なくともこれ以上野球の試合に奈都を取られることがないのは安心である。

 来年の夏はさすがに忙しいだろうから、今年はたくさん活動しよう。奈都が帰宅部の頑張っているところを見て、一緒に体感したいと思ってもらえるくらい。

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