第1話詰んでますやん
先程まで重ねられた柔らかな感触から唇が離れる。
唇を奪われた柔らかな黒髪を持つ彼女は、それでも吸い込まれそうなほど澄んだ黒い瞳に、意思を宿したまま彼に告げる。
「例え身体を奪われようとも、心を奪うことは出来ません」
あ、ほんとにそのセリフ言うんだ。
先程からこの吸い込まれるような黒の瞳から目が逸らせない。
心を鷲掴みにされたように高鳴る胸は鳴り止まない。
やっぱ可愛いよね、ユリーナは。
このゲームで1番好きなキャラクターだ。
それがハバネロ公爵に転生してしまった俺が、最初に思ったこと。
……あれ? これどういう状況?
目の前には、アニメ化もされた大人気ゲームに登場したヒロインの1人。
ユリーナ・クリストフ。
属国であるクリストフ大公国の姫だ。
王道RPG有り、領地戦略有り、ヒロインとのイチャラブ恋愛有り、ギャンブル有り、スローライフ有り!
自由度の高いことで爆発的大ヒットを生んだ大人気ゲーム。
自分の名前も含めゲームの名前も一切思い出せないけど。
呆然としてしまった俺を振り払い、もう一度キッとユリーナは俺を睨む。
「これより任務により、しばらくお会いすることは出来ません。
一応、婚約者である貴方にはお伝えしておきます。
ご報告は以上です!」
彼女はそう言い捨て、そのまま真っ直ぐ背筋を伸ばし柔らかな長い黒髪を
あゝ、うつくしひ。
そう頭の何処かで思いながら、俺はポカ〜ンと口を開けて見送った。
部屋にある姿見には、ポカ〜ンと口を開けた赤い髪の少しつり目のイケメン。
常に権力を翳し横柄で、民衆への横暴な態度を取る嫌な奴。
ゲームでは虐殺や民衆への攻撃、卑劣な罠で主人公チームを何度も苦しめた嫌われ者の悪役、レッド・ハバネロ公爵。
主人公チーム主力メンバーの1人、ユリーナの婚約者であり、彼女を地獄の底に叩き落とした張本人。
悪の限りを尽くす暴虐な覇王。
ゲーム屈指の嫌われキャラ。
それが、俺?
「どういうこと?」
事あるごとに主人公チームを妨害し、最期は神剣を暴走させて主人公チームに討たれる憎い敵役に転生してしまった俺!
だが、このハバネロ公爵。
能力は主人公チームのエース級に並ぶA!
その能力が有れば、何とでもなるはずだ。
しかも公爵という権力者。
ユリーナが旅立ったばかりということは、まだゲームシナリオは始まっていない。
ならば、どうとでもなるはずだ!
その時、俺は……そう思っていた。
……しかし、しばらく後にこう呟くことになる。
「詰んでますやん」
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