第5話
カランッ………
「…………」
定休日の札が掛かったドアを開ける。そこにはメイド服を着た女性とカウンター席に座る中年の男性が1人。
「マスター、いつものを頼む」
「ふっ、マスターはよせ」
マスターと呼ばれたメイド服の女性はアンニュイな顔を浮かべ『いつもの』を男性に差し出す。
「これが……ふっ、頂くとしよう」
男性はそのとても料理とは言いたくない謎の異臭を放つ物体『いつもの』をスプーンですくい、口に運ぷ。
「はむ……」
そして、優雅に咀嚼する。禿かけてるクセに無駄にダンディな雰囲気。しかし
「ゔゔゔおおおおええええええええええええええええぇぇぇぇっ」
次の瞬間、悲鳴の様な呻き声と共に嘔吐する。床に落ちた吐瀉物は泡立ち被害を増大させ、何故か煙をあげる。客が他に居ないから良かったものの、もし居たら大騒ぎになってる。
「何してるの2人とも」
「「あ」」
流石にツッコミを入れざるを得なかった。
「いやはや、暁海ちゃんじゃないか。おかえり」
そう言って男性はハンカチで口元を拭きながら再びダンディな雰囲気を醸し出そうとする。
が、はっきり言って手遅れ。全然カッコついてない。
「聞こえてた?定休日に何してるのって聞いてるんだけど」
睨みつけるも男性はそんな私を見てケタケタと笑いながら今時古典的な雑巾掛けをしている。部屋の端にある清掃ユニットを使えば良いものを。
「そりゃあマスターの定番料理を頂いてたに決まってるじゃないか」
「あんなモノを勝手にウチの定番料理にしないでくれないかしら」
控えめに言って汚物。あんなモノを料理だなんて、世界中のあらゆる料理に失礼だ。
「だってよマスター」
「ふっ、マスターはよせ」
「紅葉さん、そのキャラ似合ってないから」
メイド服の女性はわざとらしく肩を落とす。【
つい昨日キッチン出禁にされたというのに、ホント懲りない人だ。
「暁海ちゃんは今からバイトかな?」
「定休日って言ってるの。ボケてんならさっさと退職して老人ホームに行ったらどう?」
私の悪態を新手のジョーク、漫才とでも勘違いしているのかまたケタケタと笑う。何処と無く酒臭い。朝から飲んでたな、このハゲ。
「ごめんごめん、おふざけはやめるから」
この軽そうな感じ、苦手だ。そろそろてっぺん禿そうなんだからこの無駄に高いテンションもそれ相応に落ち着けば良いのに。
「いやホント、武凪士学園の理事長が保証するよ」
武凪士学園理事長【
この化狩学園都市の中で最も力を持った人物の1人。表向きのコイツを知ってる人がこの有り様を見たらどう思うのかしら。
「で、今日は何しにきたわけ」
スクールバックを適当に放り出して隣の席に座り、横目を向ける。どうせ碌な用事じゃ無いんでしょうけど仕事上、なるべく"クライアント"の要望には応えないといけない。
「いやね、この前の依頼を確認をしておきたいんだ」
そう言って中年はニヒルに微笑む。
正直ぶん殴りたいほどムカつく微笑みだった。
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