22話 女神降臨
そして次の日、いよいよ女神様の降臨の儀が行われることになり、私はクリスと謁見の間へと向かった。
謁見の間へ向かうと既に勇者のギル様と聖女のセイラ様がいらしゃった。
他にも神官らしき人やグゥエルのじっちゃん。そしてウィリアムとマークもいた。二人は私達に気づくとすぐに近くに寄ってきた。
「すげえなあれ、あんなでかい魔方陣を初めて見たぜ」
マークが言っているのは謁見の間の中央、ちょうど玉座の目の前でセイラ様を中心に数人の魔術師達が魔方陣を描いていた。その隣で真剣な表情のグゥエル卿が指示を与えていた。
「女神様が降臨なされたのは、魔王が誕生した時にのみでそれ以降は全くなかったとのことです。よほど重大なお話があるのではないかと陛下がおっしゃってました」
そう言うクリスの表情は少し緊張しているみたいだ。
「しかし昨日は、父上と母上に今日の事をお話したら家中が大騒ぎになって大変でした。女神様から直々に加護を頂けるなんてすごく名誉な事だと切々と語られてしましましたよ」
「だよな~、俺もすっごい騒ぎになった。母上が『息子の晴れ舞台をこの目で見たい!!』と言い出してさ、父上が『女神様の降臨は本来は王族と重臣のみで行うものだから無理だ』って言って一蹴したもんだから喧嘩になっちまって母上を宥めるのが大変だったぜ」
ウィリアムは誇らしげに話しているが、それに相槌を打ったマークの方はなかなか大事になってたらしい。
そして私の方もお父様より今朝早くに分厚い手紙が届いた。要約すると『くれぐれも失礼のないように! 何も問題を起こさないでくれ!!』 と書かれていた。字の乱れから相当の動揺が読み取れた。
まあ、今までの娘の我儘っぷりを知っているので親としては心配なんだろう。
そんな話をしていると、国王陛下がお出ましになった。
陛下が玉座に座ると目の前にいたセイラ様が一礼した。
「聖女セイラよ、頼んだぞ」
「はい。では、今から女神ノルン様の降臨の儀を始めさせていただきます」
そう言うとセイラ様は詠唱を唱え始めた。
次第に床に描かれた魔方陣の文字が光はじめ、やがて眩い光となり辺りを照らした。あまりの眩しさに目を閉じて再び開けたら光は収まっていてセイラ様の周りだけ光の粒子散らばったように浮かんでいた。
その神々しいまでのオーラに圧倒される。
『アドラシオン国の王よ、久しいのう。此度は急な事ではあったがこの場を設けてくれて感謝する』
セイラ様の声は別の女の人の声と二重になって聞こえる。
う~ん、なんかどっかで聞いたことあるような気がするんだが、気のせいか……?
「とんでもございません。女神ノルン様のご神託とあらば何を置いても最優先事項となりますゆえ」
陛下は玉座の前で膝を突いて頭を下げた。
『では、初めに女神の試練を途中で阻まれた子らに加護を授けることにしようぞ』
そして私達は神官に誘導されて女神様の前で跪いた。
『まずはお主からじゃ、名をなんという?』
「ウィリアム・ネルソンです!」
『ふむ、お主はノームと相性がいいようじゃ、そして土の精霊の《ノーム》を与えよう。』
「はいっ! ありがとうございます!!」
女神様の周りに浮いてる光の粒の一つがウィリアムの目の前まで来てポンッという音とともに弾けた。そして現れたのは三角帽子をかぶった小人だった。小人は暫しウィリアムを見ていたがやがて彼の肩にちょこんと座った。
『ほう、ノームの奴はお主を気に入ったようじゃ。お主がノームからの信頼を勝ち得た時、新たな称号が与えられようぞ。その為には精進を怠らぬようにな』
「はい!」
『うむ、いい返事じゃ。…では、その隣のお主の名は?』
「はいっ、マークラッセルです!」
『なかなか元気のありそうな奴だな、お主はサラマンダーと仲良くなれそうじゃ。では火の
「はい! サラマンダー様に認められるよう日々努力いたします!!」
『ほほほ、精霊に『様』をつけるでない。お主が主人となるのだ主従関係ははっきりとさせなければならない。よいな?』
「は、はい!」
そうして、女神様の周りに浮いていた光の粒がマークの元へと飛んできた。ポンッと音ともに出てきたのは小人サイズの精霊で全身が赤く頭の髪は炎のようにゆらゆら揺れていた。
『さて次は、お主は……ほう、王の息子じゃな?』
「はい、クリストファー・アドラシオンと申します」
『ふむ、お主は稀有な力が秘められておるな。光と闇の二つの属性を合わせ持っておる』
女神様の言葉に謁見の間にいた大人たちが騒然とした。光も闇も滅多に属性になる者はいないとグゥエルのじっちゃんが言っていた。その二つを持っているってすごいことではないのだろうか。
おいおい、これじゃあクリスの方が主人公みたいじゃないか!!
『そうじゃな……。お主に一つ頼みがある』
「なんなりとお申し付けください」
『うむ。親を亡くした狼の子をお主の手で育てて見ぬか。わかっているとは思うがただの狼ではない。育て方次第では災いとなるかもしれぬぞ。お主がここで断っても咎めはせぬがどうする?』
「……はい、その狼の子を私にお預けいただけますでしょうか」
『うむ、よくぞ言ってくれた。名前はお主が好きにつけるとよい』
「はい」
そう言って女神様は手を翳すと白い球体が現れてクリスの前まで行くと再びポンッと弾けて中から真っ白い子供の狼が現れた。白いふさふさのしっぽフリフリさせながらクリスを見上げている。クリスが少し微笑んで頭を撫でると嬉しそうに懐へと飛び込んでいきクリスはそのまま狼の子供を抱き上げた。
『最後はお主か』
いよいよ私の番が来た! ワクワクしながら名を名乗ろうとしたら……。
『あー、名前は知ってるからいいわ。あなたは無属性でーす。以上』
「はあっ!?」
『だって、あなた。属性とか言ってなかったでしょう?』
女神様が急にフレンドリーな言葉使いになってやっと気づいた。
「ああ!! こんのク……」
クソ女神!!と悪態をつこうとしたら急に意識が遠のいた。文句を言いたいことが山ほどあったのに!!
レイラがいきなり倒れた後、謁見の間は騒然となった。
「レイラ!!」
クリスが慌てたようにレイラの近くによる。
『すまぬ。こやつには眠ってもらった。そしてお主らも少し眠ってもらうぞ』
女神がそう言うと同時にクリスやウィリアム、マークが次々と眠りについた。
「女神様! どういうことでしょうか?」
女神の思いもよらない行動に国王は動揺する。
『これから話すことは、この子らに聞いて欲しくなかったのじゃ。許せ』
「そうでありましたか。では話というのは?」
その時の女神の話は大人たちを驚愕させることになるのだが、レイラ達がその事を知るのはだいぶ後になっての事だった。
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