第15話 難解な話
熱田神宮は三種の
瑞貴も小さな頃は『三種の神器』の言葉の響きに興奮を覚えたこともあったが、お祭と初詣でしか訪れることはない神社になってしまっており訪れる機会は減っていた。
大黒様も一緒であれば歩いて行くことになるので30分程度はかかる。日曜日の朝でも早起きを覚悟しなくてはならないので連れていくかどうかは相談しなければならない。
――それにしても、連絡手段がメールって何なんだ?
現代ツールの利便性は高いが神様が使いこなしているのは嫌な感じだった。
どうせなら『
『神媒師』とは、もっと雅やかで厳かなモノであると勝手な想像をしていたのだが半月ほどで印象は大きく変わっていた。
――と言うか、俺の個人情報って神様たちに流出してるの?
スマホで『
――でも、スマホが神様との連絡手段になってるなら滝川家の人間以外でも良くないか?
そもそもが滝川家の人間は特別な素質を持っているわけではない。多少の素養を積むだけで神媒師になるのであれば重視されるのは家柄よりも努力の面が大きいことになる。
現状で瑞貴が神媒師であることの意味は薄く感じており特別感も全くなかった。
――俺が滝川の家で最後の神媒師になったりするのかも……
メールを読み終えた瑞貴は、スマホをポケットに入れた。
「お待たせ。ゴメンね、ありがとう」
短い言葉の羅列で散歩の再開を促してみた。大黒様の相手をしてくれている秋月だったが、
「閻魔大王って、
「えっ?」
瑞貴の『閻魔大王は神様か?』について検索してくれていたらしい。しゃがんで大黒様を撫でながらもスマホを操作して瑞貴へ情報提供をしてくれた。
「冥界の王で、生前の罪を裁く神……。って書いてあるよ」
「地蔵菩薩では神様にはならないけど、別の解釈では神様として扱われているのか?」
神様の分類は非常に難しい。名前が違うだけで同じ神様が数多存在してもいるので瑞貴が知らないだけのことも数多くある。
「えっ、地蔵菩薩ってお地蔵さんのことなんでしょ。……神様とは違うの?」
「ちょっと難しい区分にはなるんだけど、『菩薩』は『
「それじゃ、『悟りを開いた人』は修行が終わって神様になるの?」
「『悟りを開いた人』は『悟りを開いた人』ってだけで、神様ではないよ」
おそらくクエスチョンマークが沢山並んでいるのだろう。秋月は立ち上がって『分からない』と直球で不満を口にする。
真面目な話になりつつある中で瑞貴は『秋月はこんな表情も出来るんだ』と余計なことを考えてしまうが、『自分が専門家ではないことを前提に聞いてほしい』と伝え話を続けることにした。この手の話は繊細な物であり注意が必要だった。
「悟りを開くことは『
「……
「そう。……でも、仏の悟りを開いても神様とは違う」
「どうして?悟りを開くって大変なことなんでしょ?」
「もちろん大変なことだよ。でも、『悟り』ってのは『宇宙の真理』を意味していて『宇宙の真理』を理解することが『悟りを開く』ことになるんだけど……。このことは、神様と根本的に違う」
「……どうして?」
「何も生み出してはいないんだ。ただ理解しただけで生み出してはいない」
「……難しい」
少し
秋月は成績が悪くはないのだが内容が特殊過ぎた。
「ハハ……仕方ないよ。宗教によって神様の捉え方も違っているし、俺だって説明はしてるけどちゃんとは分かってはいないんだ」
「えっ、ちゃんと分かってなくても、説明はできるの?」
「表面的な違いくらいだけならね。でも、本質までは絶対に届かない。……俺が本を少し読んだ程度で理解出来てしまうものに本当の価値なんてないからね。……でも、それでいいと思ってる」
人の一生分の時間を修行に費やしたとしても全然足りない。足りないことが分かっていたとしても追い求めるだけの価値があるほどに尊いもの。
「難しい話だよね。……ほら、大黒様も難し過ぎて固まっちゃった」
秋月は大黒様をマッサージするように撫でているが、気持ちよさそうに受け入れていた。
だが、大黒様の正体が難しい話の頂点に位置しているのだから余計に複雑だ。大黒様の場合は難しくて固まるのではなくて、話の内容が退屈過ぎて固まるっているのが正解だろう。
何しろ、シヴァ神は『創造』の神でもあり瑞貴の理解の及ばない場所に存在している。
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