問五の答え☆

 ブルーのロングドレス、チューリップ袖はふんわりとして、胸元にはひらひらとしたレースが幾重にも折り重なっている。


 彼女が似合うと絶賛する姿は、まるでシンデレラ姫のような服装だった。


 似合うだって? 一体柚子ちゃんはどういうつもりなんだろう?


 僕の頭はプチパニック状態。

 

 確かに、今夜は仮装パーティーをやろうとサークルの部長が言っていた。

 だから、夜は一緒にパーティに参加することになっていたのだ。


 でも、これは無い! 断固拒否する!


「ねえ、柚子ちゃん、これはどう見てもありえないと思うんだけれど」

「どうして、私の服装とピッタリなんだもん」

「柚子ちゃんはどうするんだい?」


「じゃ、じゃーん!」

 と言って見せたのは黒い執事服。


「ふふふ、私が執事、二尋君が悪役令嬢役。ね、いいでしょ」

「あ、令嬢ってなんだそれ?」

「だって執事の恰好してみたかったの。でもって私が仕えるお嬢様は二尋君しか考えられないんだもん」


 う、そんなウルウルした目で見上げられると、ちょっと困るんだけれど。


 じゃなくて、使の間違いじゃないのかと心の中で悪態をつきながらも、柚子ちゃんには何も言えない自分が歯がゆい。


「じゃ、これで決定ね。脱がなくて大丈夫だから」

「何言っているんだよ。このまま電車に乗れるわけないだろ」

「大丈夫、今日はね。ナミサト先輩が車で迎えに来てくれることになっているの」  


「え? なんでナミサト先輩がパーティーに来るの? しかも車で迎えにってなんで?」

「なんか今日は仕事が早帰りだから参加するって言ってたよ。車出してくれるって言ってたから、ラッキーってお願いしちゃった」


 ナミサト先輩は今年卒業したサークルの元部長で、はっきり言ってカッコいいイケメンだ。

 そして、在学中から柚子ちゃんの事を気にかけていた。

 当の柚子ちゃんは鈍感で気づいていなかったようだけれど。


 だから、急に心の中が波立って、柚子ちゃんとナミサト先輩が個人的にLineのやり取りをしていることに腹がたってきた。


「柚子ちゃん、ナミサト先輩と今も個人的に連絡取り合っているのか?」

 ついつい攻めるような口調になってしまった自分が情けなくなる。


「え、時々だよ。なんか先輩、会社の新人研修終わって今度遠くに赴任することになったらしいよ。だからその前にみんなと会っておきたいみたいだよ」


 みんなとじゃなくて、柚子ちゃんとの間違いじゃないのか?


 僕は鈍感な柚子ちゃんがちょっと恨めしくなる。

 

 そりゃ、サークルの先輩後輩が連絡取り合っていたって、別に問題ない。

 それに僕達は付き合い始めたばかりだから、ナミサト先輩は僕達の事を知らないのだろう。

 

 でも!

 一応僕は彼氏なんだから、柚子ちゃんが他の男と連絡取り合うのはやっぱり気になる。

 しかも相手は柚子ちゃんの事を好きなイケメンだから、なおさらだ。

 腹が立って、焦っても当たり前だよな。


 そんな僕の心の内を知りもしない様子で、柚子ちゃんはアッと言う間に執事服に着替えた。


「さあ、準備完了」

 そう言ってから恭しく手を差し伸べると言った。


「二尋お嬢様、それでは参りましょうか。麗しの仮装パーティーへ」


 車の到着を告げる携帯の着信音がなって、僕たち二人はアパートの下の駐車場へ降りていった。


 ドレスの裾が邪魔でついつい蟹股歩きになる。


 やってらんねえな……



 駐車場には、爽やかな笑みを浮かべたナミサト先輩が、憂いに満ちたドラキュラの姿で立っていた。

 

 イケメンのドラキュラ姿! 反則だろう!


「さあ、いけにえとして捧げられた哀れな娘よ。我が妻として迎えようでは無いか」

 僕たちに気づいたナミサト先輩。

 さっとマントを広げて微笑みかけた後、物凄く戸惑った顔に変った。


「あ、あれ? 柚子ちゃん?」

「私、執事の恰好がしたかったので、かわりに二尋君に令嬢役お願いしました。

こうすれば、いけにえ令嬢が必要なナミサト先輩も困らないと思って」


 びしっと姿勢を正して執事になり切って報告する柚子ちゃん。

 苦笑いのナミサト先輩。

 背筋が寒くなった僕。


 ああ、でもそうか!

 柚子ちゃんは多分、ナミサト先輩の令嬢コスプレのリクエストを断ったと言うことなんだな。

 それで代わりに僕がやらされる羽目になるのは方向が違う気もするけど、これが柚子ちゃんなりの先輩への断りの意志表示なのかもしれないな。


 そう思ったら僕のモヤモヤしていた気持ちも、すっきりと晴れてきた。

 まあ、柚子ちゃんがドラキュラの毒牙を逃れるためなら、この格好も悪くは無いかと思えたのだ。


 柚子ちゃんも思ったほど鈍感ではなさそうだな。


 固まっている先輩を差し置いて、柚子ちゃんは車の後部座席のドアを開けた。

 そして恭しく礼をする。

「さあ、二尋お嬢様、おノリください」



「二人一緒に柚子ちゃんの部屋から出て来たってことは……そう言うことか」

 車を運転するナミサト先輩ドラキュラの背中が、とても寂しく見えた。


 だが、ふと思う。


 イケメン先輩をアッシーとして使い、彼氏を便利屋扱いする。


 二人の男を邪気の無い笑顔で従えた柚子ちゃんは、本当は悪役令嬢並みの知能犯かもしれないと……



 おしまい!



 

 

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