~他者視点 カミラ~

「そっちお願い。こちらは私一人で十分。」


 私の指示を受けた仲間たちは音もなく散会、獲物へと忍び寄り、蹂躙する。私もそれを感じ取りながら、目の前のゴミを一掃した。汚物は消毒。

ハイジを襲撃しようと国境周辺の森で待ち構えていた逆賊たちに対して、私は直属の部下――仲間たちを率いて奇襲をかけた。元々、警戒はしていたものの、ハイジが怪しい、と示唆した場所に来てみたら……、という状態。流石はハイジ。

数も練度もたいしたことの無い連中だったことと、奇襲が完璧に成功したこともあり、そう時間を掛けることも無く、掃除は完了する。


「他はいなさそう?じゃあ、情報取りと後片付けをお願い。私はハイジの所に戻る。」


 状況終了を確認した私は、直ぐに町への帰路につく。問題無いとは思うが、あのお気楽クラウだけにハイジの直衛を任せたまま、というのは望ましくない。それ以上に主従の枠を超えた展開があったら……、と想像すると殺意すら湧いてくる。じゅる。なにそれうらやましい。……おっといけない。

 何をするでもなく足を動かしていると、ハイジと初めて出会った時の事が頭に浮かんできた。あれはそう、私が暗殺者集団の一員として働いていた頃。上層部の指示をうけ、ハイジを暗殺するべく、皇城へと侵入したのだ。

 正直、楽な仕事だと思っていた。当時色々と奇抜な施策を打ち出し成果をあげているとはいえ、ただ聡いだけの箱入りお姫様。多少頭が回るとしても、暴力と狂気渦巻く現場を数多くこなしてきた自分なら赤子の手をひねるように、と。でも実際は全然違った。

 ハイジの寝所に侵入するところまでは順調だった。いや、そう思わされていた、というのが正解。私は誘いこまれただけだった。

待ち構えていたエルンスト(腹黒)の奇襲をうけ、クラウ(性悪)の罠に追い込まれた私は、結局団長(脳筋)に取り押さえられる事となった。フリッツ(忠犬)は……、もっとがんばりましょう?

そして、クラウお手製の魔導具で動きを封じられた私は、何故か椅子に座らされた状態でハイジと対面する事になった。


「不自由させて申し訳ございませんね。もう少しお待ち頂けますか?そうしたら、きっと有意義なお話合が出来ると思うのです。」


 状況が飲み込めず困惑する私を、ハイジは穏やかな目で見つめていた。何をするでもなく、そのまま時が過ぎていき、これは新手の拷問か何かと思い始めた頃。一時退出していたエルンストが再び戻って来て、ハイジの耳元で囁いた。


「姫様。作戦は成功致しました。全て予定通りにございます。」


「わかりました。報告、ありがとうございます。ご苦労様でした。」


 話が見えず、更に困惑の度を強めた私に対して、ハイジは思いがけない言葉を掛けてきた。


「おめでとうございます。カミラさん、これで貴女は自由の身ですわ!」


 そこで事の種明かしをされた私は、ハイジの手腕に驚嘆する事となった。

 どうやら、暗殺計画は事前に漏れていたらしく、ハイジは私を捉える為の仕掛けを整えるとともに、組織壊滅の計画を平行して進めていた。そして、調査の過程で私たちがどういう境遇に置かれているかも把握したハイジは、上層部を一掃するとともに、人質とされていた子供たちや強制的に仕事をさせられていた仲間たちを保護してくれたと言うのだ。この時受けた衝撃、感動は今でも忘れられない。


「ですので、貴女はもう組織の束縛を受ける事はありません。残党も私が責任をもって一掃する事をお約束します。行き場の無い方々には、受け入れ先の融通もさせて頂きますわ。

 ……カミラさんには、何か希望がありますか?」


 既に拘束は解かれていたが、私は暫しの間椅子に縛り付けられたように微動たりせず、思案に耽った。そして、出た結論をハイジへと告げた。


「……受け入れ先の融通を。希望は貴女の下。騎士団に加えて欲しい。」


 こうして、私は仲間たちとともに『高貴なる影』へ加わる事となった。

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