彼の夏サルベージ船

蝉が鳴いている。


気怠い授業にカーテンが揺れた。 


拭き切れていない前の席の子の長髪、

手から零れ落ちる筆記用具、

足に当たるスイミングバッグ。


塩素消毒の独特な匂い。


教卓の人影、

廊下の足音、

机上の文字列。


扇風機が回っている。



今や過去となったの夏を

咲いた思い出話から、

引っ張り出してきたアルバムの中から、

僕は引き揚げている。


彼の夏の匂いがした。

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