第17話 一緒に唄って食べよう

「美味しそうなケーキ!」

 クロス達が街外れの場所から帰る頃、ヒナタは街に着いて、大好きなお菓子のお店で目を輝かせていた

「今度、アカリと一緒に食べにまた来よう」

 目的を忘れたのか、人の多い街の中をご機嫌で歩くヒナタ。いつもは行かないようなお店を外から見たり、路地裏を見たりと、あっという間に時間が過ぎていく中、ふと美味しそうなパン屋を見つけ足を止め見入っていると、ぐぅ。とお腹が大な音が鳴った

「お腹すいてきた……。どうしよう……」

 抱きしめている本を見つめ、しょんぼりとしていると、腕がグイグイと押されているのに気づいた

「どうしたの?」

 少し力を抜いて本を見ようとした瞬間、本がふわりと独りでに浮いて、ヒナタの手から離れ飛んでいった

「ちょっとまって!」

 慌てて本の後を追いかけていく。その姿を通行人の人達が不思議そうに見ている中、路地裏を抜けてまた森の入り口に入るとすぐ、ふわふわ浮いていた本が地面にバサッと落ちた

「もう。無くしたらお母様に怒られるのに……」

 大分走り息を切らして本に話しかけるヒナタ。落ちていた本を取り、少しついた土を払っていると、また本がふわりと浮いて、ヒナタの周りをグルグルと回りはじめた


「ページがバサバサ言うだけで、何を言いたいのか解んないよ……」

 ヒナタが困ったようにそう言うと、ピタッと動くのを止めた本が、恐る恐るヒナタの口を角でそっと触れた。ちょっとビックリして後退りするヒナタ。また、グルグルと騒がしく動き回る本に、困りつつも何で触ったのかと考えはじめた

「もしかして、ご飯のこと?」

 ヒナタが、そう言うと本がヒナタの前に止まり、ページをパラパラとめくりはじめた。本の動きにさっきの言葉に確信をもったヒナタがまた、うーんと悩みだした

「そうだなぁ……。私、さっき見たパンが食べたいかな」

 そうヒナタが言うと、突然本が眩しく光を放ってパラパラとページがめくられる音も聞こえてくる。その様子を不安そうにヒナタが見ていると、パタンと本が閉じる音が聞こえると地面にまた落ちた本。すると、その本の上にはなぜか、さっきお店で見たパンに似た、とても美味しそうなパンが一個乗っていた


「すごい!すごい!こんなこと出来るの?」

 そのパンを取って、喜ぶヒナタ。ヒナタの喜ぶ様子に、本もまたグルグルとヒナタの周りを動き回る

「もっと食べたいから……。そうだ!どうせなら、一緒に唄って、美味しいご飯食べよう!」

 ヒナタの言葉に、何度も上下に動いたり周りをグルグル回ったり騒ぎはじめた本。その本と共にヒナタもピョンピョン跳びはね、大きな声でうたを唄う。その唄声に答えるようにまた眩しく光はじめた本。すると、さっきと同じくパンが現れ、ヒナタの周りをふわふわと浮かび、その光景を見たヒナタは、もっと楽しそうにうたを唄い続けてく





「アカリも今頃、お母様と一緒にご飯食べているのかな?」

 一通り唄い終わると、ヒナタの周りには食べきれない程のたくさんのパンが置かれ、その中のパンを一つ美味しそうに頬張りながら呟くヒナタ。その言葉に、隣に置いていた本がふわりと浮いてヒナタの前で止まった。その行動に不思議そうにじっと本を見つめると、何かを感じたのか、ぎゅっと本を抱きしめた

「大丈夫だよ。一緒にいるもんね。だから、あの本だってきっと探せるよ」








「アカリ。ただいま」

 ノアと一緒に家に帰ってきたクロスが、部屋にいたアカリに声をかけていた

「お父様!お帰りない!」

 クロスの姿を見るなり、走って駆け寄ってくアカリ。そのままの勢いのままクロスな抱きついた

「あのね、ヒナタが……」

「聞いたよ。大丈夫だ。みんなが一生懸命ヒナタを探しているからね」

 クロスに頭を撫でられ、ゆっくりと頷くアカリ。少しグスグスと泣いているような雰囲気を感じて、アカリを優しく抱きしめた

「ごめんね、アカリ。少しみんなとお話があるんだ。もう少し、レイナと一緒にいてくれるかい?」

「……うん」

 返事をするとすぐ、クロスをつかんでいた手をそっと離し、今度は側にいたレイナに抱きついた

「では、ノア。行こうか」

 側で見ていたノアに声をかけ部屋を出ると、ゆっくりと部屋の扉を閉めると、ふぅ。と一つため息をついたクロス。側で心配そうに見ているノアに気づいて、フフっと笑うと、ノアを置いて一人先に廊下を歩きはじめた

「さてと、書庫に行く前に、ヒナタのいる場所を聞きに行こうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る