第49話
「そう……リュカさんが、そんなことを……」
長いまつ毛を持つ
その肌は白玉のように透き通っており、約800年前を生きた
先代の蒼姫である。
東京の有名女子大に通う1年生だから、セイラよりやや大人っぽい。
紅月リュカのことで相談が……。
お願いして時間を割いてもらった。
「リュカさんが病んでいた理由、私は知っています。復帰したと聞きましたから、てっきり克服したものと思っていましたが……」
先代の蒼姫は困ったように首を振る。
「生徒会長として、同じ四ツ姫として、リュカさんの異変は見過ごせません。やはり、ご病気なのでしょうか?」
セイラが強い声でいった。
「ええ、病気ね」
「どのような?」
「心の病よ」
その時、パタパタと足音が近づいてきた。
セイラとマナトは背中を押されて、ロッカーの中へ閉じ込められる。
ドアが開く。
入ってきたのはリュカで、頬っぺたが上気していた。
「ひどいじゃないか、蒼姫! 急に女学院を訪ねてくるなんて!」
「お久しぶりね、紅姫。どうしたの、取り乱しちゃって?」
「セイラくんだろう、君を呼んだのは?」
先代の蒼姫は、答える代わりに、リュカに椅子を勧めた。
「そんなにカッカすると、寿命が縮みますよ」
「話をすり替えないでほしいな」
「すり替えていません。それに、セイラさんの差金ではありません。紅姫の様子が気になり、私からセイラさんに連絡したのです」
「やっぱり、セイラくんと裏でつながっていたか。ひどいぞ」
「まあ、身勝手なところは相変わらずね」
それから舌戦となった。
話題は占い研究部のことにも及んだ。
「私たち12人で一緒に卒業する約束だったのに……あなたは長いあいだ引きこもったままで……」
「うっ……その点については申し訳ない。心の整理が必要だったんだ」
リュカは悔しそうに拳を握った。
「自分の寿命を占ってしまった。本当にバカなことをしたと思っている。好奇心は猫をも殺すというが、まさにその通りだ。私の占いによって私は死ぬ」
「バカなことはいわないで。それで? 占いで死期はいつと出たの?」
「今日だ。まさに今日だよ」
マナトとセイラの肩がビクッと震えて、ロッカーの中で息を殺すのに、苦労するハメになった。
リュカの視線がこっちを向く。
けれども、何事もなかったかのように元同級生を見つけた。
リュカが心を病んでいた理由。
それは余命の少なさを知ったせいだった。
あと1年くらいで死ぬ。
それを知ったら、生きる気力を失くすのも無理はない。
女学院を卒業することに何の意味が?
そんな無力さに囚われるだろう。
「バカなこといわないで、紅姫! あなたは健康に生きているじゃない!」
「紅月の占いの力は、紅月である私が一番知っている。それと同時に、人の死期を占うのが、なぜ
バカげている!
そう叫びたいのはセイラも同じなのか、マナトの肩を握る手に力が入っていた。
「それで? 今日のいつ死ぬの?」
「もうすぐだよ」
リュカは壁の時計を気にした。
「17時17分に死ぬ予定だ。あと数分したら、私の心臓は止まっている」
「信じられないわ。この女学院は、地球上のどこよりも平和なのよ」
「ああ、私だって信じられない。それでも、死ぬ」
「ムカつく。その頬を張り飛ばしたい」
「やめてくれ。倒れた拍子に、側頭部を強打するかもしれない」
「…………」
先代の蒼姫は、すうっと息を吸い込んだ。
「目を覚ましてよ、紅姫! どうして占いに逆らわないの⁉︎ あなたには自分の意思がないの⁉︎ そんなの、お人形と一緒よ!」
「かもね……。紅姫として、最後の仕事を済ませてきた。簡単な遺書さ。その中に、次の紅姫の名を書いている。あの子なら、私なんかより立派に四ツ姫の務めを果たしてくれると期待している」
「まあ……」
そうこうしているうちに時計の針が進んでいく。
17時16分になった。
リュカの死まで残り60秒。
「そうだな、死ぬなら建物の中じゃなくて、柔らかな夕日の注ぐ原っぱがいいな」
リュカは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます