~転生後 アーデルハイト④~

 建国記念祭の当日。他賓客たちとともに、都中央の大神殿へと集められた私たちは、奥にある聖堂で式典の開始を待っておりました。奥へと通されたのは賓客たちだけで、護衛という扱いである仲間たちはその手前で待機です。どの国の方々も同じ扱いなので、不満を言う事はできません。

私の隣にはお兄様とその側近が座っており、周りを見渡せば各国の要人たちが2~3人ずつ集まって開始の時を待っておられます。見る限り、国王自ら参列、というケースは少なく、そこそこ高位の貴族や王子など(つまり、私たちと同じような構成)の参加が殆どのようです。概ね、この神都――宗教と各国との微妙な関係を表したような感じでしょうか。


「……ふむ、何か落ち着かないな。緊張では無いが、こう、そわそわするというか……。」


「くすくす。子供みたいな事を仰られて……。私たちが何かする訳では無いのですから、堂々とお座りになられていれば良いのですよ。」


「そ、そうだな。うむ。」


 要人が集まっている事もあり、観察という名の探り合い外交は行われていますが、今回の本旨はあくまで建国記念祭。神官たちの主導のもと、主神がこの地へ降臨した事を祝い・祭る(のを協賛者として列席・演出する)というのが私たちの役割です。お兄様含め、私たち自身が何かをする、という必要はありません。精々、神官たちの指示に従い、起立・礼・拍手、などを掏る位の簡単なお仕事がある位です。。他国に侮られる事が無いよう、堂々・粛々とそれらをこなせば、帝国代表としては十分な働きをした事になります。

 皆が着席してから10分程経ったところで、ようやく開始の儀式進行を行う高位神官が入場してこられました。その方を先頭に、かなりの数の神官たちが後に続きます。


「……まったく、待ちくたびれたぞ。これだけ焦らしておいて、たいしたことの無い中身だったら許さんぞ。」


「……しっ。お静かになられて下さい、お兄様。もう始まりますよ?」


 お兄様を窘めている間に、高位神官は壇上へと昇り、後続の神官たちは我々を囲むように配置へつきました。そして、列席者側へと向き直ります。そして、高位神官が静かに片手を天へと伸ばし、制止しました。


「……。」


 そのまま暫く間を取り、お兄様のような私語が絶えたところを見計らって口を開かれました。


「皆さま。この度は、当式典のため、遠方よりご来訪賜りました事、誠に感謝申し上げます。

我らが主神もさぞお喜び事と思います。」


 温かみのある声でゆったりと謝辞を述べられる高位神官。このまま粛々と儀式が進むものと、皆が予感しました。そう、その時までは。


「早速ではありますが、お集まりの皆さまにお願いがございます。

……我らが世界の復興のため、生贄となって下さい。」


「!」


 告げられた言葉の意味を理解できず、皆が思考停止を起こしたその刹那。高位神官の掲げた腕の先に魔法陣が出現し、そこから放たれた『黒い錐』のようなものに貫かれ、前方の列席者が血を噴き出しながら後方へと倒れこみました。若干距離がありましたが、驚愕の顔を張り付けたまま息絶えておられる様子が、私のところからもはっきりと認識できました。

 そこでようやく、我に返った列席者が立ち上がり――或は悲鳴をあげようとしたその瞬間。

今度は耳を劈くような轟音とともに、聖堂が激震しました。聖堂内ではないですが、近くの建物内で、大きな爆発を伴う何かが行われたようです。


「うわあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!」


 爆音に近しいような音量で、列席者の悲鳴が響き渡ります。幸いな事に、建物自体は倒壊を免れたものの、天井から無数の落下物が降り注いできました。この更なる緊急事態に、我に返った列席者の動きが加速された形です。そして、聖堂手前に控えていた各国の護衛たちも中へとなだれ込んで来られました。


「今の爆発音は何事です!ご無事ですか!!」


 その中には私の仲間たちも含まれていました。聖堂へ入られて直ぐに私たちを見つけ出すと、一直線に駆けだして来られます。


「……おのれっ!忌々しい冒険者どもが!!」


 高位神官が虚空を見つめながら漏らした恨みがましい声を合図に、周りを取り囲んでいた神官たちは伝え聞く悪魔の形状へと変貌を遂げ、護衛・列席者たちへと襲い掛かりました。

ただ、流れ込んで来られた方々は、要人の護衛を務めるに足る実力を有していたため、悪魔たちに一方的に蹂躙されるような事もなく、善戦されています。


「大丈夫か!?姫さん!!」


「私は大丈夫ですわ。ディートハルトとフリッツは護衛達と協力して脱出、まずはお兄様の安全確保をお願い致します。その後、兵を率いて迎賓館の守りを固めて下さい。他の方々は私とともに他参加者の支援・救助を。」


「し、しかし……お前を置いては……。」


 不安そうな顔のお兄様に対して、私は強い口調で言い聞かせました。


「私は大丈夫です。心強い仲間たちもおりますし、私も全く戦えない訳ではありませんわ。治癒術も使えます。先程の高位神官の口調からすると、冒険者ギルドが動いているようですので、連携して対応に当たりますわ。

 お兄様には次代の帝国を担う身の上です。まずは身の安全を第一にお考え下さいませ。」


「……う、うむ。わ、分かった。」

 なおも不安げなお兄様を押し切るため、私はディートハルトへ一方的に告げました。

「では、ディートハルト。後をお願いしますね。合流は迎賓館にて。」


「姫さんも気をくれよ!エルン、クラウ!後は任せたぞ!」


 護衛に囲まれて撤退していくお兄様を見送った後、残った仲間たちに告げる。


「皆さん!無理はしないように!各国護衛の皆さまを支援しつつ、生存者の確保をお願い致します!」


 こうして、華々しく幕開けした神都の動乱でしたが、結末は呆気の無いものでした。神々の代行者を名乗るものが冒険者たちによって倒された事で、元凶であった魔物たちは統率を失って散り散りとなり、容易に駆逐される事となりました。

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