第46話
先方部隊は本隊との合流も兼ね、不利な攻城戦から撤退した。
こうして敵軍は3500強の大軍となり、1000弱のデニスたちとにらみ合う形となった。
「さあ、どう出る?」
デニスが防衛陣地から敵軍を見下ろしていると、相手は想定外の行動を開始した。
それは軍事行動ではなく、工作活動だ。しかも単に陣地を建設するのではなく、森を開拓し始めたのだ。
「向こうもこちらと同じ規模の防御陣地を作るつもりだろうか?」
「……いや、違う!?」
デニスはザシャの狙いを悟った。敵は既存の森の入り口を通過するのではなく、新しく道を切り開いて迂回するつもりだ。
「と、なるとこの防衛陣地はもはや無用でござるな」
「だが牽制にはなる。向こうは補給線の長い遠征の討伐軍だ。十分に時間を使ってもらうぞ」
それからデニスたちは足の速い部隊を中心に300ほどの騎馬兵と軽歩兵で森を拓くザシャの部隊にちょっかいを出した。
ただし向こうも邪魔が入るのは折り込み済みだ。森から切り出した丸太は放逐せず、そのまま馬防柵として組んで弓兵を守り、デニスたちの部隊を迎え撃った。
最初こそは十分な防御ができておらず、襲撃できる隙間はたくさんあった。けれども迂回路の森を開拓するにつれて、ザシャたちの防御陣地は完成しつつあった。
そして完全に森の街道へ至る道ができた時、ザシャは一大拠点を得るに至ったのだ。
「ぐっ! こちらは敵の補給路を断つために陣地へ兵を残す。他はダンジョン前まで撤退だ!」
デニスは森の入り口の防御陣地に200の兵を残すと、言葉通り撤退した。
その時は既に先方部隊との戦いから2か月が経ち、略奪やか細い補給路で軍を維持しているザシャの兵達も疲れが見えていた。
「拠点が無くなってしまったな」
「だけど獣人族の兵1000が合流してこちらは1800弱の軍勢だ。数と質には劣るが……、なんとかなるさ」
険しい顔のヨーゼにうって変わって、デニスは楽天的だ。それは単なる希望的観測ではなく、自信である。
何故なら敵が幾千幾万であろうと、デニスの元には信頼のおける仲間と練りに練った兵士たちがいるからだ。
デニスの軍とザシャの軍は会戦をすべく、森の中の街道の両端に陣取った。
ザシャの軍の構成は中央に正面突撃も可能な重騎兵、その後ろには討伐軍の残党を含む様々な歩兵が固めてある。
側面は森からの奇襲を危惧しているのか、下馬騎士で抑えており、後衛には弓兵が配してあった。
更に後詰は新神教兵が控えている状態だった。
「新神教兵とは何でござるか?」
「そいつらは新神教兵の宣教者エリート集団だ。言葉も通じぬ相手に布教するための武装だそうだよ。所謂、神の尖兵って奴だ」
新神教兵は白と黒を基調とした分厚い僧服の下に鎧を着ている。顔は新神教を象徴する目と口を模した丸を3つ開けただけの無表情な仮面を装着しており、顔色はうかがえない。
武器はモーニングスターと言われる鎖で鉄球と棒を繋いだものや、トンカチ状のウォーハンマーなどの打撃武器が中心だ。盾はもたない者やあっても小型のものを装備しており、自分の身は顧みない様を表していた。
しかも異様なのは姿だけではなく、戦場の上気した緊張感にあっても無言で、統制のとれた行動をしている点だ。その姿はまるで恐怖など感じないようだった。
「噂じゃ霊薬を製作して服用している呪術者集団でもあるっていう話だが、実際どうだろうな」
大してデニスの軍は以下の通りになる。
正面には簡易的な馬防柵で守り、中央には長槍の義勇兵500、その側面は獣人族の歩兵で固めていた。
そして背後には獣人族の大柄なエリート兵だ。これで義勇兵たちの援護と後ろの安心感を与え、できるだけ支えられるようにしてある。
更に後続はモンスターと獣人族の弓兵と軽歩兵だ。中には弓ではなく石と皮のヒモによるスリングを持つものもいて、多種多様な混成部隊といえた。
最後は騎馬兵軍団、これは緊急に援軍が必要な場所に兵を与えるための後詰たちだった。
デニスが最前線で後ろを確認しながら、ぼそりと呟く。
「エメは、間に合わなかったな」
エメの魔族軍がいれば頼もしいけれども、いない以上戦力にするべきではない。ない物ねだりは戦場に置いて致命的な隙になるからだ。
そうしている間にも、まもなく両軍の戦端が開かれようとしていた。
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