シガレット Ⅰ



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「 青山通りの信号待ちで 」








濡れた駐車場に、鋭い風が通り抜けた。






セットしてない髪がサラサラ、

砂のごとくこぼれてく。


真っ黒を睨むのは雲隠れした満月だった。

ネットニュースにウルフムーンとあったが、

どうやら今月の満月のことらしい。

ウルフだとかストロベリーだとか、よく名付けたものだ。




シルクみたいな濡れ羽色の闇に大理石みたいな雲が薄くレイヤードして、そこから鈍く光る月は綺麗だった。


綺麗だと思うものに上限はないが、美しいものにかぎりはある。




煙草に火をつけようとしても、湿った空気のせいで上手くいかない。この時期の雨はやけに偉そうだが嫌いになれない。


車内でループされる洋楽の合間に、たまに窓へとぶつかる雨粒でビート音が奏でられていた。


ワイパーで跳ねる水滴をぼうっと見つめながら、左手でハンドルを操作した。



火もつけずに咥えたままの煙草は無味だった。




いつかの声が反芻されて、心地悪さに吐き出した。煙草はやめなよと言うくせに、タバコの匂いの香水を付けるような女だった。




無意味を欲すものこそが、雨のゆく末である。




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