六通目 ライバルとカレーライス

 今日も手紙を貰った。毎日毎日いいのに…と思いながら優しく手で握ると手紙を見つめて微笑んだ。隣に居た千花は笑いながら「ぞっこんだねぇ、桜薇に。」と言ってきた。

「有り難いんだけどなんか悪いね。」

 私は苦笑しながら手紙を見た。


『さくらさんへ


 家きてくださってありがとうございました。母も父も喜んでいました。突然ですが好きな人はいますか?僕は貴方が苦しい程好きです。何なら呼吸をせずに蜂蜜たっぷりのパンケーキを食べてる気分です。 


 なんかごめんなさい。

 

 そういえばパフェとか食べますか?駅ビルの中にパフェ専門店があるんですがご存知でしょうか?美味しいですよ。さっぱり甘い生クリームと甘酸っぱい苺、まったりビターなチョコレートの組み合わせが神級。さらにトッピング自由で、おすすめはドライベリーフレーク。酸っぱくて最高なんです。一緒に行きたい。一緒に食べたいです。

 

                   K  』


 はは…相変わらず。私の手紙もこういう食べ物紹介にしようかな。パフェ…ね。私はカレーライスも好きだけど。

「なんか、K君可愛いね。確かに桜薇のタイプじゃなさそうだけど。でも…ここまで来ると怖いね。」

「……確かに。好きな…人ね。誰だろう。」

 私は考えた。頭に浮かぶのはイケメンアイドルの数々。う〜ん。考えたことなかったな。すると、はっきりと、顔が浮かぶ人物が居た。

「神原 信弘(このはら のぶひろ)先輩?イケメンだし。クールで憧れる。」

「出たよ桜薇のイケメン好き。こりゃ、K君拗ねるね。」

 私は笑った。恋心かというとわからないが確かに私は神原先輩が好きだ。短く切られた黒髪に冷たい黒い瞳。太めの眉はいつも虚無を描き本当に生きているかわからない。人形のように整った顔はあまり表情を表さず静かに何かを見詰めている。その姿を委員会時に見たときは一瞬、時間が止まったのかと思った。息を飲んだ。その、人を殺すような虚無な瞳が私を映したから。そして、気づいた時にはもうそこに神原先輩は居なかった。

「神原先輩…かっこいいなぁ…。」

 これを恋と呼ぶにはまだ早い。



 委員会時。福祉委員会時。会議を終え、同学年と話し合いをしていた。皆、同学年なだけあって遠慮なく淡々と話した。それを淡々とメモする。小さな男子の姿。樋田 琢磨(といだ たくま)君だ。元気で面白い子だけど真面目で努力家。それは、テスト試験でよくわかる。真ん丸な焦げ茶色の瞳はメモ用紙と私達を熱心に見ていた。真面目だなぁ…と関心しながら少しの間琢磨君を見た。するとバチッと琢磨君の目と私の目が合った。すぐ琢磨君はずらしてしまったが耳はほんのり赤く見えた。しかし私は会議中と言う事もあり気のせいだろうと考え、話に集中した。


 会議が終わって資料を印刷機から持ってくる際、琢磨君が手伝ってくれると言った。私は疲れていたと言う事もあり、言葉に甘えた。琢磨君は私が飽きないように話をしてくれた。好きな物、ココ最近ハマってるもの、頑張ってる事。琢磨君のする話は琢磨君がどれだけ努力してるか嫌って程伝えた。すると、こんな話になった。

「そうだっ!青柳さん、カレーライス好き?」

「うん!すっごく好きだよ!」

「じゃあ、駅ビルにあるカレーライス屋さん行った?すっごく美味しかったよ!」

「そうなの?」

「うん!あっ、今度一緒に行かない?俺が奢るから!」

「えっ!?行きたい!奢ってくれなくていいよ!」

「奢らせてよ。俺だって男だよ?」

「そんなァ…悪いよ。」

「いいっていいって。これ、ID。開いてる日連絡入れて。俺はいつでも大歓迎だから!」

 琢磨君とカレーライスを食べに行くことになった。カレーライスは好き。だから嬉しかった。男の子とご飯行くのは蛍君以外初。なんかドキドキする。早速、連絡を入れた。するとまさか凄く可愛い顔文字付きで返ってきた。『オッケー(。•̀ᴗ-)✧』私より可愛いことできる。

 私は何だかんだ嬉しくなってカレンダーアプリに一緒にカレーライスを食べに行く日を選択して、「琢磨君とカレーライス食べる」と記入した。


 千花と話しながらカレンダーを見ていたとき千花に覗かれた。

「えっ!?桜薇、琢磨君と食べに行くの?」

 千花は、余りにも大袈裟に驚くから私も動揺しながら「うん…?」と答えた。なんでそんなに驚くんだ?


 お昼時。ピコンと連絡が通知された。見てみると、蛍君からでパフェ食べに行かないかと誘われた。しかも、丁度琢磨君と食事行く日で焦った。

『ごめん その日先約があるから別の日でいい?ごめん』と送った。するとすぐ『誰と行くの?』って来たから、一度戸惑ったが『琢磨君だよ』って送った。暫くして、既読はついたが返事は来なかった。



        “K”

 

 やばい。ついにライバルが現れた。正直智也はどうでも良かった。俺がどれほどさくらさんを好きか智也は理解してると思ったから。しかし今のライバルは琢磨とかいう、頭のいい子。ちびだけど真ん丸な焦げ茶色の瞳は子供らしく見える。さては、さくらさん子供っぽい人が好きなのか!?やばいやばいやばい!!!

 絶ッッッ対譲らねぇーから!舐めんな?俺のさくらさん愛。知った瞬間手も足もでねーから。しっかしなぁー嫌だなぁ。さくらさん取られるみたいで。もっとガード強くしとけば良かった。あぁ、一緒に食事できるの俺だけの特権だと思ってたなぁー。油断した…。


 これが嫉妬って言うんかな…。


 なんか、生きてるの辛いぃ。俺、ダッサイとこしかさくらさんに見られてない…。このまま終わる訳には行かない。どうにかして琢磨をさくらさんから引き離さないと…。



     桜薇


 先週はラーメン食べれて、今週はカレーライスか。幸せだなぁ。何着ていこうかなぁ。


 当日。うきうきした軽い気持ちを隠さず待ち合わせ場所へ向かった。暫く待っているとツンツンと私の服の裾を引っ張られた。そこを見るとやはりお洒落な琢磨君が居た。小さくて気づかなかった。とは言わないでおいた。

「おはよう。青柳さん。」

「おはよう、琢磨君!」

「その服、可愛いね。青柳さんによく似合う。」

 私はその褒め言葉に思わず照れてしまった。蛍君とは違った優しさと魅力。私は顔を赤くして「ありがとう。似合うか心配だったんだ。」と言った。すると琢磨君は笑って「青柳さんなんか一段と可愛いね。」と照れくさそうに言ってくれた。琢磨君ってモテるのかな。そう思った。余りにも嬉しいことばかり言ってくれるものだから、彼女か何かいるのかと思った。

「俺についてきて。ちっさいからちゃんとね。」

 と軽く自虐ネタを披露しながら男らしく手を引いてくれた。その小さいはずの背中が大きく見えた。


 カレーライス屋についてもエスコートしてくれて、おすすめメニューさえも教えてくれた。

「そんなに気を使ってくれなくていいよ?」

 そういうと「ううん。違うよ、青柳さん。俺が青柳さんをエスコートしたくてしてるんだ。だからお願い、俺にエスコートされて?」と言ってくれる。どこまで優しいいい人なんだ。

 話しながらカレーライスを食べた。お話上手の琢磨君は決して私を退屈させなかった。  

 カレーライス美味しい。

 今日、来て良かったなぁ。


 帰る頃には、寂しいとさえ感じてしまった。

「あー!美味しかった。また来よう青柳さん。今度は青柳さんのおすすめ店教えてね。」

「うん。本当ありがとう琢磨君。」

「いいって。こちらこそ、付き合ってくれてありがとう。それじゃ、気をつけて帰ってね。バイバイ。」

 ハラハラ振られる小さな手に振り返すと少しの静寂と寂しさが押し寄せて来た。どうせ、明後日会えるのに。




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