第25話【閑話 メイシス第3王女の婚約事情と秘めたる野望】
「上手くいきましたね。お父様」
「うむ。完全ではないが最低限の繋がりは残せたようじゃな」
タクミ達が帰った後、出来たお菓子と紅茶でメイシス王女と国王陛下が打ち合わせをしていた。
「しかし、錬魔士殿は頑なに婚約を拒否してきおったのぅ。
普通、国王から娘を嫁にやると言われて拒否する者などおらぬと思っておったがいやはや頑固なものじゃ」
「お父様。錬魔士様は重大な何かを背負っているのだと私は思いますわ。
ああ、あのお顔を思い出すたびにますます恋焦がれてしましますわ」
「すっかりその気になってしもうたが本当にあの男で良いのか?」
「この話はお父様から切り出したものだと思いましたが、それもいまさらですわ」
「いや、お前はまだ成人しておらんから婚約の話は全て断ってきておったが水面下では色々な所から縁談の話が来ておるんじゃ。
殆んどが伯爵以上の嫡男にとの話じゃがどうも今一つお前に見合う相手が見つからなかったんじゃ」
国王は紅茶を一口飲んでから話を続けた。
「そんな時にお前の魔法属性検査があり、錬金術の素養がありとの結果を聞いて閃いたんじゃ。
数々の発明をこなし、人々の評価も高く、精霊達を従える能力の高さと人柄、断られておるが叙爵を与えても取り込みたい人材として、そしてお前の錬金術の能力を高めて国の錬金術部門のリーダーとなってもらう為にあの男に嫁いで貰いたかったんじゃ」
「私もお父様からこの話を伺った時は名が知れた錬金術士とはいえ平民と婚約させようとされた真の目的が分からずに反発してしまいましたね。
でも私なりに錬魔士様のことをお調べするたびにお父様の選ばれた方の素晴らしさに気がつきましたの。
あの方を知ってしまったからには他の殿方のなんと能力の低い方ばかりなのかとウンザリしてしまいましたわ」
メイシス王女は今日の講習で作られたケーキを一口食べて言った。
「やっぱり美味しいですわね。
本来料理は何年も修行した料理人が試行錯誤を繰り返してようやく納得のいく料理が出来るはずですのに錬魔士様は何処からかレシピを持ってきて錬金術で一流の料理を作り上げてしまわれるのですわ。
きっと今までの概念などあの方には通用しないのでしょうね」
「そうじゃな。
だからこそあの男にはわが王族と深い関わりを持たせたいんじゃよ。
ただあの男は政治的権力には全く興味がなく、叙爵はおろか過度の報奨も不要と断る始末。
あまり強引にやり過ぎると国外に出るとも言われておる。
そこで錬金術の素養を持つお前ならばあの男も邪険にはしないと踏んで今回の依頼を出して接点を作ったのじゃ」
「そうですわね。
ご本人も然ることながら一番弟子のララさんもかなりの力を秘めている様子で驚いたのですが、錬魔士様から見ると『まだまだ』との評価でしたのでそれにはかなりびっくりしましたわ」
「とにかくお前には3ヶ月の間に何としてもあの男を落として欲しいんじゃ。
実の娘に言う事ではないかも知れぬがすまぬが頼むぞ」
「はい。私もあの方が大変気に入りましたので是非とも婚約にこぎ着けたいと思いますわ」
ふたりは頷きあって部屋に戻った。
そして王女の部屋では……。
『明日からいよいよ直接指導に入るのね。
今日は断られたけどまだ3ヶ月もあるし、まずは錬金術の基礎をしっかりと勉強して私の才能を認めて貰わなくちゃ駄目ね。
ああいう殿方は出来る女に弱いものと何かの本に書いてあったわね。
能力が無いのに変に自己顕示力ばかり高い殿方は女が台頭してくると露骨に邪魔をしてくるけどあの方は全くそんな素振りもない。
あの弟子のララさんがいい例だわ』
メイシスは寝間着に着替えてベッドに入り明日からの事を考えた。
『とにかく私の武器を身に付ける事が最優先ね。
なんと言っても所詮私は第3王女。
王位継承権はおろか自由も効かず、精々が上級と言えども田舎貴族程度の正妻に政略結婚に出されるのが関の山。
けれど今回錬金術の素養が見つかりチャンスが巡ってきた!
錬魔士様と婚姻を結べば王家の束縛からも貴族の面倒なつき合いからも逃げられるし、錬金術で国を財政面から牛耳ってやるわ!
錬魔士様は婚姻から逃げてらしたけど、いざとなればこっちから既成事実を作ってでも勝ちとってみせるわよ!
うふふふふふふ。覚悟しなさいよ錬魔士様!』
なんとも色々な事に積極的なお姫様だった。
そのころタクミは……。
「ハクション!ハクション!ハークション!!」
「くそー。誰かが噂してやがるな」
明日からの苦労には気がつかずに呑気に過ごしていた。
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