第135話


 午後になって漸く烏川は戻って来た。


「……」


 そして何食わぬ顔で隣の席に着く。


「……何かあったのか?」

「まぁ、ね」


 含みのある言い方に背筋がゾワゾワする。何か良くない事か起きそうな予感しかしない。


「門の警備員が」


 殺されたそうよ。


 僕にしか聞こえないような声量でそっと呟いた。その事でいっぱいになり、それからの授業は全く頭に入ってこなかった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「つまり、既にここは安全じゃ無いって事か?」

「そうなるわね」


 烏川の予想によると、今夜にも新たな被害者が現れるとの事。


 今からの放課後、用事を空けておくように言ったのは僕が勝手な行動をして孤立するのを防ぐ為との事だ。


「いっその事、今晩は学園の外で過ごす方が良いかもしれないわね。一応あてはあるけれどどうする?」

「そう、だな……」


 情けない話だが、今回の刺客も僕では刃が立たない相手だろう。上達したとは言え、相手は警備員すら倒してしまう様な殺しのプロ。


 烏川も少々分が悪いと判断したのだろう。だが


「なあ、烏川」

「何?」

「僕は何かしら重要な存在かもしれない。けど、他の人間を見捨てて1人助かるのは違うと思う」

「………続けて」

「えっと、だから、なんていうか……」


 どもりながらもなんとか言葉にする。


「ここで過ごせないか……?」


 恐る恐る烏川の方を見るとその青い瞳で静かに僕の様子を窺っている。


 手を顎に当て、暫く外を眺め、そしてやっと口を開く。


「分かったわ。なら、そうしましょう」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る