弱小種族による、危険な世界の歩き方。~『力』を持たないその薬師、『不条理』と『理不尽』と『最弱の運命』にドーピングで抗う~
お姫様抱っこは安定感に欠けるって聞いたことある。やったことないから知らないけど
お姫様抱っこは安定感に欠けるって聞いたことある。やったことないから知らないけど
僕のいままでの人生で、間違いなく一番幸せな時間。
――――でも、その時間は長く続かなかった。
先に気づいたのは、僕だった。
「っ、ヒルダ、目と耳を塞いで!」
突然鋭く叫んだ僕に、一瞬戸惑ったヒルダ。だけど、すぐに僕の言葉に従う。
そしてその直後。
―――――――――――――ッッ!!!
とてつもない轟音、そして閃光が僕たちに襲いかかった。
「ヒルダ、大丈夫!?」
「う、うん・・・なんとか。でも、まさか今のは・・・」
「音と光がほぼ同時だった。発生源はそう遠くないはず・・・!だけど、かなり微弱だったけど振動が先に来た・・・クソっ、情報が少なすぎる・・・!」
可能な限り現状を分析しようとするが、あまりにも材料が足りない。振動を感じた時は光か轟音のどちらかが来ると思ったけど、まさかどっちも来るなんて・・・。どういう原理だ?
いや、落ち着け。物理的な原理なんて思考するだけ無駄だ。
知識を掘り起こせ。あの轟音と閃光。僕の知るなかで、あれと同じ効果を発生させるものはなかったか?
主作用だけじゃない。副次的な現象まで含めて考えろ。
高速で頭を回転させる僕をよそに、ヒルダは呆然としている。音と光への対策は間に合ってたはずだけど・・・。
しばらくして。彼女の口から言葉が漏れる。
「封印が・・・解かれた?」
その言葉を聞き。僕はヒルダが名乗っている時のことを思い出す。
『私の名はヒルダ・オルクス。この封神の里の神子にして、民を束ねる族長です。』
そう。ヒルダは確かに言っていた。『封神の里』、と。そこまで思い出し、僕はひとつの可能性に思い至る。
「まさか・・・『神成り』・・・?」
あの轟音と閃光。あれが、未知の鬼神種の角から発された可能性。
我ながらあまりに突飛な発想だが、ありえなくはない。
ヒルダの時にそうだったように、鬼神の角は上位元素を集めれば集めるほど強く光輝く。それが異能である『神成り』の時にどうなるかまでは僕も知らないけど・・・もしかしたら、上位元素を集めた時以上に光り、音まで発する可能性もある。
断定するにはあまりに材料が少ないけど、『封神の里』、そして『封印が解かれた』というヒルダの言葉からすると伝説級の鬼神種のような、なにか神に類するものが解放された・・・?
普通の鬼神種の力では、封印するしか無いような強大なモノが。
・・・・・・いや、知らないことをこれ以上思考しても仕方がない。察しの悪い僕が1人で考えてたって答えにたどり着けるわけが無い。ていうか、事情を知っていそうな相手がいるんだから聞けばいいじゃないか。
僕は自分が思っているより、随分混乱しているらしい。
「ヒルダ、何か心当たりあるの?」
「・・・ええ。」
「封印が解けたっていうのは・・・」
青い顔をしたヒルダが、短く頷く。
「言葉通りです。いえ、正確には解けかけている、と言いましょうか。
この里はもともと、彼の者を封じ、その封印を監視するために存在する場所なのです。恐らく、先程の光はシルヴァの言う通り『神成り』でしょう。その天外の力で封印を無理やりこじ開けようとしている・・・と、思われます。」
「なるほどね。封印の監視・・・この里が鬼人種としては珍しく、山奥にあるのもそれが理由か。」
「その通りです。・・・しかし、封印はいずれ解けるものだとはわかっていましたが・・・まさか、こんなタイミングで、とは。」
そう言って、ヒルダは悔しそうに歯噛みする。
「ヒルダ、とりあえず封印の場所に行こう。その道中で、何を封印しているのかも含めて、詳しく話を聞かせて。」
「・・・・・・いえ、シルヴァはここにいてください。倒れたばかりの身では危険です。」
その言葉は正しい。けど、その不自然な無表情に、僕にはヒルダが何かを隠しているように見えた。
だったら、話をしよう。
やっぱり、対話は大事なんだから。
「ヒルダ。」
「っ、なん、ですか?」
「僕たちは、まだ出会ったばかりでお互いのことを何も知らない。」
「・・・・・・・・」
僕の言葉に無言になるヒルダ。
そう、僕は彼女のことを何も知らない。年齢も、好きな物も、今まででどうやって生きてきたのかも。そして、何を抱えているのかも。
本当に、何も知らない。
だけど。
「でも、あの時言ったでしょ?」
「え・・・・?」
「僕は、あなたと支えあって、守りあって。二人で一緒に幸せなりたいって。」
「・・・・・!」
それだけは確かなんだ。知らないところはこれから知っていけばいい。
ヒルダが何を抱えていたとしても。
それを支えるのが、僕の願いだ。
「ヒルダ。僕は君の力になりたい。」
「っ、そう、ですね。そうでしたね。私としたことが、少し視野が狭くなっていたようです。」
そう言って、ヒルダは笑う。
「行きましょう、シルヴァ。正直なところ、この状況は私1人では荷が勝ちすぎます。」
「そうこなくっちゃ。待ってて、すぐに準備する。」
僕は立ち上がって部屋を見渡す。
僕の上着とバックパック、そして首に掛けていた音響頭角は部屋の隅においてあった。
僕は手早く準備を済ませる。ちなみに服は有難く借りておくことにした。今は、着替える時間も惜しい。
「よし、準備万端、かな。行こう、ヒルダ。」
「ええ。・・・でも、決して無理はしないでください。」
「あはは、申し訳ないけど約束しかねるなぁ。僕は、無理しないでできることが少なすぎるからね。」
僕は今まで、無理と共に生きてきたんだ。今更、無理をしない方法なんて逆に思いつかない。
おどけたように。でも本気でそう言う僕に、ヒルダは険しい顔を向ける。
え、何、どうしたの?
「ダメです。約束してください。守りあいたいと、あなたが言ったのではないですか。」
「そ、それは、そうだけど・・・」
「一方的に守らせろとは言いません。でも、あなたが傷つかないようにしたいと思う私の気持ちもわかってください。」
これは、ぐぅのねも出ない。なるほど、確かにぼくの事情だけ理解しろというのは不公平だ。
「・・・わかった、約束する。少なくとも、独断専行はしないよ。」
「ええ、そうしてください。」
そう言ってヒルダは優しく微笑む。
「よし、行こうか。ヒルダ、案内おねがい。」
準備はできて、お互いの気持ちも確認した。後はもう現地に向かうだけだ。
そう思う僕の前で、ヒルダは少し考えて・・・首を横に振った。
「・・・いえ、それよりこちらの方が早いです。」
「へ・・・?」
そう言うと、彼女はおもむろに僕を抱えあげる。
・・・ああ、確かに。この方がはやいよなぁ・・・
「えっと、その・・・おてやわらかにお願いね?」
「申し訳ありませんが、約束しかねます。」
あれ、もしかしてヒルダ怒ってる?
「しっかり、掴まっててくださいね!」
そんなこんなで。
僕はヒルダの腕のなかで、封印の地に向かうことになった。
・・・安心感と安定感すごいなぁ・・・
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