第33話 たこ焼きは魔法の料理らしい
結論から言おう。平常心で観れるわけがなかった。
今テレビから『バ○ス』なんて有名な台詞が流れているが、ここまでの話なんて1つも入ってきていない。
変わらず隣に座っている優里さんもまた少しソワソワしながら観ている。たぶん俺と同じ心境なのではないだろうか。
そしてそのままエンディングが流れた。
「おっ、面白かったですね」
「そうですね」
そんな動揺されたら今以上にさっきの出来事を意識してしまう。
さてどうしたものかと色々考えてみるが、この気まずい空気を打開する良い案は浮かんでこなかった。
・・・いや、むしろポジティブに捉えてみよう。
俺としてはラッキースケベすら起こさないように気を張っていた立場。正直起これば嬉しいがどうにか理性で押さえ込んできた感はある。
だからあれは俺が理性で押さえ込んで尚起きてしまった事故だと思うしか無い。
うん、そうしよう。・・・だから、そんな目で俺を見ないでください。
優里さんは相変わらず落ち着きのない様子で俺とテレビと、あとどこかに視線を這わしている。
「晩ご飯どうしましょうか?」
「えーっと・・・そうですね」
彼女はあくまで俺を見ないように天井に視線を移して考えている。俺を見てはくれないが、まぁ気まずさが勝って無視されるより全然いい。
それからしばらくして、
「たこ焼きって今から作れるものですか?」
「たこ焼きですか?」
「はい、今日綾奈さんを駅まで送っている最中にたこ焼きを家で作ったというお話を聞きました。聞いていたらすごく面白そうだと思ったので・・・」
俺はその話を聞いてすぐに冷蔵庫の中と食料保存庫の中を確認した。
基本的にはある。問題はタコだが・・・。
「タコ買いましたね。そういえば」
「はい、先日マリネを作ろうという話になって買いました」
と言うわけで具材は揃った。たこ焼き器は先日秀翔が置いて帰った物がある。
バッチリじゃないか。ついでに自宅でたこ焼きと言えば色々わいわいできるパーティー料理でもある。これで優里さんとの気まずさを取り除くことが出来れば万々歳だと思った。
「というわけで準備は完了です。これが生地でこっちがたこ焼き器に塗る用の油、あとはタコとかチーズとか中に入れる具材ですね」
「へぇ~チーズなんかも入れるんですね」
「まぁこれは各家庭によって色々だと思いますよ。俺の家はタコかチーズかってところでした」
そういいながら俺は油をしいて、熱したのを確認してから生地を流し込んだ。
優里さんには爪楊枝を渡しておく。
「これでひっくり返します。最初は難しいと思いますが、まぁ今日食べるのは俺達なんで、失敗しながら覚えていきましょう」
「分かりました!」
よかった。もうさっきまでの気まずさはない。
生地が焼け出してひっくり返すときが来る。最初は見本を見せて、あとは任せた。その間にソースと青のりも用意しておく。
「あぁ~!?潰れてしまいました!うぅ~・・・」
なんて声がリビングから聞こえてくる。まぁ最初はそんなものだろう。俺もそうだったし。
色々持ったままリビングに戻ると、嬉しそうに焼けたたこ焼きを俺に見せてくる優里さんがいた。
「見てください!綺麗にひっくり返せましたよ。これは信春君に食べて貰いたいです」
「本当に上手に返せましたね。ではありがたくいただきます」
取り皿を差し出すと、持っていたたこ焼きを皿に置いた。
にしてもたこ焼き器にまだ残っているたこ焼き達を見ると、本当に彼女の器用さに感心してしまう。いくつか形が潰れているが、それも纏まって数個だけ。あとは綺麗に焼けていた。
「では・・・、いただきます」
「はい」
緊張した面持ちで俺の口元を凝視する優里さん。
「あんまり見られると食べにくいんですけど」
「ごめんなさい、でもやっぱり心配で」
まぁ生焼け以外にまずい要員があるとするのであれば、俺が生地作りをミスっているくらいしか原因はない。
ひっくり返す時間もちゃんと計っていたし、まずいなんてことはまぁ無いだろう。
しっかりと冷ましてから、一口で1個を放り込んだ。
そしてしっかり噛む。
「・・・、・・・、・・・、うん、美味しいですよ」
「本当ですか!?」
「はい、では優里さんも食べてみてください」
「わかりました」
そう言って一口。
ゆっくりとたこ焼きを咀嚼する。そして優里さんの表情は一気にほぐれた。
「美味しいですよ、信春君!」
「それはよかったです。ではどんどん焼いていきましょうか」
「ひっくり返すのは私に任せてくださいね!」
かくしてたこ焼きパーティーは大成功に終わった。
しかしこのときの俺は・・・、いや優里さんも忘れていた。まだ1枚恐怖のDVDが残っているということを。
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