第113話 この親にしてこの子

小山内の父が鞄から取り出したものは


「はい、吟子さん!」


それは会議か何かで使うであろう書類らしきものだった。


「え?パパ?これ…何?」


「ハハ!何を隠そう、これは吟子さんが恋い焦がれて止まないあの俳優Kさんの直筆サインだぁ~!」


そう言ってその会議書類の裏を見せて


「どう!これ!」


「パパ!どうやってこのサインもらえたの???」


「実はだなぁ~、街中で人だかりが出来ていたから何かと思って見に行ったら誰かが喧嘩しててなぁ、それで喧嘩の仲裁に入ったのに今度は俺がその仲裁に入られてな…そして誰かが何か謝って来るんだけど、俺は何が何だか訳がわからず困っていたら、その俳優さんがこっちに来て、ご迷惑おかけしました。よろしければ何かお返し出来ればとか言うんで、じゃあサイン下さいって言ってもらってきた」


この時薫と母はその成り行きがこういうことだと推測した。


つまりお父さんは撮影現場の喧嘩のシーンで、本当の喧嘩だと思い込み仲裁に入ってしまった。そしてスタッフが止めに入って事情を説明したが理解出来ず俳優Kがそこを収める為にお父さんにサインを渡してお引き取り願った。


「父ちゃん…きっとそれは喧嘩を収めてくれた父ちゃんに感謝してサインくれたんだな!」


「あっ!そういうことか!それで合点がいったぞ!ハッハッハ~」


薫と母は少し顔がひきつっているが


「パパありがとう!パパのお陰で最高のプレゼントもらえたわ~!」


「吟子さん…でもそれは会議で使う大事な書類なので今見せるだけなんだよねぇ…でも大丈夫!もっと凄いプレゼントがまだある!」


「あら!なぁになぁに?」


「ジャンジャーン!」


手にしていたものはスマホだった。


「え?これは…」


「吟子さん!これは俳優Kの写真だよぉ!超スペシャルアイテムだろぉ?」


そこに写っていたものはピンボケした誰かの横顔だった。いや…わずかにその奥に俳優の姿が見える…誰かがカメラの前を横切ったが気付かずそのまま写真を撮ったようだ…

お父さんは凄く得意気な顔をしているが、これこそが正に小山内のキャラを作り上げた遺伝子なのかと薫は驚愕した。この父親とこの母親から出来る子供は確かに小山内しかいないだろう…


「パパ…」


それを手にしてしばらく悲しそうな表情で黙っている…

流石にそれは全く嬉しくないでしょ、普通は…

薫はお母さんがキレるのかと期待したが…


「めっちゃ嬉しい~~~!」


ガクッ…一瞬薫はコケてしまった。


「良かったなぁ~、母ちゃん!」


小山内も一緒になって大喜びしてる…


「あのぉ…ちょっとその書類とスマホ、数分だけお借りできませんか?」


薫は書類とスマホを手に取り小山内を連れて外へ。


数分後、


「母ちゃ~ん!かおりんが!」


そう言って清が吟子に書類を渡し、父にはコピーした方を渡した。そして写真も俳優を中心に拡大プリントして一緒に渡した。


「おっ!かおるちゃん、可愛いだけじゃなくて頭もいいんだね!清、かおるちゃんを離すんじゃないよ!お前はバカだなんだから!」


「かおりだってば!」


ってかどっちもどっちだと思うんですけど…

心の中でつっこむ薫だった。

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