第34話【作戦会議とメイシス王女の側近精霊】
「こちらでお待ちください」
メイシス王女の講習が修了してから数日後に王宮に呼ばれた。
これから国王とメイシス王女と宰相を交えて王女の成人披露パーティーの日に執り行うもろもろの内容について話し合いを行うためだ。
ハッキリと言って気が乗らないが当事者のため逃げる訳にもいかずしぶしぶ参加していた。
「よく来てくれた。娘から大体の事は聞いていると思うがやはりキチンと話しておくべきだと思ってな」
「この度は色々と確認したいことが多くて何から話せばいいか分かりませんが、本当に僕で良いのですか?」
「私から言い出したのだから問題はないし、何より娘本人が乗り気なのだから今さら変更はないだろう。
但し、娘からも聞いただろうがやはり第三とはいえ王女を平民に嫁がせるのは周りの貴族どもが黙ってないだろうからそなたを『名誉貴族』として叙爵させて貰うぞ。
叙爵理由は数々の発明品に加えてメイシスの上級錬金術士としての才能開花を手助けした事による王家への貢献だ」
国王陛下はチラリとメイシスを見ると僕に向き直り言った。
「叙爵階級は『名誉伯爵』だ。
メイシスを嫁に出すなら最低限上級貴族である伯爵以上で無ければいかんからな」
それを聞いた僕は驚いて国王陛下に聞いた。
「伯爵ですか?しかし、平民の私が下級貴族を飛ばしていきなり伯爵になるのは周りの反発があるのではないですか?」
「勿論それはあるだろうな。
だが、これから周りの貴族達に余計なちょっかいをかけられぬ為にも通さねばならぬのじゃ」
国王陛下が頭を悩ませている傍でメイシス王女が考えを出してきた。
「ならば力を示せば良いのではありませんか?錬魔士の名前は伊達ではない事を示せば他の貴族達も納得するしかないでしょう」
「そう簡単に言うけれど具体的にどうすればいいか分からないんだけど」
メイシス王女は少し考えてから話し始めた。
「錬魔士様の代名詞は精霊召喚にありますので精霊のどなたかが力を見せれば良いかと思いますわ」
「ちから……か。剣術ならミスド、魔術ならセジュ、異空間収納ならシール、万能メイドならミルフィだな。誰が一番説得力があるかな?」
それを聞いた国王陛下が考え込む僕に自分の思いを伝えてきた。
「それについてはちょっと待ってくれ。
実はこの発表後に錬魔士殿の工房隣にメイシスの住居兼工房を用意するつもりなんじゃが、一人で住ませるには防犯上問題があるがそなたとはまだ婚約発表しかしないから一緒に住むのは早いと思うのじゃ」
『いやいや、研修中は常に工房に泊まり込んでいたでしょうが……』
「でじゃ、出来ればメイシスの工房にも側仕えと護衛の出来る精霊をお願いしたいんじゃよ」
「分かりました。その精霊達も同席させて他の貴族達を牽制するんですね。
後で王女の愛用カップとそうですね、王宮メイドの服を一着用意してください。
側仕えも護衛も女性精霊が良いんですよね?」
「さすが錬魔士殿だ、良く分かっておられる。是非とも頼みますのじゃ」
「ララ、後で手伝って貰うよ。この際だからメイシス王女も見学していくと良いよ」
「了解ー!まかせておいて!」
「私が同席しても大丈夫なのですか?本来精霊召喚の儀式は錬魔士様ご本人しか立ち会うことが出来なかった神聖なもののはずだと思いますが……」
「そんなに小難しく考える事は無いよ。
今までそうだったのは僕しか出来なかった事と僕が他人と錬金術に関してあまり積極的に話してこなかったせいでもあるんだ。
でもふたりともまだだけど婚約者で弟子だから良いかなと思ってね」
「またひとつ錬金術士として認めて頂いたのですね。ありがとうございます」
「精霊召喚に関しては僕の工房でなければ駄目なので後程媒体を持参してきてくださいね。後は気は乗らないですが叙爵の受け方の享受をお願いします」
「あい分かった。それはこちらで対処させて頂く」
こうして来る日の準備は着々と進んでいくのであった。
* * *
「ーーー言われた媒体の品を持って参りましたわ」
次の日の午後、メイシス王女が側仕えの精霊を呼び出す媒体を持って工房を訪れた。
今回呼び出す精霊はメイシス王女のサポートをするメイド精霊と身辺警護の護衛精霊になる。普通ならば簡単には受けない依頼内容だが、婚約者となれば安全を担保する意味でも必要だろう。
精霊同士の交流も出来ると良いのでミルフィに信頼出来る知り合いが居ないか聞いてみたら妹を推薦されたので縁の理を使いメイシスが持参した愛用のカップに召喚させてもらった。
「お初にお目にかかります。
ミルフィの妹の『ショコラ』で御座います。
至らない事もあるかと思いますが何卒よろしくお願い致します」
「ずいぶん礼儀正しい妹さんだね。こちらこそよろしく頼むよ。
それでこっちが僕の婚約者でこの国の第三王女のメイシスだよ。君は彼女のサポートについて欲しいのだけどどうかな?」
「こちらの女性ですか?ふむ、なかなかの素質をお持ちのようですね。
良いですよ、私が完璧にサポートして見せますので日頃お呼びする名前を教えて頂けますか?」
ショコラはメイシス王女にニッコリと微笑むと握手を求めながら名前を聞いた。
「そうですね。本来ならば様付けなどはして欲しくないのですが、立場上は私の側近になるので呼び捨ても対外的によろしくないですね」
メイシス王女は少し考えた後にある提案をした。
「そうですわ。メイシス様だと堅苦しいので愛称の『メイ』に様を付けて『メイ様』と読んでくれたら嬉しいですわ」
「分かりました。
ご主人様のご要望によりこれからは『メイ様』と呼ばせて頂きます。
どうぞよろしくお願いします。
私の事はショコラとお呼びください」
「ありがとうショコラ。私こそよろしくお願いしますね」
「良かったねショコラ。私はマスターの工房にいつもいるので気軽に声をかけてね」
「ミルフィ姉様にはお変わりなくお元気な様子でショコラも嬉しいです。
分からない事があれば相談させて頂きますね」
「もう!ショコラったら相変わらず堅苦しい喋り方なのね。
でも真面目なあなたならきっとメイシス様のお役にたてると思うの。頑張ってね」
お互いの挨拶と契約が済んだので今回はもうひとり召喚させる予定だ。
王宮御用達のメイド服から護衛精霊を呼び出す予定だ。
「今回はララにも手伝って貰うよ。
いいかいこの召喚媒体にララの魔力を制御しながら出来るだけ注いでくれるかい?
その間僕は能力の底上げをする魔方陣を組むからよろしく頼むよ」
「了解よ。私の中の魔力達、ぎゅっとにぎって圧縮させて竜の力を練り込んで……いいわよタクミ!」
「幾多の厄災をも拳ひとつでうち壊す強靭な肉体と主に降りかからんとする悪意ある敵を寄せ付けぬ闘気を胸に我が婚約者メイシスを守護する精霊よ!
ここに姿を現せ!精霊召喚!!」
儀式が始まると凄まじい魔力が媒体のメイド服に集まり光を放ちだした。
光が収まるとそこにはメイド服を着たひとりの女性精霊が立っていた。
彼女は閉じていた眼を開くと僕達を見回してから深々とお辞儀をして自己紹介を始めた。
「始めまして私は『カレン』と言いますの。
得意な事は格闘全般ですの。
私が同席している場での主人となる方の安全は保証しますの」
凛とした雰囲気で拳を突きだしてキメポーズをとるカレンを見て僕は思わず手の平を顔に充てて『あちゃあ』といった顔をした。
『うん。メイド服に召喚する精霊ではなかったな。
持ってきて貰う服のチョイスを間違えたよ……。
ショコラも家事担当だから基本メイド服だし、カレンはメイド服の精霊だから基本メイド服だよな。
まあ警戒されにくくて良いのかも知れないけれど』
「カレン。彼女が僕の婚約者で君の主人になるメイシス王女だ。
君とショコラのふたりでメイシスの側近としてサポートして欲しい」
「メイシスですわ。カレンさん、ショコラさん、よろしくお願い致しますわ」
「お互いの挨拶も済んだところで今度あるお披露目会の計画をたてようか。
王様はこっちの味方だし、やるからには全力でやることにしよう」
僕は秘蔵のお菓子を皆に出しながら打ち合わせを進めていった。
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