東京の星は燃え尽きない

星雫々

リボルバー

×


東京タワーを軸にするように、

波紋は広がっていく。





だらりと下がってしまった腕は、手元にくるりと巻き付けられたままの傘と一体化している。


コンビニの安物の傘は何にもならない。


剣にも、ピストルにも、なれない。





傘が畳まれたままなので、鉛の空とのかくれんぼは上手くいかなかった。私は隠れ蓑を失ってしまったから。




微温湯のような雨がとめどなく降り続く真昼間。冬の雨は鋭くて、冷たくて、あんなに紳士なのに、一転して春の雨はどうだ。


上昇する温度、洗う気のない空気、涙と同じ温度の水滴。滑稽だなァとおもう。似た者が水たまりに映っていた。




全身濡れて雨に犯された私を、通りすがる者が横目で追いかけるのが肌で感じられたけど、この水滴だけが味方だと思った。


わざとらしく地面を蹴ったら、水たまりが美しい水飛沫をつくりあげた。道端のタンポポに浴びせた。嬉しそうに縮こまる花弁が憎らしかった。



蒼穹は無口なのだ。会話をしようとはしてくれない。熱心に見あげようとも、踵を返そうとも、表情を変えない。微笑をこぼすだけ。滑稽な春雨よりはマシかもしれない。だけど、ひどく酷薄なのだ。





× × ×



たった独り、泣き叫ぶ少女は東京タワーを睨んでいた。



たかが赤い鉄芯を、思い切り睨みつけていた。左手に臙脂色の筒を握りしめ、それを地面となるべく近いところまでだらりと落としたまま、少女は叫んだ。


その筒に何の芯も無いことを理解していたから、核心を求め、叫んだ。向こう側の穹は白い。そんな、3月の狂おしさ。





×

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る