第29話 相棒と書いて友




「「ヒャッハー!!」」


 繰り返しである。蛇も蜘蛛もテンションが高い。


 知っていた。朝日側――東に、今日は魔物が集まっているのだと。



    《身体操作》《瞬発LV6》

    《突貫LV1》《察知LV5》



    《暗視LV2》が《暗視LV3》に上がった!



 魔物の群れ。



    《邪眼LV3》



 魔物たちの動きが停止。



    《蜘蛛巣ストーン〇リー



「一時合体解除!」


「ラジャ!」



    《三角蹴り》


        《毒爪》《毒牙》


    《噛み砕くLV5》


        《毒爪》《毒牙》


    《巻きつきLV5》


        《毒爪》《毒牙》


    《丸呑みLV3》


        《毒爪》《毒牙》


    《突貫LV1》


        《毒爪》《毒牙》


    《噛み砕くLV6》


        《毒爪》《毒牙》


    《巻きつきLV6》


        《毒爪》《毒牙》


    《丸呑みLV3》


        《毒爪》《毒牙》



 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ、ゴックン。




「「ヒャッハー!」」


 繰り返しである。蛇も蜘蛛も経験値と食欲でラリっている。


 西に向かうにつれ、魔物は徐々に減っているが、強い者を見かけるようになった。



    《身体操作》《瞬発LV6》

    《突貫LV2》《察知LV5》



 強い魔物たち。



    《邪眼LV4》



 魔物たちの動きが停止。



    《蜘蛛巣ハイエロファントグリーン》



「一時合体解除!」


「ラジャ!」



    《三角蹴り》


        《毒爪》《毒牙》


    《噛み砕くLV5》


        《毒爪》《毒牙》


    《巻きつきLV5》


        《毒爪》《毒牙》


    《丸呑みLV3》


        《毒爪》《毒牙》


    《突貫LV1》


        《毒爪》《毒牙》


    《噛み砕くLV6》


        《毒爪》《毒牙》


    《巻きつきLV6》


        《毒爪》《毒牙》


    《丸呑みLV3》


        《毒爪》《毒牙》




 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ。


 ゴックン、もぐもぐ、ゴックン。




   てれれってってってー!

    レベルが上がった!

    各基礎能力が向上した!

    《毒牙LV6》が《毒牙LV7》に上がった!

    《薙ぎ払うLV1》が《薙ぎ払うLV2》に上がった!

    《察知LV4》が《察知LV5》に上がった!




 脱皮に必要な水分は、スライムを探す必要さえなかった。


 俺は今、あの時恐れたカーニバルに参加している。血なんていくらでもあるのだ。



「ヒャッハ」


「待てや」



    《毒爪》《毒牙》



 相棒に爪と牙で静止される。



    《毒耐性LV2》が《毒耐性LV3》に上がった!

    《毒耐性LV3》が《毒耐性LV4》に上がった!

    《毒耐性LV4》が《毒耐性LV5》に上がった!



 さすがは相棒の毒。つおい。



    ―復讐期限まで、あと3時間です―



「はっ!」


「はっ! じゃないわ!」


 ぱしーん! と純白のハリセンで頭を叩かれる。


 どこから出したそれ。よく見たら《森狼》の骨じゃねぇか。


 折れてるし。


 ぱきーん。


「何だよー。美味しくてオイシイ食事中に」


 移動して食い放題。


 気分はバイキングか立食パーティだったのに。


「いやお前、何や知らんけど出発する時焦っとったんちゃうんけ」


 あと二時間に迫っている復讐期限のことだろう。恐怖が表情に出ていたらしい。


 察した上で、何も聞かずに一緒に来てくれた相棒に感謝したい。


「ありがとな。大丈夫大丈夫、考えての行動だって」


「ホンマかぁ?」


 相棒は、右前の脚で頭をカリカリとかく。


「ホンマホンマ」


 復讐期限とやらを忘れていたわけではないのである。


 ホンマだよ?


森狼しんろう》《森猿しんえん》《森梟もりふくろう》はどれも美味しかった。


《森狼の長》《森の賢者》は最高だった。味も経験も。


 また食いたいあ涎出て来た。



   《消化吸収能力LV5》が《消化吸収能力LV6》に上がった!

    スキル《噛み砕くLV1》を獲得した!

    スキル《噛み砕くLV1》を獲得した!

    スキル《噛み砕くLV2》を獲得した!

    《噛み砕くLV1》《噛み砕くLV2》は《噛み砕くLV6》に統合される!

    《噛み砕くLV6》は《噛み砕くLV8》に上がった!



    スキル《噛み千切るLV2》を獲得した!

    スキル《噛み千切るLV1》を獲得した!

    《噛み千切るLV1》《噛み千切るLV2》は《噛み千切るLV7》に統合される!

    《噛み千切るLV5》は《噛み千切るLV7》に上がった!


   《消化吸収能力LV6》が《消化吸収能力LV7》に上がった!

    スキル《統率者LV1》を獲得した!

    スキル《南の森の知恵LV1》を獲得した!



 ちょうど良いタイミングで、食ったものが消化吸収できたようだ。


 無音のまま、気配だけが近づいてくる。


 多くの百足むかでには、実は百本も足はないという知識がある気がする。


 しかし《察知LV5》で感じるムカデの足は、百本を余裕で越えてそうだ。おびただしくておぞまましい。


 ぶっちゃけキモい。


 いやぁ。予感はしてたんだよね。



    ―復讐期限まで、あと2時間です―



 ↑この天の声が聞こえるようになってから、つまりは二日前から、何となくムカデの存在がわかるようになった。


 その存在が大きくなっていたのを、時を追うごとに肌で感じていた。


 多分、コイツもそうだったんだろう。


 俺が急速に大きく強くなってくるのを、コイツは感じていた。


 コイツが俺にやや遅れて、急速に大きく強くなっているのを。俺も感じていた。


 ぶっちゃけ怖くて仕方なかったのだ。


 何やら期限を迫られているし、一時間ごとに小うるさく天の声は残り時間を告げてくる。


 そんな中、ムカデが大きく強くなっているのを感じて。


 だからギリギリまで、相棒と狩って食っときたかったのだ。


 互いが互いの存在を意識し、互いが互いを高めあった。


 俺にとって一番信頼しているのは相棒だ。


 だが、一番共に高め合ったのは、コイツか相棒か迷うところだ。


「おいおい。こいつぁ……!」


 肉眼で見えるところまで、ムカデが近づいてきた。相棒もこれがあの時のムカデだと理解しただろう


 そういえば、俺とムカデは移動の仕方が少し似ている。


 そんな、どうでもいいことを見上げながら考えた。


 東側に魔物が多かったのは、西側にこいつがいたからだ。こいつが二日間でここいらの魔物を食いまくって、魔物たちは東へ逃げていた。


《存在進化》で小さく高密度になった俺は、レベルアップと食事を経て前のサイズを超えた。


 今は体感で、体長7メートル、太さが直径で1メートル弱くらいかな。前世の知識からすれば、大概化物だ。


 相棒もレベルアップと脱皮を繰り返し、1メートルの球があればはみ出すくらいになっている。


 そんな俺たちが見上げるムカデは、体長二十メートルはあるだろうか。俺の三倍。太さは五倍はあるだろう。その巨体を蛇のように上半身をもたげて、無数の足をうごめかせている。


 身体が震えるのは、見た目による生理的嫌悪か、恐怖か。はたまた他に何かあるのか。


「ここまで来て言うのもなんだが、蜘蛛よ」


「……っ! 何や? 蛇」


 声をかけられて我に返ったように、蜘蛛は応える。


「逃げてもいいんだぜ?」


 相棒は少し逡巡する。蜘蛛の表情なんて俺にはわからないが、苦み走ったような顔だ。


 ため息を吐いて、右前脚で頭をカリカリとかく。


「気色悪くて食欲は湧かん。それでも、間違いなく経験値的にオイシイ相手や。つまりは強過ぎる」


「…………」


「倒した後は、お前が分解せぇよ。相棒」


「うっげ。《噛み千切る》で? 想像するだけで泣きそう」


 本当に気持ち悪い。食わないのも選択肢にあるんじゃない?


「泣きそうなのはこっちやで。ハメられた気分や。狡猾な蛇め」


 蜘蛛が八つの目で俺を睨む。


「……くくく」


「ははは」


 蜘蛛と蛇で笑い合い、視線をムカデへと向けなおす。


 ムカデは身を捩り、頭をもたげて前後させる。無数の足がおぞましくシャカシャカと動く。


「行くぜ! 相棒!」


「応!!」



     ――復讐を開始します――




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