第四十話 人形の恋




「ジェラルド!」


 叫んで、リートはまっすぐにジェラルドに駆け寄った。


「リート!」


 ジェラルドは腕を広げて、飛び込んできたリートを抱き留めた。

 瞳と瞳を見交わしあう。リートの目から涙が溢れた。

 次の瞬間、リートの胸元がカッと白く光を放った。ジェラルドは、その光がきゅううと収束していき、リートの胸に収まっていくのを目にしたが、リート自身はそれに気づかないようで、ただジェラルドを見つめていた。


「ジェラルド……私は……」


 リートが口を開いた。その時、広間に目映い光が迸った。


「!?」


 目をつぶったジェラルドだが、見えずとも、何か、とんでもない存在が広間に降り立ったことは本能的に感じ取れた。

 背に回されたリートの腕に力がこもる。ジェラルドも抱く腕に力を込めた。もう二度と、見失わないように。


「リート、こっちへ来い」


 怒りに満ちた、低い声が響いた。

 ジェラルドが目を薄く開けると、広間の真ん中に、白い光に包まれたこの世の者とは思われぬほど美しい男が佇んでいた。

 広間に集まっていた貴族達は惚けたように床に座り込んでいる。リートを名乗っていた少女が、男に平伏していた。


「リート」


 男が呼びかける。


「……お許しください。私は、天界には帰りません」


 リートが震える声で言った。


「何を言う? お前は私の創った人形だぞ」


 男が嘲るように吐き捨てた。意味はわからないが、ジェラルドは男を睨みつけた。


「リート。お前は私のものだ。天界に帰ったら、この世界の記憶など消してやろう。そうすれば、以前とまったく同じ暮らしに戻る。安心しろ」


 リートはふるふると首を横に振った。


「私は……私は、以前の暮らしには戻れません。ジェラルドに会う前の自分には、もう戻れないのです」


 リートはぎゅっと口を引き結んで、心から湧き起こる想いを吐露した。


「たとえ記憶を消されたとしても、もう私は、ジェラルドと出会う前の私には戻れない。今の私はもう、アモルテス様のご存じない、ジェラルドに恋してしまった私なのです!」


 リートの言葉に、男の美しい顔が怒りに染まった。



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