墜ちた鳥と幻想の鬼

「ごぺっ!」




 いったあぁぁ……




「青い鳥を撃ち落としたぞー! 多分きっとボスの子分の斥候的なアレだと思う! みんな、力を貸してくれ。コイツは私が倒す!」




 落下する前に退避してくれたんだろう。幸い周囲に人はおらず、無駄に巻き込まれた犠牲者を出すことはなかったようだ。




 でも僕自身はVITの低さが仇になったのか、結構なダメージを食らっている。




 うーん、HPが半分以下だ……




 そして周囲に集まってくる人、人、人。




 うわぁ、沢山の人に迷惑かけちゃった。


 みんな目が怖すぎる。


 晒されたりしちゃうのだろうか?




 確かに軽率だった。今考えてみると多くの人の上を飛ぶなんて、危機管理のできない馬鹿のする行為だったと思う。




 はぁ、反省反省…… 謝らなくっちゃ。




 地面に両膝をつき、やってくる人達に向かって両手もついて一礼。




「この度は! たいっへん! 申し訳ー御座いませんでしたぁーーーってぶな!!」




 見事な鳥式土下座を決める。




 そしてそんな僕に対して降りかかってきたのは、軽蔑の視線でも、哀れみの視線でも、許してやろうかというあれでもなく……




 鈍く輝く――――






 ――――金棒だった。




 すかさず白羽取り。しかし剣ではなくぶっとく重たい棒立ったからか、落下の影響で腕が折れているのか、衝撃を殺しきれず吹き飛ばされてしまう。


 どうやらステータスにマイナス補正がかかってしまっている様だ。動きが鈍い。


 HPも危険域ぁし…… これは危ない。




「この鳥め! 倒してやる! 冒険者が集まるここにやって来たこと、後悔するんだなぁぁ!」


「ちょっ、やめっ! 暴力はなにも! 産まないっ、かっ…… あぁぁぁ!」




 乱暴に振り回される金棒を転がってかわしながら弁明を行うも、向こうには一向に伝わる様子がない。


 周りの人も突然のことにビックリしてるよ。




「やめてっ! あぶっ、ぼくは! ぷれ…… はっ…… プレイヤーです!」


「人語を話すとは上位種か! いい経験値だな。成敗!」


「やめっちょっ!」




 尻餅をつきながら必死に逃げ回っていたけれど、ついに人の壁の際まで追いやられてしまった。




 これでデスはひどい。


 でも体は思うように動かない。どうにかたて直さない……




 だけど状況はどんどん進んでいく。




「姐さん、本当にこいつプレイヤーなんじゃ!?」


「いや、大丈夫だ! これで決める!【石砕き】!」


「いや何が大丈夫なんですか! あー、もう!【ヒール】」




 スキルの宣言と共に、黄色のエフェクトがかかった棍棒が振り下ろされる。


 と、同時に掛けられる白い光。




 痛みが消えた。


 そう認識した瞬間に口をつく起動句。




「【黒縛鎖】」




 そっと唱えられた言葉にあわせて首に巻かれたチョーカーが高速で外れ……




「えっ!? ちょっ、いやーーー!」




 黒い鎖となって、相手プレイヤーに巻き付き拘束。


 スキルはファンブルに終わり、僕は一命を取り留めた。




 うわー、怖かった。久々の殺気はクるなぁ……




「ごめんなさい、助かりました。」


「いえ、少し見ればあなたがプレイヤーなのは分かりましたし、ここで姐さんにPK歴付けさせるのも嫌でしたから。」


「本当に申し訳ないです……」


「こちらこそ。」




 金棒プレイヤーの横に立っていた緑髪のエルフ少女にお礼の言葉をかける。まぁ過失的には半分半分くらいだろう。誰だって鳥レイドの前に鳥が飛んでたら警戒するよね。




「僕はライトです。君の名前は?」


「私はギンナです。あっちでモゾモゾしてるのがモミジ姐さん。二人でパーティー組んでます。」


「ちょっと個人情報だぞギンナ! そんな奴に教えるんじゃない! てかこの鎖を解け! この変態!」




 喚いておられる…… 殴りかかってきた人こわい……




 ちょっと殺気を思い出し震えながら、横から入った声を切っ掛けに殴りかかってきたモミジ姐さんさんの方に視線をやる。




「うわっ、すっごい美人……」


 それだけに話がわからないことが尚更……




 戦闘(?)中は生きるのに必死で気付かなかったが、そこでぎゃーぎゃー仰ってたのは浴衣を着たTHE鬼人種といった装いのプレイヤーだった。


 ……とてもジャパニーズ大和撫子なお顔をしておられる。


 キャラクリであることは分かるのだが、思わず見とれてしまうくらいに完成されていて、ビックリしてしまった。




「ほ、誉めても何にもならんぞ! それより今すぐこの鎖を解けと言っているんだ!」


「あっ、口に出てました!? はー、ごめんなさい。わかりましたから解いても攻撃しないで下さいね?」


「そんなこと分かっている。だからこの忌々しい鎖を!」


「はいはい。了解です。【解除】っと。」


「ふ、ひゃん! ……ありがとう変態。」




 解除してあげたのにまだ罵られてる……




 立ち上がったモミジ姐さんさんはすっとギンナさんの来ている布服の袖を掴み、こちらを睨み付け、




「ふんっ、ギンナ行くぞ! 今日の所は許してやる。だがまた人間に害を成した場合は…… この金棒でなめろうにしてやろう。」


「それは駄目ですよ姐さん! あっ、これ私たちのフレコです。よければどうぞ!」


「あっ、ありがとう」


「ちょっ、ギンナなにしてるんだ!」


「まぁまぁ姐さん、彼きっといい人だよ。」


「だからと言って私のものまで……」


「まぁまぁ……」




 話ながら去っていった。




「うーん、激動。さっ、皆さんも解散解散!!」




 フレンドコードを入力しながら、僕は衝撃的な物を見たかのように固まっている周りへと声をかける。




「ギンナちゃんのフレコいいなぁ……」


「モミジ姐さんのキャラクリコンセプトヤバイだろ…… 完璧に"分かって"やがる。」




 そんなことを言いつつ解散していく周囲の人達。僕が墜ちちゃったことより、彗星の如く現れた注目の二人組に注意が行っている様。




 そして一分が経った頃には辺りは再び元の広場へと戻っていった。




「はー、なんか疲れちゃったよ。ホノカ探さなきゃ……」




 大分時間が経ってしまったし、中々探すのは難しくなっているだろう。一応空中で入れておいたフレンドメッセージにも返信がない。




「うーん…… 本当にどうしよう……」




 と、その時! 僕に救いの女神が現れた。




「おっ、いたいたライト。探したぜ!! 」




 いや、女神じゃなかったわ。




「この俺様直々のお迎えだ! ホノカも待ってるぜ。早く来いよ!」




 そんな風に呼び掛けながら日に焼けたムキムキの腕を振るのは……




 ギルドの美人(じゃない方)受付嬢(じゃない方)、ラドー様だった。

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