第36話 恋と呪いは紙一重(6)
(なんだこれ……どうなってる?)
美桜は沙知に抱きついて泣いているため、見ていない。
だから、気がついていない。
あんなことが起きていなければ、この異常に美桜が気がつかないはずがないのだ。
(……糸?)
髪の長い半透明のソレが笑いながら指差しているのが、沙知なのか美桜なのか判断できない。
だが、半透明のソレの左手首と沙知の左足首が長い糸で繋がっているのがはっきりと見えていた。
糸は赤だったり黒だったり、見える力が弱まっている伊織には色まではわからなかったが、それが異常であることくらいはわかる。
沙知から美桜を無理矢理にでも引き離した方がいいのではないかと、思い始めたちょうどその時、東堂から学校に着いたと連絡が入った。
「美桜……迎えが来た。えーと、沢村さん悪いけど美桜を家まで送るから、そろそろ離れてくれないか?」
「……どうして? どうして、い……————月島くんが美桜を家まで送って行くの?」
「それは、その……」
「美桜ちゃんと、一体どういう関係なの?」
「え……えーと……その」
沙知はまだ泣いている美桜を抱きしめたまま、伊織の顔をじっと見る。
親友の沙知からしたら、男性恐怖症の美桜がどうして伊織が一緒にいるのか、本当はずっと疑問だった。
「答えられないの? もしかして、美桜ちゃんが嫌がっているのに無理やり?」
「そ……そんなわけないだろ!! その……色々事情があって、俺の口からは言えないんだ。とにかく、美桜は俺が連れて行くから————」
「そんなのダメよ! 私も一緒に行くわ!」
沙知はとても正義感の強い子で、美桜を守るのは自分だと、そう思っている。
親友がこんなに泣いているのに、いくら相手が実は憧れている伊織であっても、美桜を任せていいと思えなかった。
「わかった……とにかく、行こう。早く帰って着替えさせないと、風邪をひく」
* * *
車中では美桜の隣に沙知が座り、伊織は助手席に座った。
美桜の様子が気になって、伊織は何度かチラチラと振り返ると、髪の長い半透明のソレはじっと車内を覗き込むように後ろの窓に顔をつけている。
(ついて来てる……やっぱり、あれは沢村に憑いてるんだ…………)
その時、薬の効果で見えるようになった初日に見た軽自動車のことを思い出した。
(まさか……この車も、事故に遭うのか?)
美桜の自宅を目指しているため、車はだんだんとあの事故が起きたコンビニと郵便局前まで近づいている。
「と、東堂……!! その道は通るな」
「え……? どうされたんですか?」
運良く事故があった交差点手前で赤信号になり止まった瞬間、伊織はそう言った。
「美桜様のご自宅に行かれるのなら、この交差点をまっすぐ進んだ方が……」
「いいから!! とにかく、あの交差点は通るな!!」
「……わかりました」
東堂は理由もなくそう言われて、意味がわからなかったが、伊織が焦っているのはわかった。
伊織が見えるようになったと聞いているし、東堂には見えない何かがいるのではないかと、ウインカーをあげて左に曲がる。
そうして交差点を避けて、美桜の自宅まで約二十メートルというところで急に車の窓に顔をつけていた半透明のソレはいなくなった。
(…………消えた)
伊織がほっと一安心したところで、美桜が着くのを玄関の前で今か今かと待っていた祖母の姿が見える。
「沙知ちゃん、付き添ってくれてありがとうねぇ……さぁ、中へ」
「はい……」
沙知に支えられながら、美桜は車から降りると自宅の中へ。
伊織はその様子を車から降りて見つめる。
確かに、あの髪の長い半透明のソレは沙知の後ろにはいない。
だが、美桜と一緒に自宅の中へ入って行く沙知の足首からあの糸は伸びたままで————
(…………まだ、いる)
————糸の先をたどれば、二十メートルほど離れたその場所に、半透明のソレは立っている。
電柱の前に立って、じっと……こちらを見つめていた。
沙知を見ているのか、美桜を見ているのか……それとも————
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