第30話


 初めての実技が終わった次の日の朝。


「ふっ!」


 ロッカを振り下ろす。勿論起動はさせておらず、エレミュートで形成された刃は無い。


 ここは寮に設置されたトレーニングルーム。


 体育館のシュミレーションルームの様な実戦は出来ないが、かなり丈夫なサンドバッグや射撃練習用の的があり、それにこの部屋自体もなかなか広い。


 だからこういった自主練くらいはできる。


「ふっ!」


ガチャッ


「…………」

「先客が居たのね」


 入ってきたのは烏川だった。何やら工具箱とシオンを肩にかけている。


「邪魔したわ」

「いや、大丈夫だぞ?」


 出直そうとする烏川を止める。別にこの部屋を独り占めするつもりはないし、僕が使うスペースは広くない。


「そ。じゃあお邪魔するわ」

「あ、ああ」


 それだけ言って烏川はシオンと箱を置き、箱の中身を広げる。表情の乏しいその横顔は、今日はどこか暗い様子。


「どこか調子でも悪いのか?」

「………?そういう訳じゃないけど」

「そ、そうか」


 会話が途切れ、作業を始める烏川。僕も自主練を再開する。


「…………」


 烏川は刀を使っていたからてっきりソードデバイスをメインにするのかと思っていたが、昨日のハウンドは今烏川が弄っている中遠距離のガナーデバイス、シオンしか所持していなかった。

 そして、せっかくこの学園にはハウンドの開発、調整施設である【開発室(ラボラトリー)】があるというのに自分で調整している。


「集中力が散漫な状態じゃ、あまり意味無いわよ」

「わ、分かってる!」


 一旦頭から余計な邪念を振り払い、また見えない敵に剣を振るう。


「(1、2、3……)」

「………」


 昨日はたまたま上手く行っただけ。今日も上手くいくとは限らない。


「………毎日してるの?」

「んえ?」


 突然話しかけられ、変な声が出る。


「まあ、そうだな」

「ふーん、そう。なら」


 組み立てを終えたらしく、シオンを床に置き、ズイッと僕に顔をよせる。


「手伝ってあげようか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る