第51話

 マナトは日記を書いていた。

 あれから望ましい変化が何個か起こった。


 まず、次の紅姫について。


 やはりというべきか、アケミに決まった。

 アリアを救出して、リュカの身を守ったスーパーヒーローだから、文句なしの選出だった。


 四ツ姫には優美さや穏健さが求められる。

 女学院にはそんな暗黙ルールが存在している。

 アケミのような女武者が、次の四ツ姫に任命されるのは、過去に前例のないことだった。


『くだらない風習は改めるべきですわ!』


 堂々と宣言したのはセイラ。

 これにて後継者問題は一件落着。


 リュカはいったん紅月の家に帰った。

 禁忌きんきである人の余命を占った罰として、祖母からこっぴどく叱られたっぽい。


 戻ってきたのは3日後。

 さすがのリュカも意気消沈していた。


「トホホ……紅月の一族も、占い師の素質を持つ者が減ってきてね……私がおばあさまの次の当主に内定してしまったよ。あ〜あ、もう1年留年して、セイラくんたちと一緒に卒業したいな〜」


 リュカは将来も占い師として生きていくことが決定した。


「私が法隆の当主になったら、リュカさんに占ってもらいます」

「いいけれども、紅月の占いは高いよ」


 2人きりのとき。

 リュカはマナトに打ち明け話をしてくれた。


「マナくんの隠し事を知っている、みたいな話をしたの、覚えているかな? あれはね、マナくんとセイラくんが愛し合っている、という内容だったんだ。しかも、この占いには続きがあってね。マナくんとセイラくんが結婚する、と出たんだ」

「ッ……⁉︎」

「びっくりだよね。2人は女同士なのにね。さすがの私も自分の占いを疑ったよ」

「あはは……」

「とはいえ、私の占いパワーも半人前だと証明されたばかりだが……ん? もしかして……あるいは……マナくんの正体って……」

「別件があるので失礼します!」


 頭を下げて逃げておいた。


 なんてことを……。

 マナトとセイラが結ばれる?

 そんな素晴らしい未来、信じたくなるじゃないか。


 話を日記の内容に戻す。


 リュカの部屋は、不在のあいだに調べておいた。

 怪しいものは出てきたが、占いに関するグッズばかりで、避妊具を落とした犯人であることを示す証拠はなかった。


 先代の蒼姫から情報をもらった。

 リュカと一緒に入浴したことがある。

 間違いなく女性だった、とのこと。


 わからない。

 だったら、避妊具を落とした犯人は誰なのか。


 マナトとセイラは死ぬほど悩んだ。

 ローラー作戦で潰していくのが王道だが、もっと効率的なやり方を見つけたい、というのが本音だった。


「ねえ、マナ、何か良いアイディアは?」

「1個だけあります」

「奇遇ね。私も1個だけアイディアがあるわ」

「だったら、せ〜の、でいいますか?」

「いいわよ。せ〜の……」


 リュカに占ってもらう。

 困ったときの神頼みならぬ、困ったときのリュカ頼みだ。


「ん? 避妊具を落とした犯人? ああ、あったね、そんな事件が。へぇ、私の占いで特定したいと……いいよ、引き受けよう。生徒会長さんのご命令だから、今回は無料にしておくよ」


 リュカはタロットカードをめくった。

 時間をかけて、何回も、何回も。


 結果を紙に書き出していく。

 そして、ペンのお尻で頭をトントンした。


「う〜ん、占ってみたのだが……おかしいな、何回占っても不思議な答えしか出ないな」


 紙を読ませてもらった。

 そこには、どこかで見たことのある一文が書かれていた。


『避妊具を落とした犯人は四ツ姫の中にいる』

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