第12話 砂漠の遺跡
内装の第一印象は神殿だった。遺跡内に入るとまず両サイドに一定間隔で光る結晶が飾られた長い白亜の通路が真っ直ぐ伸びていた。この結晶は薄暗い通路を照らすための照明器具だと思われる。
ファウストはそんな通路をダンジョンや遺跡にありがちな罠を警戒しながら進んでいくが、そんなものはなく肩透かしを食らった面持ちであった。
「にしても何かガチムチアイランドっぽくないなここ。
ガチムチアイランドの遺跡なら装飾から何まで全部ガチムチ仕様でもおかしくない。いや、この島ではそれこそが正常なはずなんだが……」
そう、ファウストの言う通りこれまで進んできた遺跡の通路には筋肉要素やトレーニング要素などのガチムチアイランドらしさというものが皆無であった。遺跡内の装飾といえば腰の辺りの高さを走る白亜の壁の金のラインだったり、照明として壁に等間隔に設置されている光る結晶を飾る植物を模した照明台だったりと、何度もいうようにガチムチアイランドの代名詞とも言える暑苦しさなど皆無で、それどころか神殿のような神聖さを感じさせるものなのだ。
(もしかしたらこの遺跡はガチムチアイランドの前の文化時代の建造物なのかもしれないな)
遺跡の作りはあまりにも今のガチムチアイランドの文化とはかけ離れていたので今の文化が出来る前に滅びた文化時代の遺跡なのかなと推察しながら歩いていると漸く通路を抜けて大きな空間に出た。
そこは円形ホールのような空間で眼前には祭壇があり、隅にはホールの中心を眺めるように一定間隔で腕を胸の前で交差させた様々な人間の石像が合計十二体並んでいた。
ファウストは罠の気配がしたのでまず辺りを調べてみた。
しかし何処にも不自然な所はなく、解除装置のようなものは見当たらなかった。仕方なく自身の周囲に無属性魔法で魔力障壁を展開してホール内へと入った。
その瞬間、全ての石像の目が一斉にギョッと見開いてファウストを見ると目からレーザー光線を照射した。しかしそんなことだろうと思って予め展開していた魔法障壁によりレーザー光線は完全に防がれた。ファウストはそのままレーザー光線を受けながらも気にせず祭壇へと近づいた。
祭壇には2M程の騎士の像があり、綺麗な琥珀色の宝石が象嵌された剣を地に突き立て屹立していた。
「この部屋には他へ続く通路はないし、何か仕掛けがあるとすればこの騎士の像ぐらいなんだけど……、取り敢えず調べてみるか」
そう言ってファウストは騎士の像に近づいて色々触って調べてみる。しかしスイッチやレバーなどの仕掛けはなかった。ならば騎士の像がある祭壇の方はどうだと見ていく。騎士の像の足下のタイルを手当り次第にコンコンと叩いていくと、一箇所だけ違う音を奏でる箇所があった。何かあるなと思いタイルを捲ってみるとそこには二十センチ四方の空間があり、底には文字が刻まれていた。
黄道の輝きが宝珠を照らす時、鍵を携えし十三番目の星座が解き放たれん。
「つまり仕掛けを解くと番人が現れてそいつを倒せば先に進めるってことか。
しかし、宝珠ってのは……もしかしてこの騎士像の持ってる剣に象嵌されてる宝石のことか?黄道ってのは黄道十二星座のことだとすると……ん、十二?」
思い当たる節があったファウストは未だレーザー光線を照射している石像の一つに近づいてみる。
「……なるほど。黄道ってのはこいつらのことか」
石像をよく観察してみるとそれぞれペンダントのような宝石をあしらった首飾りを付けており、その宝石の中には十二星座が一つ、水瓶座を表す=を波線にしたようなシンボルマークが浮かんでいた。他の石像も見てみると全ての石像にそのペンダントは付けられており、それぞれの順番に沿った星座のシンボルマークが浮かんでいた。
「だとするとこれの輝きが宝珠を照らすってんだから……こうか?」
ファウストは自分を狙うレーザー光線を騎士像へと誘導するため、騎士像の裏側へと回り込んだ。
すると、順当に誘導されたレーザー光線は騎士像へ、正確には騎士像の持つ剣の鍔に象嵌された宝玉に集中照射された。十二のレーザー光線の束が照射された宝玉は光り輝き、その中にUを〜が横に貫通したような蛇使い座のシンボルマークを浮かび上がらせた。それに連動するように石像からのレーザー照射は止まった。
そして一拍あけた次の瞬間、殺気を感じてしゃがんだファウストの真上を剣による横薙ぎが空を切った。それをただ眺めてるだけな訳がなく、すぐさま迎撃態勢に移ったファウストは騎士像を蹴りつけてホールの端まで弾き飛ばした。
「騎士像が番人なパターンか。でも、十三番目の星座である蛇使い座は医師じゃなかったか?」
ホールの端まで弾かれた騎士は剣を上に掲げた。すると、ホールの天井部に黒い霧が発生し、それは徐々に巨大な蛇、否、蛇のような体型の亜竜となった。身体を覆う鱗は漆黒で刺々しく、赤黒い血の瞳はその印象をさらに禍々しいものへと昇華していた。
この世界には一口にドラゴンといってもランクというものがあり、上から王級、特級、上級、中級、下級となり、前世の地球でも有名な龍種であるワイバーンなどは下級ドラゴンに位置する。そして亜竜とはその下級のさらに下で厳密には龍に近いだけの別の種族で、どちらかというと蛇に近い性質を有する。とはいえ、その強さは冒険者でいうとCランクパーティー相当で、たった一体で瞬く間に幾つもの村を蹂躙するほど。決して油断はできない怪物だ。
そんな中でもファウストは冷静に考えていた。
「蛇は龍と混同される場合もあるからまだわかるが、蛇使い座はアスクレピオスなんだから騎士じゃなくて医師だろ。あ、でも異世界だしそこらへん微妙に違うのかな。だけどそう考えるとここまで一致してるのは逆に作為的なものを感じるな。この世界の管理神は地球文化が好きなのか?」
至極どうでもいいことを。
騎士像はそんなファウストに向かって召喚した黒い亜竜を嗾ける。凄まじい勢いでファウストを喰いちぎろうと迫る亜竜は鋭い牙が覗くその大きな口を開けて襲いかかる。
「何にしても……」
ファウストは亜竜の下顎を裏拳で上部へ逸らすように往なして亜竜の顎の下へ潜り込んだ。
「今更ワイバーン以下の亜竜ごときが出てきても相手にならないよ」
煌鷹流総闘術『衝昇』
ファウストは亜竜の顎に掌底を食らわした。硬い外皮を貫通して衝撃波により相手の防御力を無視した物理攻撃を与える『鎧通し』を掌底で行うことでより集中性と威力を増した発展型の『衝昇』をもろに食らった亜竜は脳を破壊されて顔の至る所から血を吹き出して死んだ。
ファウストはそのまま落ちてくる亜竜を裏拳で受け流すように逸らして一瞬で騎士像の元へ駆ける。
騎士像は一瞬で眼前まで迫ってきたファウストに対し、咄嗟にバックステップで後ろへ下がるが、
「まぁ、当然この程度の速度ならギリギリ反応できるよな」
そうなるよう誘導したファウストは更に一歩踏み込んで、騎士像の首目掛けて拳を叩き込んだ。その一撃は見事騎士像の首をへし折るが、へし折った頭にはまだ意志を感じられたので蹴りで頭を粉砕し、そのまま回転して後ろ回し蹴りで身体を粉々に粉砕した。
木っ端微塵となった騎士像の破片を警戒していたファウストだが、それらが動き出して再構築される。
などということはなく、亜竜の死体は霞のごとく消え去った。それと同時に十二の石像からまたもやレーザー光線が照射され、咄嗟に魔法障壁を張るが、レーザー光線はファウストではなく、ホール中央向けて照射され、十二のレーザー光線の焦点には光のゲートが構築された。
ファウストは肩透かしを食らった気分で魔法障壁を消し、光のゲートへ近づいた。
「これ、罠で通った瞬間蒸発とかねぇよな」
ダンジョンや遺跡ではそういうことが稀にあるらしいので警戒したファウストは騎士像の破片をゲートに放り投げ、特に蒸発したりとかはなかったのでゲートを潜ってみた。
ゲートを潜った先には草花や木々が生い茂る端が見えないほど広大な庭園が広がっていた。しかし、それに反して生命の気配は皆無で小動物はおろか虫一匹いなかった。そんな庭園の中央には大理石に似た材質の石台に刺さった黄金かは定かでないが金色に輝き、緑色に光るラインが走った何処か機械的な印象を受ける一振りの鍵のような見た目の剣があった。
『よく来たな。歓迎するぞ客人よ』
目は当然ないにも関わらずその鍵剣と目が合ったと感じた途端、綺麗な女性の声が頭の中に直接響いた。
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