ミステリー好きの悪役令嬢は好奇心を抑えられない
黒木メイ
第一章
プロローグ
魔法・魔道具において他国の追随を許さない先進国、フリートラント王国。その中でも特にフィッツェンハーゲン公爵家とその一族は、国内外から一目置かれている。
ここで少しフィッツェンハーゲン公爵家一族について語っておこう。
『フィッツェンハーゲン』は建国当時から存在している歴史ある一族である。
貴族でありながらも出世欲は少なく、好奇心と研究心の塊のような人物が多いのが特徴だ。特に魔道具に関心が強い者が多く、次々に新しい魔道具を生み続ける金の卵達を抱えた一族として周知されている。
もちろん中には研究に関心の無い者もいる。そういった者はフィッツェンハーゲン公爵家当主が運営する魔道具専門商会に勤め、研究費を稼いでくるという役割を担う。
故に、フィッツェンハーゲン公爵家一族は他家と婚姻するよりも旨味が強い身内との婚姻を繰り返してきた。
そんな一族の今代当主の末娘、『イザベル・フィッツェンハーゲン』。
銀髪のサラサラロングヘアに色素薄めな紫の瞳、たまにしか動かない表情筋がデフォルトな十八歳。それが私である。
ちなみに、前世は黒髪、黒の瞳を持つ日本人で、魔法や魔道具には全く縁の無い生活を送っていた。前世から思い返してみてもあいにく研究というモノには全く興味が湧かないけれど、前世の記憶はこちらの世界でとても役に立った。
あれは確か八年前……フィッツェンハーゲン公爵家が年に一度親戚のみで開くパーティーという名の『学会』でのことだ。私は研究脳な親族達に囲まれ辟易していた。会話に入っていけず、でも何か話さなければ、とつい知ったかぶりでポロリと前世の便利アイテムについて話してしまったのが始まり。
一瞬の沈黙の後、好奇心旺盛な研究者達から質問攻めにあい、まさかまさかの数カ月後には実際に商品化。その後『学会』は年に一度から月に一度に増やされた。毎回私はその『学会』に強制的に参加させられ、気が付けば私の生活は前世と同じくらい快適な
――――心の底からやめて欲しい。
そういった経緯から、私がこの国の第二王子の婚約者となるのはある意味仕方がなかったと思う。
当初は王太子妃にという話もあったらしいが、それだけは断固として拒否した。王太子妃とか荷が重すぎるし、正直面倒でしかない。当時、すでに宰相の娘コリンナ様が次期王太子妃として選出されていたので、これ幸いとばかりに「よいしょ!」して何とか乗り切った。元々、王族との婚姻等考えてもいなかった一族だ。周りも納得してくれた。
第二王子妃としての勉強はなかなかに大変だが、前世での受験戦争や社畜な日々のことを思い出せば意外にもなんとか乗り切れている。
――――それに、王族の周りには私の好奇心をくすぐるモノがあった。
ソレは、煌びやかな世界に渦巻く嫉妬や陰謀といったドロドロとしたもの……が産みだす『謎』だ。前世では巡り合うことがなかったリアルな事件がわりと高確率で起きている。
大のミステリー好きな私は、不謹慎にもそういった話を耳にすると胸がドキドキしてときめきが止まらなくなる。
もちろん、実際にそういった事件に首を突っ込むことはしない。ただ、あれこれと自分の中で推理して己の好奇心を満たすだけだ。
————————
そんなある日、とうとう私自身にも『事件』が降りかかってきた。
「イザベル・フィッツェンハーゲン! 貴様との婚約を破棄する! そして、私の最愛であるエミーリア・ロンゲン嬢殺害未遂についての罪をここに告発する!」
王家の特徴である金髪に、薄い緑の瞳を持つ第二王子『ラース・フリートラント』が、シルバーピンクの髪に、ピンクの瞳を持つふわふわとした印象の女生徒を抱き寄せて声高らかに宣言しているのを見て、私は淑女としてはあるまじき表情を浮かべた。
己の婚約者に婚約破棄を宣言されたショック————ではもちろん無く、突然降って湧いた『事件』を己の手で解決する機会が訪れたことに茫然としたのだ。
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