第21話【王宮での料理錬金指導 その一】
翌日、王宮からの迎えの馬車に乗り込み僕達は少し緊張しながら門を潜った。
「うわー!凄く大きい王宮ね!私初めて来たわ!」
門を潜ると見えてきた王宮にララが感嘆の声をあげた。
まあ、普通は王宮に呼ばれたり自分から行ったりはしないから滅多に見る事はないだろう。
実際僕達も数回しか来たことは無いし、王様やお姫様に会うのも数える程しか無かったりする。
「ようこそお越しくださいました錬魔士様。
会場の準備はできておりますが先に少々打ち合わせをお願いします。
会場の側に控え室を用意しておりますのでそちらにお願いします」
城の入り口で執事の男性が丁寧に案内をしてくれた。
「こちらになります。直ぐに担当の者が参りますので少々お待ち下さい」
僕達は案内された控え室で使う道具のチェックをしていた所へドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。本日のイベントを仕切らせて頂きます『ハーツ』と申します。
錬魔士様にはこの度の依頼を受けてくださりありがとうございます。
本日の予定の確認と注意事項をさせて頂きます」
ハーツと名乗った男性はイベントの流れや参加者の名簿・注意事項を順番に説明していった。
「今回予定していた参加者は王宮付きの錬金術士と料理長及び副料理長だったのですが、急遽『第3王女殿下のメイシス様』が参加される事になりました。
メイシス様は錬金術の素養がありましてこの度錬魔士様にお越し頂きましたので是非お会いしたいと申されまして決まりました。
すみませんがよろしくお願いします」
「えっ?第3王女様が参加されるのですか?
それは失礼のないようにしないといけませんね。
流れは基本的に最初の予定通り料理の指導と言うことでよろしいのでしょうか?」
「はい。それで問題ありませんのでよろしくお願いします。
それでは会場に案内しますので使用される素材や道具の準備をお願いします。
準備が出来次第受講される方々をこちらにお呼びしますのでお知らせ下さい」
ハーツはそう言うと僕達を会場に案内し、素材を置く場所と錬金釜を設置する場所を説明してから部屋の入り口付近で準備作業を見守った。
「よーし素材と道具の準備をするぞ。シール!頼んだよ!」
「はーいマスター了解なのだ」
ドサドサドサッ。ドンドンドン。チャッチャッチャッ。
「とりあえず予定の素材と錬金釜と道具一式を取り出したのだ」
シールは異空間収納アイテムボックスに入れていた道具を取り出して並べていった。
「ありがとうシール。いつも助かるよ」
僕はシールにお礼を言うと素材と道具の最終確認を済ませてハーツに準備が出来た事を伝えた。
「
制御魔力の多さから人族では使いこなせないと言われている魔法を使える精霊を従えているとはさすが錬魔士様ですね。
準備完了了解しました。
直ぐに参加者をお連れしますので少々お待ち下さい」
ハーツはそう言うと入り口のドアを開けて参加者の待つ部屋へ向かった。
「シールの異空間収納アイテムボックスは希少な魔法だけど存在自体は結構認知されているからそれほど驚かなかったな。
まあ、あまり態度には出さなかったけど内心はどうだか分からないけどな」
僕は参加者がくるまで皆と雑談をしながらサプライズ用の素材を出すタイミングをシールに指示しておいた。
* * *
「お待たせしました。こちらが今回の料理錬金術の講習参加者になります。
左から総料理長のナリフさん。隣が副料理長のフォクスさん。次が錬金術士のスプルスさん。その隣が第3王女殿下のメイシス様。最後に王女殿下付き侍女のサフィとなります」
「ナリフと言います。
総料理長を任されています。
今回の講習は料理錬金との事で通常の調理とは異なるでしょうが何か新しい料理のヒントとなればと思い参加させて頂きました。
よろしくお願いします」
「副料理長のフォクスです。
総料理長のサブを努めております。
私も錬金術は使えませんが新たな味の探求に役立てたいと考えています。
よろしくお願いします」
「王宮付き錬金術士のスプルスです。
本日は錬魔士様の指導を頂けるとの事で是が非でもと志願させて頂きました。
錬魔士様は私ども錬金術士の憧れであり目指す頂きの存在です。
なにぶん力不足かとは思いますが一生懸命やりますのでご指導をよろしくお願いします」
「第3王女のメイシスですわ。
この度は錬魔士様が王宮にいらっしゃるとの事で是非お会いしたいと思い無理を言って参加させてもらいましたの。
時々侍女のサフィに教えて貰いながらお菓子を作る事はありますが自ら厨房に立つ事はありませんので今回も私に出来る事はあまり無いかもしれませんがよろしくお願いしますね」
「侍女のサフィです。
今回はメイシス王女殿下のサポートを仰せつかりましたので同席させて頂きました。
よろしくお願いします」
参加者の自己紹介が終わったのでこちらもメンバー紹介をする事にした。
「錬魔士のタクミです。
先ずは第3王女殿下メイシス様にはお初にお目にかかるかと思いますがご参加頂きました事嬉しく思います。
是非錬金術の良さを感じて頂けると幸いに思います。
次に総料理長、副料理長、王宮錬金術士の皆さんこの度はご依頼ありがとうございました。
依頼の内容は把握しておりますので出来る限り習得出来るようにサポートしていこうと思っていますのでよろしくお願いします」
僕は挨拶を済ませると横に控えているメンバーの紹介をしていった。
「僕の隣にいるのが弟子のララです。
僕から見ればまだまだ駆け出しですがセンスはかなりの物を持っていると思っています。
今日は彼女にも手伝ってもらう予定です。
その隣から4名は道中の護衛として動向して貰ったミスドとセジュ。
素材や道具の運搬をお願いした
最後に僕の身の回りの世話と事務・秘書兼任のミルフィです。
基本的に講習は僕と弟子のララが行いますが素材の出し入れ等でシールが、雑務でミルフィが時々フォローにはいる事もありますのでご了承下さい」
僕は参加者の皆が頷くのをみてから開始の宣言をした。
「それではご依頼の料理錬金講習を始めさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
参加者を代表して総料理長のナリフが答えた。
今回は王女殿下も参加しているがどちらかと言うと見学の意味合いが強いらしいので王女殿下本人の意向もあり、ナリフが対応する事になったらしい。
「それではまずひとつめの料理『チョコレートケーキ』を作ります。
実はこのお菓子は料理錬金で作らずとも通常の調理でも作る事が出来ます。
ただし、料理錬金で作るよりかなり手間がかかって大変ですが……」
その言葉に総料理長のナリフの目が光ったように見えた。
「それは本当ですか?ならば是非作り方を教えて頂きたい!」
僕は内心『しまった。余計な事を言ってしまったな』と後悔しながらも笑顔で「分かりました。ミルフィそっちの説明は頼めるかな?」とミルフィに丸なげをした。
「了解しましたですのマスター。シール、材料のストックはまだありますか?」
「大丈夫なのだ。失敗したときの為に多めに持ってきたから余裕はあるのだ」
シールはそう言うと必要な素材を取り出してミルフィに渡した。
「少し話がそれてしまいましたが始めさせて頂きますね。
まずは僕が先に見本を作りますので皆さんはよく見ていて下さい。
ナリフさんはミルフィが普通の手順で作りますのでそちらのキッチンで個別に講習を受けて下さい。
スプルスさんは私の横で特によく見て下さいね。
ララもやり方は分かるかも知れないけれど一応おさらいはしておくようにな」
「「「分かりました」」」
皆が錬金釜の廻りに集まってきたので僕は素材の説明をしながら錬金釜に入れる順番と量をレシピどおりに分けていった。
「それでは始めますね。
先ずはチョコレートの原料素材を入れますが苦味を多くするなら多めに、逆にマイルドにするなら少なめにします。
一応レシピには標準の分量で記載されていますので覚えておいて下さい。
それに甘味料を入れて魔力液を原料に対して同分量入れます。
お好みでフルーツソースを入れてもいいかもしれませんが今回はシンプルに作りたいと思います」
錬金釜に必要な素材を入れると出来上がりの味を思い浮かべてかき混ぜながら呪文を唱えた。
「よし、出来たみたいだな」
僕は錬金釜から茶色い物質を取り出して深皿に入れた。
「これがチョコレートになります。味に関しては試食してもらえると分かるかと思います」
周りで見学していたメンバーは次々と出来上がったチョコレートを味見していった。
「これは美味しいですね。
甘味の中に僅かな苦味と味の深みが凄いです。
このような物が存在するとは思いませんでした」
副料理長のフォクスはチョコレートの味に深く感動して感嘆の声をあげていた。
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