走れ大学院生

精神崩壊太郎

第1話 走れ大学院生(前編)

大学院生は激怒した。

必ず、かの邪知暴虐の教授を除かなければならぬと決意した。

大学院生には研究のことがわからぬ。大学院生は大学の院生である。

大学院生とはサークル等で遊び、家でネットして遊んですごす人間のことである。

けれども大学の闇に関しては人一倍に敏感であった。もうそりゃビンビンですよ。


きのう大学院生は自宅(賃貸)を出てコンビニを越え、餃子の王将を越え200メートル離れた大学へ久しぶりにやってきた。

大学院生には仕送りする父と母がいる。そして家では同年代の脳内恋人と二人暮らしである。

大学院生は近々この脳内恋人と式を挙げる予定であった。大学院生はそれゆえ、花嫁の衣装や祝宴の馳走のインスピレーションを得るため大学の購買へやってきた。大学院生には竹馬の友があった。大学院生(化学専攻)である。

大学院生(化学専攻)とは全く理論のない再現性皆無の理不尽学問である化学を専攻している、頭のおかしいやつである。あまり会いに行きたくはない。

あるいているうちに大学院生はあたりの雰囲気が暗いのに気づいた、もう夜も近いのだが、それとは関係なく大学構内が何となく寂しい。


のんきな大学院生もだんだんと不安になってきた。そこでそこら辺をほっつき歩いていた学部生の顎をつかんで体を揺さぶりながら質問した。

学部生は突然の理不尽をこらえながらなんとか答えた。

「教授は、大学院生達を殺します。」

「なぜ殺すのだ。」

「悪心を抱いているからです。反論の余地もなく。」

「たくさんの大学院生達を殺したのか。」

「はい、はじめは大学院生(数学)さまを。それから、大学院生(物理)を。それから、大学院生(生物)を。」

「おどろいた。教授は乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。むしろ大学院生達が乱心しております。きょうは、六人殺されました。当然のことです。」

聞いて、大学院生は思った「そりゃそうよ。」


大学院生は単純な男であった。なんとなく教授室の近くに言ったら捕縛された。

大学院生は教授の前に突き出された。

「教授室の前で何をするつもりであったか。言え!」教授は静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。

「なんとなく」大学院生は悪びれずに答えた。

「じゃ、磔で泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」

大学院生は言った「私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、私に情をかけたいつもりなら、大学院生(化学)を磔にしてください」

そして大学院生(化学)は磔にされて死んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る