コンビニの闇の中で

 安西 海斗(あんざい かいと:仮名)さんという男性から聞いた話。


 安西さんが大学生時代、アルバイト中に体験したエピソードである。


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 安西さんはコンビニでアルバイトをしていた。コンビニといっても、大手チェーンやフランチャイズではなく、個人経営のお店だった。


 当時住んでいた家から徒歩5分ほどの距離にあり、ちょうどアルバイトを募集していたのを知ったのである。安西さんが子どもの頃からあるお店で、お客さんとしてもよく利用していた。


 働き始めてから3ヶ月が経ったある日のこと。安西さんは夜20時から0時までのシフトで、店長と2人で店を回すことになった。


 店長は痩せ型で長身の男性、年齢は60歳前後。明るい接客をモットーとしており、従業員に対しても柔和に接してくれる優しいおじさんという感じだった。


 夜のシフトは21時から1時間ほど、レジから一瞬たりとも離れられないほど忙しくなる。使用期間を終えたばかりの安西さんとしては、かなりきつい時間帯。


 店長は作業に慣れているので、お客さんを捌くスピードは安西さんの何倍も早い。安西さんとしては心強い存在だった。


 しかしこの日、21時になる少し前から店長の姿が見当たらないのである。レジ前にはすでにお客さんの列が出来ており、安西さん一人で対応していた。


 レジの下にバックヤード(飲み物を陳列している棚の裏側にある、商品の在庫などが置かれているスペース)にいる従業員を呼ぶためのベルがついていたが、何度鳴らしても店長が出てくる様子はない。


 過去に店長と一緒のシフトになったことは何度かあったが、21時からの忙しい時間帯はどんな作業よりもレジの対応を優先してくれていた。少し奇妙に感じたが、次々やってくるお客さんの対応でそれどころではなかった。


 鬼のように忙しい時間をくぐり抜け、お客さんはひと段落した。それでも店長は戻ってこない。


 様子が気になった安西さんは、店長を探して回ることにした。レジから死角になっているお菓子コーナーにもいない。コンビニの外に出てみたが、周囲にいる気配はない。


 あとはバックヤードの中だが、さっき散々ベルを鳴らしても反応がなかったので、店長はいない可能性が高い。


 念のためと思い、バックヤードの扉を開けた。いつもは電気が付いているのだが、真っ暗になっていた。


 安西さんは入り口のすぐ横にあるスイッチを押し、明かりをつけた。


 店長がこちらを向いて直立していた。


「うわぁっ!」と声を上げてしまった安西さん。店長は目の焦点が合っておらず、黒目がキョロキョロと動き、ブツブツと何かを呟いている。


「店長…?」


 安西さんが声をかけると、店長はニヤリと笑い、何も言わずにゆっくりと安西さんの横を通り過ぎ、バックヤードから出ていった。


 妙な緊張感と店長の不審な行動を見てしまったことで、安西さんの心臓は破裂しそうなほど鼓動した。しばらくの間、その場で動けなくなってしまった。


 バックヤードを出て店内に戻ると、笑顔で接客している店長の姿が見えた。いつも通りの、安西さんが知っている店長に戻っていた。


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 その後、不可思議なことが相次いだ。レジのすぐ近くにあるアイス売り場のアイスが何者かに食べられていたり、バックヤードに補充したばかりのペットボトルや缶が散乱していたり。


 働き続けるのが怖くなった安西さんは、勤務5ヶ月目にアルバイトを辞めた。店長からは特に引き止められることはなかった。


 安西さんはしばらくの間、あのコンビニには近づかないようにしていた。しかしアルバイトを辞めて3ヶ月ほど経ったある時、ふと前を通りかかった。コンビニは大手のチェーン店に変わっていた。


 少なくとも20年はあったお店が突然変わってしまったことに驚いた。あの時の店長の様子を考えると、経営的にうまくいってなかったのかもしれない、と語ってくれた。


※ご本人や関係者に配慮し、内容を一部変更しています。

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