第10話 みんなの想像を越えて
「これは、なかなか……」
「想像以上……ですね」
「ヒナタとアカリが一緒に唄っていたからな。その影響もあるだろう」
暗い扉の中に入っていたクロスとノアは、険しい表情でヒナタの本を見ていた
「どうしますか?私達の手に追えなくなるかもしれませんが……」
「構わん。続けよう」
そう言うと一つ深呼吸をして、気持ちを落ちつかせはじめたクロス。同じくノアも大きく深呼吸をした
「ねえ、お母様。三時のおやつは、何にしましょうか」
その頃、たくさん眠って元気になったアカリが、家から少し離れた街を機嫌良く歩いていた
「アカリ……。今、町に来たばかりでしょう?もう、おやつの心配するの?」
「だって、楽しみなんだもん。ねえ、ヒナタ」
レイナに返事をしながらヒナタの方に振り向くと、人混みの中に紛れそうな程、アカリ達の後ろを家政婦と一緒にゆっくりと歩くヒナタがいた。慌てて駆け寄ってくアカリ。ヒナタの側に着く前に、その場にペタンと座ってしまった
「ヒナタ?どうしたの?大丈夫?」
座り込んだヒナタを支える家政婦達を押し退けて、ヒナタの顔を見ようと覗き込むアカリ。ヒナタもアカリに気づき、ゆっくりと顔を動かした
「アカリ、お父様が……」
「お父様が、どうしたの?」
アカリに何かを伝えようと、ゆっくりと口を動かすが、力が入らず声は出ない。アカリがヒナタの声を聞き取ろうと顔を近づけた時、力が抜けたようにヒナタの腕がペタンと落ちた
「ヒナタ!」
グッタリとしているヒナタの体を揺らして慌てるアカリ。
二人の様子を見ていたレイナや家政婦達もヒナタに駆け寄ってく
「ヒナタ!ヒナタ!」
抱き抱えながら名前を呼び続けるアカリの様子に気づいた通行人の人達が、ざわつきはじめている
「……熱はないようね」
と言うと、レイナの様子を泣きそうな顔で見ているアカリを見た
「すぐ帰りましょう。アカリ、いい?」
「はい!」
アカリの返事を聞いて、立ち上がり家政婦達と話し始めたレイナ。その様子を見ていたアカリ。すると、ヒナタを抱きしめていた腕がそっと触れられて、ヒナタを見ると、少し意識が戻ったのか、うっすらと目を開けていた
「アカリ……」
力無く、か細い声でアカリの名前を呼ぶヒナタ。思わず強く抱きしめた
「ヒナタ……大丈夫?」
「私の本、無くさないでね」
「えっ……。うん……」
ヒナタの側に落ちていた本に気づいたアカリ。慌てて本を取って、無くさないようにぎゅっと強くだきしめた
「アカリ。ヒナタはどう?大丈夫そう?」
「うん、大丈夫と思う……」
レイナに返事をしていると家政婦が側に来て、そっとヒナタを抱き抱えた。抱っこされていても起きないヒナタ。そのまま家路へと早歩きで進む家政婦と一緒に、不安そうな表情のアカリも少し小走りで、その後を追っていく
「レイナ様……」
一足先に帰ってくアカリ達の後ろ姿を見て動かないレイナに、家政婦が声をかけた。他の家政婦達も心配そうにレイナの側に来ていた
「まだ大丈夫よ。アカリにはまだ影響が出ていないし」
「ですが……」
レイナの言葉を聞いて家政婦が返事をしようすると、後ろにいないと気づいたアカリが、レイナと家政婦達に向かって
大声で叫んだ
「お母様、みなさん!早く行こう!」
アカリの声に近くを歩いていた人達が、アカリに目を向けた。人々の視線も気にせず、大きく手を振り、レイナ達を呼び続けている姿を見て、ふぅ。と大きくため息をつくと、家政婦達にニコッと笑った
「大丈夫よ。あの子達には、本と唄があるのだから」
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