髪切り
母から聞いた、40年近く前の話。
当時、高校2年生だった母のクラスに、Sさんという女子がいた。腰まである長い黒髪が印象に残っているが、どうしても顔が思い出せないそうだ。
Sさんは毎日マスクをつけて登校し、1日中外すことがなかった。昼食を取る時だけ一口ごとにマスクをずらしていたが、すぐ元に戻していたため、マスクをつけた印象しかないらしい。
Sさんは他のクラスメイトとの交流が薄く、不気味な雰囲気から邪険に扱われることが多かった。影では「Sさんと話すと不幸になる」「野良ネコを殺して遊んでいる」などの噂が流れていた。
クラスの中心核となっている一部の女子は、Sさんの教科書をゴミ箱に捨てる、体操着を隠すなど、陰湿なイジメのターゲットにしていた。Sさんはクラスから完全にハブられている状態であり、母もほとんど話した記憶がないとのこと。
そんなSさんとの数少ない思い出のひとつが、かなり奇妙だったと母は語る。それは、数学の授業中に起きた。
当時、母の左隣の席がSさんだった。なぜかは思い出せないそうだが、ふとSさんのことが気になり、視線を向けた母。
Sさんはノートに怪しげな文様を描いていた。ハサミで右手の人差し指の先端を傷つけ、流れ出た血を使って。大きな円の中に何重にも重なった三角形。六芒星のような形。数学で習う図形ではない。
Sさんは母の視線に気づいたのか、顔を向けた。母はギョッとし、「まずいものを見てしまった。何かされるかも知れない」と思い、視線を逸らそうとした。
しかし意外にも、Sさんはマスクの下で笑っているようで、目を細めていた。
そして自分の長い髪を掴み、ハサミでバッサリと切り落とした。
突然の出来事に、クラス中が騒然となった。授業は一時中断となり、先生はSさんを連れて保健室へ。それ以来、Sさんが教室に姿を現すことはなかった。
翌日からクラスに異変が起きた。体調を崩して休む生徒が急増したのである。インフルエンザのような流行り病ではなく、胃腸炎や骨折など休む理由は様々。中には手術、入院を余儀なくされた生徒もいた。
2週間ほどで、クラスの半分近くが休むことに。休んだ面々というのは、日頃からSさんの悪口を言い、イジメに関与していた生徒たちだった。
Sさんの奇行とクラスメイトの体調不良。何か関係があったのではないかと、母は今でも考えている。
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