第32話【メイシス王女の錬金工房合宿 その七】
僕は話の流れから嫌な予感がものすごくしていたが逃げる訳にもいかずにメイシス王女の話を聞くしか無かった。
「娘にはもう心に決めた相手が居るのでその者と一緒にさせてやりたい。
今相手を説得していて成人披露パーティーにて相手を紹介するから待って欲しい。
もし、それまでに相手の了承が得られなければそちらに嫁に出そう。と言う話になったみたいなのです」
「で、その相手と言うのは?」
「タクミ錬魔士様。あなたですわ」
『やっぱりそうきたか』
僕はガックリとうなだれて大きなため息をひとつ吐き出してからメイシス王女に言った。
「メイシス様。先日も言った通り僕は事情があって結婚を考えて無いのです。
今回の件はメイシス様にとって非常に受け入れがたい案件だと思いますがこちらとしましてもすぐに了承できる事では無いのです」
「それはララさんの事ですか?それとも私には話せない重大な隠し事がおありなのですか?」
「そうですね。そのどちらでもあると言うべきなのかも知れませんね。
メイシス様、これから話す事は誰にも言わないと約束して頂けますか?たとえ国王であってもです」
「……それだけ重要な事なんですね。
分かりました、お約束致します。それを聞かないと私の中で絶対に納得がいかないでしょうから」
メイシスの眼には覚悟の光が見えていたので僕は話せる範囲を選択しながら説明をしていった。
「メイシス様。あなたは『僕が歳をとらない』と言われたらどう思いますか?」
「えっ?それって外見がずっと変わらないって事ですか?」
「ええ、そうです。ですからもし僕がメイシス様と婚姻を結んだとしても年が過ぎるたびに『僕はこのままなのにメイシス様だけ歳を取る』と言うことがおきてしまうのです。
それだけでもかなりの悲劇なのに精霊達は勿論、ララも特殊な事情から成長が緩やかですので『メイシス様だけ』が通常の時間にそって歳をとられるのですよ」
「そ、そんな事を言われても信じられませんわ。それにララさんもだと言われても……」
「まあ、そうですよね。
普通の考えではとんでもなくめちゃくちゃな事を言ってると自覚してますよ。
でもそれを話さずにメイシス様と婚姻を結べば必ずいつかは悲しい運命が待ってるのが分かるから辛いのです」
メイシス王女は少しの間、下を向いて考えごとをしていた。
今言われた突拍子もない事を自分の中で整理しているのだろう。
国王様やメイシス王女には悪いけれど諦めてもらうしかないよな。
「メイシス様……」
僕が声をかけた瞬間メイシスは僕を見てハッキリと告げた。
「構いませんわ!私が私でいるためにはタクミ様が絶対に必要なのですもの!それに……」
「それに?」
「タクミ様なら私をできるだけ若く保つ魔道具を作ったり出来るでしょうし、子孫だって残す事が出来ないわけじゃないから!唯一あなたを悲しませるのが絶対に私が先に死んじゃう事だけが確定してることだけですわ!」
メイシス王女はそう言い切ると僕の手を握りしめ再度懇願してきた。
「お願いします、タクミ様!王女として領地を治める貴族に嫁ぐよりもタクミ様の元で錬金術士として国に民に恩返しが出来る機会がある事を捨てたく無いのです!
すぐに婚姻を結ばなくてもいいのです。
私が一人前になるまでは婚約者として師弟関係を築いてくだされば嬉しく思います」
僕はメイシス王女の真剣な眼差しに気圧されながらもかろうじて返答を返した。
「これからのメイシス様の人生を背負うには僕だけの気持ちだけでは決められないんだよ。
ララや精霊の皆は僕の家族と同じだからやはり皆にも話して決めたいんだ」
「分かりました。それでタクミ様が納得されるならば皆さんにも誠意をこめて説得させててもらいます」
それから皆を交えてからメイシス王女の説得が始まった。
* * *
「ーーーと言う訳で、皆さんにもタクミ様との婚約を認めて頂きたいのです」
「私ども精霊達はタクミマスター様のお考えに反対する者はおりませんので決定された事柄を伝えて頂ければ結構ですの」
ミルフィが精霊達を代表して意見を述べた。
「やっぱりそうなったわね。
だから言ったじゃない、ちゃんと考えておきなさいって。
でも、私とは婚約出来ないのにメイシスとは出来るのが納得出来ないわよ!どうしてよ!?」
『うげっ!?また話しがややこしい方向へ向いてきたぞ?』
「ラ、ララ?一体どうしたんだよ?ララは家族だろ?」
ララは眼に涙を一杯に溜めながら僕を攻めてきた。
「家族?家族ってなによ!?
ただ一緒に居るだけの存在を家族って言うの?
私だってタクミのこと好きなんだから!それをこんな姿だから結婚出来ないとか酷くない!?
これでも私はタクミよりずっと年上なんだからね!!うわーん!!」
ララは盛大な爆弾発言をしたかと思うと一転して泣き出してしまった。
「ちょっ?ちょっとララ?」
いきなりの展開に頭が真っ白になった僕は思わずララを抱き締めていた。
「タクミマスター様。まさかとは思いますがララさんの気持ちに気づいてなかったのでしょうか?あれだけ駄々漏れな気持ちを」
「えーと。ララ……さん?そうだったのか?」
まだ僕の胸で嗚咽を繰り返しながらも頷いたララは真っ赤にはらした眼を僕の顔に向けて叫んだ。
「この!馬鹿タクミ!!鈍感にも程があるんだからね!なんとか言いなさいよ!馬鹿馬鹿馬鹿!!うわーん!」
ララは言いたい事を言うとまた泣き出した。
思ってもいなかった展開に僕とメイシス王女はララが落ち着くまで待つしかなかった。
……………。
「ーーーごめんなさい!なんかいっぱい吐き出したらスッキリしちゃった。でも嘘は言ってないわよ。本当なんだから」
「そうですか。ララさんもタクミ様の事をお好きだったのですか。
それは良くわかりますが少々問題が出てきますね」
「問題?」
「ええ。この国では基本的に重婚は貴族にしか認められていないのです。
そこに私とララさんがタクミ様に求婚しても今のままでは重婚出来ないことになってしまうのです」
「えっ?ええっ!!私がタクミと結婚!?」
ララが驚いた顔で僕を見る。
『いや、僕が一番驚いてるよ。それにいつの間にか僕がふたりと結婚する前提で話が進んでいることに突っ込みたいけど何も言えない雰囲気だし……』
「分かりました。それについては私に名案があります。
この際ですから以前より辞退されていた叙爵のお話をお受けになられて貴族になれば問題は解決しますわ。
貴族といっても一代限りの『名誉貴族』ならば領地経営などの責務からは除外されますので今までの生活に支障は出ないと思いますわ」
『いや、だから何で僕には意見を聞いてくれないの?』
「すぐさまお父様に進言して叙爵の手配をして貰わなければいけませんね。
そうだわ!私の成人披露パーティーと同時に発表すればいいのですわ。
タクミ様の叙爵。私の成人披露。そしてタクミ様との婚約発表。完璧ですわ!」
「僕の意見は……」
「タクミ様!私達と婚姻を結ぶのはそんなにお嫌なのですか?それとも私達の知らないどなたかと既に婚約されているのですか?」
メイシス王女がぐいぐい押してくる。隣でララも涙を拭きながら期待を込めた眼で見つめてくる。
『どうやら勝てそうにないか……』
「分かったよ。ただし幾つか条件があるからね。
まずはララ。今の姿で婚約したら別の噂がたつことは回避出来そうにないから前に王宮に行った姿まで成長させてから定着出来る魔道具を作るよ。街の人達への説明を考えないとな。
次にメイシス様だけど本当に後悔されませんね?できる限りの事はするつもりですけど無責任なようですが保証はないですよ」
「勿論構いませんわ!それが私の一番の望みなのですから!」
「分かりました。そこまでの覚悟があるのでしたらメイシス様の命が尽きるまで傍にて支えていく事にします。
勿論ララもしっかり鍛えて僕の右腕になってもらうからね。ふたりともよろしくお願いするよ」
「「はい!」」
その後メイシス王女の講習も無事に終わり、運命の日を迎えるのであった。
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