第11話 学級会で徹底糾弾される




 

 その日の学級会の議題は、もちろん、体育の時間に発生した一大事件だった。


 いつもなら、早く帰りたくて気もそぞろなのに、ショッキングな事件が起きた日だけは、がぜん活発になって、だれも時間を気にしなくなるのが5年3組である。


「うしろから麗羅さんを突き飛ばした藍子さんがいけないと思います」

「なにもわるくないのにけがをさせられた麗羅さんがかわいそうです」

「自分が1等になるため前の人を突き飛ばすなんて卑怯だと思います」


 そんな意見ばかりつづき、藍子は黙ってうなだれているしかなかった。

 あげくに、床に手を突いて「ごめんなさい」とあやまる羽目に至った。


 けれど、藍子にとってなにより悲しかったのは、朝子先生のひと言だった。


 いつもやさしい朝子先生が「どうしてそんなことをしたの? 先生、卑怯な人は許せないな」と言ったとき、藍子はギリギリ堪えていたものを一気にあふれさせた。


 ただでさえ可愛げのない顔が見苦しく歪む。

 きらわれている自分の泣き顔がクラスメイトの目にどんなふうに映るか、十分に承知しているつもりではあったが、今日ばかりは、どうにも我慢ができなかった。


 うつむいて嗚咽おえつしている藍子の耳に、わざとらしい声が聞こえて来る。

「とんでもねえことやらかしといて、いまごろ泣いてみせるだ? なんだよそれ。そんなぶっさいくな泣きっ面を見せられて、いい迷惑だっつうの、こっちはよう」


 ジャミジャミした譲治の声は、藍子の背中にガラスの破片のように突き刺さる。

 絶望的な悲しみに全身をふるわせながら、藍子は声を忍ばせて泣きじゃくった。


 だれかが先にわたしの足を引っかけたのだとは、どうしても言い出せなかった。

 先生だってわかってくれないんだもの、だれも信じてくれないに決まっている。


 もしそんなことを言ったら、いっそう激しく攻撃されるだろう。

 それならなにも弁明せずに、頭上の嵐の通過を待つほうがいい。

 この組で生きていくために、藍子自身が編み出した知恵だった。


 極度の緊張のせいか、急にトイレに行きたくなった。

 だが、そんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。

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