12 第2章

 携帯画面のイケメンは自信に満ちていた。語り部の主人公に愛されていると確信を得ているようだ。画面の電源を落とし、机の下に直す。優の通話を待っている。

 彼と出会って半年が経過した。半年とは長く、私服で過ごす日々がなくなり、制服で登校するようになった。


『もしもし』


 電話越しに優のこもり声がする。

 周囲を見回す。昼休みは遊び続ける学生が多く、先生の姿は見当たらない。


「もしもし。今だいじょうぶか」

『はい。裏庭にいます』


 彼とは昼休みや放課後に時間を見つけて話している。互いに学校という環境と向き合うために、励ましあっていた。俺はあの日から学校に登校している。クラスメイトは俺の顔をみて驚いた様子だった。忍は感情を表に出さない人間だけど、俺の制服に目をむいていた。


『つむぐさん。ちゃんと学校に行ってます?』

「今日も来た。まあ、家にいてもやることないから」

『公園も使えなくなりましたからねー』


 公園はWi-Fiが届かなくなったどころではない。少子高齢化の波を受けて、公園が取り壊され、駐車場になった。敷地は広くないと思っていたが、伐採すれば何台かは停まるらしい。


「そっちは親から何か言われた?」

『あれから何もないです』

「よかった。姉はなんて?」


 電話越しに鼻で笑われた。今の発言が冗談だと判断したようだ。


『姉は普段通りですよ。何か、俺を分かってもらおうとしてます。つむぐさんのほうこそ知ってるんじゃないですか?』


 教室の扉を女性たちが陣取ってる。その集団に愛が紛れていた。目線が通じ合うも、目くばせする間に居ない者のように顔も角度ごと変えられる。


「それが教室だと相手してもらえないんだ」


 登校初日。俺は忍に歓迎された。二人で話しているうちに、愛の存在に気が付く。彼女は俺に頷きを返すから、声かけしていいと近づいた。「よう」と挨拶したら、「どうも」と他人行儀で答えてくる。まるで、俺が距離を詰めようと躍起になっているように写った。それから、怖くて避けている。彼女は教室だと初対面だと通してくる。


『うちの姉がすみません。今度、言っておきます』

「優の謝ることじゃないよ。そういえば、前に行った中古屋。〇〇が入ったんだって」

『ほんとですか! 行きましょう』

「いいね。何時があいてる?」

『いつでもいいです。逆に、つむぐさんのほうが忙しいんじゃないんですか?』

「どうして?」

『姉が言ってましたよ。三者面談と、体育祭が近いって』


 後ろ扉から、忍が入ってきた。ハンカチで手を拭きながら、先ほど座っていた。前の席に来ようとしている。


「体育祭なあ……」

『体育祭って場違いな気分になりませんか?』

「なるよ。身体を動かしたい人たちの祭典で、俺たちはおこぼれだ。そのおこぼれでさえ、結果を求めてくるんだから世話ない」

『あはは。同意見です』


 忍が座席に到着し、背もたれを前に跨る。手を前に出し、電話を切ると態度で送った。


「優、そろそろ電話切る。また夜な」

『はい。今度はチャンピオンとりますよ!』

「頑張ろう」


 電話を切る。忍は自分の爪を触り、白い部分を剥いでいた。


「体育祭の話?」

「この時期に体育祭ってどうかしてる」

「言っても仕方ないだろ。種目なに?」


 文化祭と体育祭を1年代わりで開催される。今年は体育祭が行われ、その準備に勤しむ。文化祭なら忙しいけれど、冷たい目で見られることも少ない。場違いなイベントが迫って気持ちが消沈する。


「お前はよく平気だな」

「つむ。全て感じなければ、無いのと一緒だ。つまり、体育祭がダルい思わずに、人生の一瞬と捉えればいい」

「だからお前は人に優しくできるんだな。何言われたって感じないんだから」

「ああっ。優しさついでに、利一から何かあったか」


 あの夜のことを忍に話している。それから、利一と仲良くなってると勘違いされ、近況を聞かれることが多い。


「そんな言われても連絡とってねえって」


 すると、甲高い声が耳に入る。場の注目を集めるような騒がしさだ。教室の扉付近で、女子が中心だった。「見て。真似するから」と、手を前に出した。


 周りはスイッチが入ったように腹を抱えた。その真似をした女子は、手を窓際に立て「アイツ」とわざわざ告げる。電話の動きを冗談にした。なぜ、敵視されるのか不明だ。髪を片方に分け、モデルのように外見を整えている。高い自意識が彼女たらしめると言わんばかりだ。


「気にするな」と、忍。


「忍。あの女子たちって利一のことをどう思ってるんだろうな」

「どうかな。思ってなさそうだけど」


 彼女らは興味をなくしたように視線を閉じる。思い通りに反応しなければ、界隈から追い出されるわけだ。愛はそのグループで取り繕っていた。しかし、先程の冗談は笑っていない。そこがどうしても救われる。


「利一のこと嫌いだったけど。何とか話せた。学校で話している態度が変わらないけど、なぜかな」

「うん」

「学校の外と中で、人は変わるんだって驚かされた。ずっと学校と同じって思ってた」


 ゲームをカバンになおす。教科書を出しつつ、時計を確認した。5限目が始まりそうだ。


「アイツらは知らないんだろうな」

「気にするなって」

「それ言ったら、気にしてることになるだろうが」


 携帯を取りだし、習慣でタイムラインを覗く。すると、SNSにて愛から通知が届いた。


『放課後、いつもの喫茶店で』


 忍に見られないよう携帯を戻す。何事も無かったように振る舞いながら、鼻をかく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る