第21話 欲の報い




 もちろん、正々堂々やる気はない。


 武器を持っていたゴブリンの方が少なかったのだが、今回は二匹とも棍棒を持っていた。


 そして、今まで見たゴブで最高レベルのLV8だ。これまで狩った一番高い個体はLV6だった。


 だからいつも通り一生懸命不意を突く。俺たち暗殺者ブラザーズ。


 いぇーい。


 …………。


 ……二手に分かれた。一人一匹、いや一匹一殺。


 対角線ではない、ややズレた角度。


 先鋒は俺。例によって斜め後ろからいく。



    《身体操作》《瞬発LV4》

    《突進LV6》《噛み千切るLV5》



 ――いつも通りに四肢のどれかを噛み千切り、ゴブ二匹の距離を離す。そうやって、一匹対一匹で戦いやすいようにする。


 そう思って突っ込んだ俺は、やはり浮ついていたんだろう。


 俺が突進したゴブは、激突する直前上半身だけで振り向き、棍棒で薙ぎ払ってきた。


 ――察知系スキルが高く、直前で気付かれたのか。それとも、突進して間合いに入って来るまで気付かない振りをされていて、俺が踊らされたのか。どちらにせよ失策だった。


 ゴブの棍棒は、俺が噛み千切るため開いた下顎にクリーンヒットした。俺の小さな脳が激しくシェイクされる。


 しかし、視界でそのゴブがぎょっとする表情をしたのが見て取れた。俺のサイズのデカさは想定外だったのだろう。


 脳は揺れたが《身体操作》と《瞬発LV4》によって強化され、レベルも上がった《突進LV6》は止まらない。


 ゴブリンと俺は交通事故のように衝突し、俺はゴブリンを道連れに身体のコントロールを失ったまま、着地予定の位置から吹き飛んでいった。


《第三の目》で後ろの様子を見る。


 懸念の一つは杞憂だった。相棒は予定通りに蜘蛛糸で自分の食うゴブリンを絡め取っていた。


《蜘蛛糸》と《操糸》のレベルは、俺から見ても上がっていた。あとは《毒牙》で楽に食うだろう。相棒が負けて、二匹のゴブを相手にする最悪のケースは逃れたと思っていい。要は、俺だけミスったのだ。


 さて、残る問題はあと一つ。大きい問題だ。


 強い脳震盪を起こしている。木はぐにゃぐにゃと歪んで見えるし、上下左右がわからない。


 捕捉すべきゴブリンを見失っている。焦る。自分の状況は不安定な中、相手の姿は見えないのだ。


 ――冷静になれ。自分に言い聞かせる。


《噛み千切る》は外したが《突進LV6》のダメージは通っているはずだ。


 攻撃が来ないのは、相手もダメージを負っているからという可能性が


 ガツン!


 眉間に衝撃を受けた。


 ――痛ぅ!


 希望的観測だったようだ。相手はおそらく、冷静に俺の脳震盪のダメージを見ていた。


 ガツン!


 その上で、俺が攻撃できない頭の上に位置取り、俺の頭を両腿で挟んで棍棒を眉間に叩きつけている。


 ガツン!


 クールだ。無駄が無い。完璧に死角を突いた攻撃。そして、太腿の力も棍棒を叩きつける力も、経験したことがないほど強い。


 激痛が、頭蓋にヒビが入っているのを伝える。


 ガツン!


 気が狂いそうな痛み。思考がままならなくなる。


 こんな時こそ、逆境でこそ俺もクールになるべきだ。頭以外の攻撃手段を手に入れていればなど、後悔しても仕方ない。そんな無駄なことを考えながらも、攻撃と痛みは続いている。


 よかったじゃないか。これで見失っていたゴブの居場所がわかった。



    《突進LV6》《瞬発LV4》

    《三角蹴り》



 振り落とせはしないものの、さすがに棍棒の攻撃は止んだ。腕の力も使って、俺にしがみついている。



    《突進LV6》《瞬発LV4》

    《三角蹴り》



 ゴブは棍棒を落とした。攻撃が来ないのは嬉しいが、違う。これが目的じゃない。



    《突進LV6》《瞬発LV4》

    《三角蹴り》



 ――みちっ


「ぐぉ、が!」


 ……こいっつ! 目に手を突っ込んできやがった。



    《突進LV6》《瞬発LV4》

    《三角蹴り》



 まだか、まだかと願いながら繰り返す。


 ただでさえ景色も平衡感覚も歪んでいるのに、左目も激痛で目が開けられない。



    《突進LV6》《瞬発LV4》

    《三角蹴り》



 ぐじゅ、ぐじゅ、と嫌な音がする。


 ゴブが俺の眼球を掻き回すので、更なる激痛が走り続けている。



    《突進LV6》《瞬発LV4》

    《三角蹴り》



    《苦痛耐性》が《苦痛耐性LV2》に上がった!

    《痛覚軽減》が《痛覚軽減LV2》に上がった!




 違う、そうじゃない。気が狂いそうな痛みに、最早耐えてもいない。さっき決めた行動を、思考停止で続けているだけだ。



    《突進LV6》《瞬発LV4》

    《三角蹴り》



 掠ってはいるのを身体が感じる。ただ、当たらない。


 閉じた目からは、血と涙が流れ続けている。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る